第21話

 それにしても、壮観な眺めだ。

 まず濡れ濡れの女子たちの服が、もちろんパンティーやブラまでが、ものの見事に吊るされてるんだ。ズラーっとさあ、

 部屋を横断するようにロープを張って、そこに濡れた衣服をかけて乾かしているんだけど。俺のパンツの横に、半ペー子の盗品トランクスがあるのはご愛敬だ。

「恭介、下着をジロジロ見るなよ。へんたいなのか、この、ドスメタル」

 ははは、京香に叱られてしまった。もちろん本気じゃないよ。本人は笑ってるし、みんなもクスクスしてる。

「ストーブを囲んで暖まるのもいいですね」

「そうそう。なにせ外は豪雨で、気温も冬みたいに下がってるし。この暖かさってたまらないわ」

「さっきまで晴れててめちゃ暑かったのに、いきなり寒くなるんだもんなあ。異常気象だよ」

 裕也を除いたみんなで柔道着をきてるんだけど、生徒会長と委員長は胸の谷間がチラついてるって。京香はしっかりと胸元を閉じてるさ。きっと寒いんだろう。

「なあなあ、僕をそろそろ解放してくれてもいいんじゃないかな。どうして文谷君はよくて、僕はだめなんだよ。これは不公平だよ。人権侵害なんだよ」

 裕也は相変わらず、ズタ袋をかぶらされて、パイプ椅子に拘束され続けている。

「裕也はエロいことばかり考えてるからだめなの。シャケナベイベー」

 熱海は、よくわかってるよ。たしかにこの状況では、エロオタクを野放しにできないわな。

 俺の頭の上には、生徒会長のデカブラジャーが干してあるんだけど、これ見ただけでこいつの目玉が顔面から落ちてしまいそうだ。

「あーあ。お腹すいちゃったよ。焼きそばパンだけじゃ足りないってさ」と半ペー子。

 この天然アホ忍者め。誰のせいで死にそうになったのかわかってんのか。つか、

「さっきから気になってたんだけど、その顔どうしたんだ。スズメバチの巣でも突いてきたのか」

 半ペー子の顔面が、すごいことになってるんだ。なんかもう、ボッコボコに腫れててさ。ヤンキーと戦ってきたのかな。

「桐生のやつがしつこいから、ボコって生徒指導室から逃げてきたんだよ」

 いや、ボコられたのはおまえだろう。しかも完膚なきまでに徹底的にボコられたはずだ。でも、いくらアホとはいえ、半ペー子は女の子なんだし、それをここまでボコボコにする桐生っていう先生、ヤバすぎだ。

 さてと、落ち着いてきたことだし、ここでみんなに言わなければならないな。

「みんな、今日はありがとう。俺なんかのために授業をサボって助けに来てくれてさ。すごくうれしいし、なんて礼をいったらわからないよ」

 ホントに感謝してるんだ。みんないい奴ばかりでさあ。この学校に来ることになった俺だけども、ちっとも不幸な気持ちにならない。

「恭介が悪いんじゃなくて、半ペー子が原因だからな。謝ることなんてないよ」と京香。

「とにかく半ぺー子さあ、穴を掘るのだけはもう止めとき。危なくて、おちおち校庭も歩けないじゃんか。こんどやったら、あんたが男のパンツ履いてるってことを学校中に言いふらすからね」

「そ、それはらめえ」

 メンズを履いているだけじゃなくて、それを盗んでいたりもするからな。

「ねえねえ、ここに大量のカップ麺があるんだけど」

 委員長がカップ麺を見つけたよ。ズタ袋に入ったカップ麺をもってきたさ。

「それ、野球部の人達が置いているんだよ。先生に見つかったら没収されるからって、物置に保管しているんだって」

 さすが、生徒会長は事情通だ。

「食べちゃおうか」

「食べる食べる。体がすっかり冷えちゃって、なんだかお腹がすいちゃったしな」

「そうそう、午後は小腹がすくのよねえ」

「あたしも、あたしも」

 おいおい、さっきおでんを死ぬほど食っただろう。まだ一時間くらいしかたってないぞ。それに、野球部の私物を勝手に食ったら怒られるって。

 あーあ、半ペー子がさっそく包装紙をはがして、具材とスープをセットしてるよ。他の女子たちも、我先にとカップ麺を開けている。女子って、ほんとよく食うよなあ。お湯はストーブにヤカンをのせていたから、もうグラグラと沸騰してるし。

「はい、これ、恭介っちの分」

 熱海から手渡されたのは、焼きそば激辛糖蜜味だ。なんだか錯乱したような商品だよ。

「文谷さん、カップ麺にこれ入れてみませんか。身体の芯から温まりますよ」と言って、生徒会長が干している制服のポケットから、小さなガラスの小瓶を取り出した。

「なにそれ」

「ジュロキュアです。冷えた体が芯から温まります。うふ」

 ジュロキアって、一番辛い唐辛子じゃなかったか。ハバネロより辛くて、食べると危険で、胃弱には致死性があるはずだぞ。

 うっわ。

 生徒会長が小瓶の蓋を開けたら、すんごく目が痛くなってきた。喉もひりひりするし、気のせいかビン越しに熱さが伝わってくる。なんやそれ、放射性物質か。

「河川敷に元農学博士のおじいちゃんホームレスがいるのね。そのおじいちゃん、畑を作って、遺伝子操作した最強の唐辛子を栽培してるんですよ、うふふ」

 河川敷を勝手に私物化するなよ。しかも遺伝子操作とか自然に反することはやめなさい。大根とか玉ねぎとかにしなさい。

 水中眼鏡をかけてゴム手を嵌めた巨乳な柔道女が、割りばしを使ってその危険物をビンから取り出して、さらに皮をほんの少しだけ削って、それを京香の知郎風こってり激豚ラーメンにいれた。そして、三分経ったから京香が食い始めた。

「うっひょー、辛えー」

「でしょう。ふふふ」

 生徒会長が意味ありげに笑ってるけど、大丈夫なのか。それと柔道着がちょっとばかりはだけて、乳の露出がハンパなくなってきた。もうすぐ見えそうで、やべえ。裕也が見たら、目玉どころか歯ぐきもとび出すだろう。

「暑い、暑い、熱い、あつっ、いた、いたっ、痛、痛い、痛いって、コンチクショウ」

 やっぱり死ぬほど辛いみたいで、じっとしていられなくなった京香が、動物園のチンパンみたいにウロウロし始めた。

「うっひょー、うっひょー」

 踊ってる。

 踊ってるよ。

 京香が踊ってる。口から熱波を吐き出しながらリズムにのってるって。しかも、なかなかキレがあるぞ。

「うっひょー」

 すんごくノリノリだ。京香、ヘンな薬でもやってんのか。

「これ、パラパラだよ」

 桜子の説明をきくまでもなく、これはパラパラだ。ネットでみたことがある。しかも音楽付きだ。委員長がケイタイでBGMをかけてんだよ。

 おっと、違うダンスになったぞ。

「これはジュリアナ東京ね。オッサンが好きだったやつ。扇子があれば、ばっちりなのに」

 古すぎて知らない。しかも、またまた違うダンスになった。しかも今度は振付が大げさで、見ていてなんか恥ずかしい。

「これはサタデーナイトフィーバー的なトラボルタよ」

 ジョン・トラボルタのことか。おっさん俳優じゃないか。

「今度はツイストとモンキーダンスと」

 もういいわ。どんどん古くなるじゃないか。原始人のウホウホ踊りまでやる気か。京香、どんだけ踊りが好きなんだよ。


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