第22話

 今日は転校初日なのに、裸族な女子たちと密着したり、露出な忍者の落とし穴に嵌って溺れそうになったり、物置部屋で京香のダンス三昧だったりと、とにかく忙しかった。

 午後の授業のサボりは、難病の発作を起こした俺を女子たちが看護していたと、生徒会長がウソの言い訳をしてくれた。絶対バレると思ったけど、先生はあっさり受け入れた。生徒会長の御威光、ハンパねえ。

 そんで、いまは無事文谷家に帰って、家族みんなで晩飯を食ってるさ。

 本日のメニューは、ネギがいっぱい入った肉ナシの卵チャーハンに、シソの葉っぱとキャベツのサラダ、ネギだけの味噌汁だ。

 シソの葉っぱは、下校途中に道ばたに生えていたやつを、京香が嬉々としてむしり取り、キャベツは近所のスーパーで野菜くず入れにあった上っ葉を、お母さんがウサギのエサにするといって強引に持ってきた。

「オッサン店員がダメですって言うから、抱きついて胸をグリグリしたのよ。そうしたら全部持っていっていいって」

 色仕掛けかよ。

 しっかし、どんだけもらってきたんだ。キャベツの千切りが皿に五十センチは積もってるぞ。

「お母さん、オッパイをなすり付けるんだったら、もっといいモンもらって来いって。細切れの肉とかさあ」

 この娘、母親以上にがめついぞ。

「ちゃ~はん~、おい~しい~の~」

 亜理紗だけは天使だなあ。

 小さくて可愛い顔が、一生懸命に卵だけチャーハンを頬張ているよ。この小さな天使に、焼き豚入りチャーハンを食べさせてやりたい。大きなエビ入りチャーハンも、腹いっぱい食わしてやりたいんだ。

 貧しくても楽しい夕食が終わり、風呂入って就寝の時間になった。

 は~あ、今日は疲れた。両親の遺骨をこっちに戻したから、俺も寝るとするよ。

 おやすみ。

「ふんぎゅっ」

 うとうとしていたら、誰かに顔面を踏まれた。

「ちっこ~」

 亜理紗だよ。はいはい、わかりましたよ。怖くてひとりでトイレに行けないからな。俺が連れて行ってやるよ。

「チッコ、したか」

「ちた~」

 よし、じゃあ、自分の布団に戻るんだよ。俺も寝るよう。

 ん。

 うとうとしていたら、なんか気配がする。なんだろう。

「うわっ」

 寝てたら、目の前に女の顔がある。女が俺と一緒に寝てるよ。な、なんだ。

「しっ、大きな声出すなよ。お母さんに聞かれるだろう」

「京香」

 京香だよ。

 なんで俺の布団に潜り込んできたんだ。

 え、まさか、そういうことか。だ、男女の仲になりたいってことか。夜這いってこと? マジか。

「今日さあ、わたしたち、制服を脱いで恭介にくっ付いたじゃん」

「え、ああ、まあな」

 昼間のことか。なんだよ、今頃になって怒られるのか。

「あれさ、餡子がね、脱いでいたからだよ」

 ええーっと、まあ、そうだろうなって思ってたよ。

「餡子があんな格好してるのに、わたしがそのままっていうわけにはいかないからさ。あの子、けっこうおもいきったんだよ」

 それはわかっている。

「立花さんは、あの臭い制服を脱いで抱きついたのは、俺が初めてだって言ってたよ」

「え、餡子がそういったの」

「そうだよ」

 京香が意外そうな顔してるな。もちろん暗くてよく見えないけど、そういう雰囲気を感じるんだ。

「うん、わかった」

 なにがわかったのか俺にはわからないが、とにかくなにかがわかったんだろうな。

「だから、恭介。わたしとか熱海とか桜子とかは、面白がって男の前で裸になるような女じゃないからな。勘違いしないで」

 わかってるよ。生徒会長だけ恥ずかしい思いをさせたくなかってことだろう。

「じゃあ、お休み」

 京香が俺の布団からでて、自分の寝床に戻る。

 結局、昼間のことを釈明にきただけか。ふう、なんだか緊張したぜ。あの経験をするのではないかと、ちょっとばかりビビったよ。

「あとそれから、明日は放牧だから」

「え、ほ、ほうぼく」

「じゃあね、お休み」

 ほうぼくって、なに。意味わからんぞ。この家、羊でも飼ってるのか。それに、明日は休みだろう。

 え、ほうぼく?

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