第18話
「おまっ、こんな狭い場所で、すかすんじゃねえ。しかも、なんでそんなに湿った屁なんだ。もう少し軽いガスを出せなかったのか」
生徒会長の悪臭はなんとか我慢できるレベルだが、このピンク忍者の屁はキツいな。目に沁みて涙が出る屁って、この世の中にあり得るのか。なに食ったら、こんなになるんだろう。きっと腸の病気なんだ。貧乏過ぎて、内臓が腐ってんだよ。
「小太郎、なんで立たないんだよ。立たない男は男じゃない」
「性的に微妙な言い方するなよな。立ち上がろうとしたら、おまえの屁で腰砕けになったんだぞ。もう一回やるから、今度はしっかりと閉めとけよ」
「うちのプロパンガス、料金滞納してっから業者に元栓閉められてんだよ」
おまえの肛門のことを言ってるんだって。
よいっしょっ。
ふー、なんとか立つことができたぞ。これで半ペー子は地上に出られるだろう。
「ぐええっ」
半ペー子のやつが地上にあがる際に、俺の肩を思いっきり蹴りやがった。画鋲がさらに突き刺さったさ。
「おおーい、小太郎」
穴の上から半ペー子が覗き込んでる。よかった、無事に出られたんだな。
「あたしは地上に出たけど、あんたどうするの」
「出るに決まってるだろう。なに、とぼけたこと言ってるんだ」
ぶん殴ってやりたい。
「じゃあ、早く出てこいよ」
「俺一人じゃ無理だろう。上から引っぱりあげてくれ」
「引っぱるたって、手が届かいない」
半ペー子が腹ばいになって手を差し伸べてくれているけど、ぜんぜん届かないな。
「その辺にロープないのか」
ロープで上がるしかないだろうな。
「ロープはないけど、あたしのお母ちゃんだったら荒縄もってるよ。あと、拘束具とかローソクとか」
「SMかっ」
おまえの母ちゃんの性的趣向はどうでもいいわ。いま欲しいのは、俺を引っぱりあげる道具なんだって。
「お母ちゃん、若い男つくって家を出て行ったんだよ。そのあと、お父ちゃんが男手一つであたしを育ててくれたんだ。工事現場や警備員や路上でエロDVDの直販しながら、あたしを一人前のくノ一にしてくれたんだよ。雨の日も風の日も、道端で中学生相手にエロDVD を売りつけながら、一人娘なあたしを高校まであげてくれたんだって。なあ、泣けるだろう」
だから、おまえの家族の身の上話はいらないんだって。しかもエロDVDを中学生に売りつけるって、ただの犯罪者じゃねえかよ。なんで穴の底でそんな話を聞かなきゃならん。
「とにかくロープをもってこいよ」
早くここから出たいんだ。現在の俺の状況のほうが泣けるだろう。
な、なんか、ゴゴゴウウって重低音が響いてるぞ。なんぞ、これは。
「あ、やばい。めっちゃ雷鳴ってる。そんで雨降ってきた」
え、マジか。
のわあああああ。
なんだよ、いきなりの集中豪雨だ。バシバシと雨粒が地面に当たってる音が聞こえてくるよ。すんごく降ってるみたいで、穴の中に大量の水が流れ落ちてきた。
おいおいおいおい、これは冗談抜きでヤバいって。このままじゃ、俺、おぼれ死んでしまうじゃないか
「うわっ」
な、なんだ。
底が抜けた。俺の足元の底がぬけて、さらに一メートルほど落下した。きっと、雨水が流れ込んできたから、底が柔らかくなって地下の空洞に落ちたんだ。
「ああーっ、弥助が沈んでいくう。ど、ど、ど、どうしよう。こりゃ、無理っしょ。もうだめよ」
半ペー子のやつ、上でアタフタしているだけで助けにならない。相当パニくってるな。小太郎が弥助になってるし。
「わかった、いまヒラめいたよ。なんだよ、簡単なことだった。水とんの術をやればいいんだ。にんにん」
なんだよ、その水とんの術って。忍術で穴の水を吸い上げてくれるのか。忍者は、そんなイリュージョン的なこともやれるのか。
「忍法、水とんの術。はいっ、出ました」
いや、なんにもないぞ。
ていうか、落ちてくる水量が滝みたいになって、さらに悪化したって。そして足元がまた抜けたようで、俺がどんどん深みに嵌っていくんだが。
「あああああー、どぼじよう。水とんの術が利かないよう。なんか詰まってんのかなあ。おお~い、ツチノコはいますか~。お母ちゃんが作ったすいとん、食べたいなあ」
だめだこりゃ。
この女、妄想脳なだけに、まったく使い物にならない。ピンチから現実逃避してるって。
「おい、半ペー子。そこでグダグダしてないで誰か呼んできてくれ。できれば先生をたのむ」
「この穴、先生に見つかったらあたし退学になるよう。このまえ掘った穴に校長先生が落ちて、今度やったら退学だって言われてんの」
「だったら、なんで穴なんか掘ったんだよ」
「だって、あたしは忍者だし」
忍者は忍法やってればいいじゃん。なぜにドカタのマネするんだ。
「退学はダメだって。ぜったいダメなんだから。だって忍者は高卒以上じゃないと就職できないのっ」
そんな決まり、きいたことないぞ。
ええーい、どうする。このままでは水死するのも時間の問題だ。だけど半ペー子のあの様子じゃあ、先生たちを呼んでくれそうもないし。
そうだ。
「半ペー子、二年の教室に行って京香を呼んできてくれ。文谷京香だ。二年C組の」
こうなれば、京香に助けてもらうしかない。
「え、文谷京香とCまでやったの。八兵衛は童貞じゃなかったのか」
ど、童貞ちゃうわ。
もとい、童貞だった。
いや、だからあ、文谷京香は俺の妹で、そんで俺は昨日から文谷家にお世話になっている身で、兄妹なんだから、そんな不埒で性的な関係なんて、たとえ俺が望んでも無理だろう。って、なに言ってんだよ、この非常事態に。
ああーん、もう、説明するのが面倒くさいぞ。この女、バカそうだから理解するのに三日はかかりそうだ。つか、八兵衛って誰だよ。名前がどんどん遠くなっていくさ。
「とにかく二年C組に行け」と叫ぶしかない。
「あ、そうだ。あたし、これからさあ、家帰ってテレビで{幼女探偵、ほにゃ子の事件簿}みなくちゃならないんだった。すっかり忘れてたわ」
「おいおいおいおいおい」
ふざけんなよ。ここで見捨てられたら、間違いなく俺は溺死だよ。しかも、こんな深い穴の中じゃあ、死んでも誰も気づいてくれないって。もとはといえば、おまえの掘った穴なんだぞ。
「し~らね、っと」
あ、こらっ、まて。おい忍者、くノ一忍者、どこ行ったんだよ。俺をこのままにしていいのか。置き去りにする気か。
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