第15話

 ふー、食ったぞ。

 おでんをたらふく食って、胃袋が破裂しそうだ。カロリーも十分摂取したような気がする。 

「いやー、食った食った」

「美味しかったあ。やっぱ、餡子の持ってくる飯って最高だよ」

「そうそう」

「ふふふ」

 ブラとパンツだけの女子たちが、満足そうに下腹を叩いているよ。もうそろそろ服を着てもよさそうだけど、この眺めも捨てがたいからな。余計なことを言わないでおこう。あーあ、動画撮りてえ。

「あ、やっべ、桐生が来るぞ」

「え、それはマズい」

「誰か来たのか、京香」なにがマズいんだよ。

「生徒指導の桐生だよ。暴力教師で有名なんだ。殺人の前科があるって奴なんだよ。五人ぐらいはヒットマンしてるんだって」

「そうそう。元ネイビーシールズで、カルテルの処刑動画にでてるって」

「こんなとこ見つかったら、恭介は張り倒されて、たぶん、背骨を折られるよ」

 そんなに恐ろしい教師がきたのか。それはヤバいぞ。俺の背骨の危機だ。

「ここでおでん食ってたことバレるかな」

「やっぱ、外でおでんはマズいよね」

 いやいや、おまえら。

 おでん、うんぬんよりも、ほぼ裸でいることのほうが異常事態だろう。しかも、その輪の中に男子がいるんだぞ。俺だけど。

 これ、どう見ても不純異性交遊プラス、青少年保護条例違反だって。個人撮影で、ネットで生配信してるって思われても言い訳できないぞ。俺の背骨、ボッキボキにされてしまうよ。

「みんな、くっ付きましょう。階段の陰に入りきれば、向こうから見えませんし」

 生徒会長が、オッパイをプルンプルンさせながら提案してる。たしかに階段の陰の部分に全員が入れば、向こうからは見えないからな。ナイスなアイディアだ。

「そうだよ、一塊になって隠れて、あいつをやりすごそう」

「でも、ここ狭いからギリだな」

「大丈夫だよ、密着すれば」

 おいおいおいおい。

 裸族的な女子たちが、俺を中心に塊になり始めたぞ。俺がコアとなって、その前後左右に、ブラとちっさパンツの女子が密着してるってさ。そんで、非常階段の陰に隠れて、シースルーのギャングをやり過ごすんだとさ。

 あああああああああ。

 なんということでしょう。

 俺の右手に委員長の巨乳が、左手には生徒会長の巨乳がめり込むように密着しているさ。さらにさらに。

 俺の尻には熱海のぷりんぷりんの尻がくっ付いているんだ。なぜか、この女子は後ろを向いて密着してるんだよ。ふつうは身体の正面からくっ付くだろうが、ケツ自慢か。

 そして、もっとも重篤な症状は、真正面に京香がいることだ。よりによって、ブラとパンツだけの京香だよ。

 もうゼロ距離なんだ。いや、マイナスといっていい。だって、俺の胸に京香の胸が押しつけられて、くにゅ~って、つぶれてるんだよ。この柔らかさはさあ、絹ごし豆腐を超えてるだろう。世の中に、豆腐よりも柔らかいもんがあったんだな。カドに頭をぶつけて死にてえ。

 や、やべえ。

 反応してる。反応してるって。

 俺の唯一無二の親友で、俺の一部であって息子である泌尿器が、これでもかーっ、元気ですかーっ、って直進してるって。90度よりやや上方に向けて、早朝のタケノコのようにグングンと成長してるよ。MY息子グングンだってさ。

 ちょちょちょ、待ってくれよ、俺自身。

 この状況でそんなことしたら絶対に勘違いされるだろう。パンツ一枚しか履いていない状況なのに、そんなに充血したら、アカンって。痴漢だヘンタイだって罵られても、言い訳できないだって。

 ヤバいぞ、ヤバいぞ。な、なんか違うこと考えろ。オッパイやわらけえとか、尻がプルンプルンだとか考えるからそうなるんだ。

 ええーっと、そうだ。フェルマーの最終定理について考察しようか。

 ええーっと、最終的には巨乳は正義であって、ツンとすました京香の美乳は極上っていう定理だな。

 だから、違うって。そういう生臭くて生エロいことを考えるなっつうの、俺。シバくぞ、俺。

 そうだ、日本史でいこう。やっぱ、気持ちを落ち着かせるには日本史だよな。信長でいこうか。ゲームでもよくやったしな。

 ええーっと、信長は殿様であるから、やっぱ権力者になると巨乳をはべらかせて、そんでツンと上を向いた京香の美乳が、って。

 だからだから、そこから離れなさいって言ってるっしょ、俺。もう、なんだよ、ホントに。今はダメなんだってさ。

 ああー、もうダメだ。

 京香がめっちゃ俺を見ている。猛禽の、タカのような鋭い目で俺を見つめているよ。

 そりゃそうだろう。だって、すでに京香のへその下あたりに俺の海綿体でカメの頭的な物体が、パンツ越しとはいえめり込んでいるのだから。

 手遅れだから、ははは。おまえはもう死んでいる。

 暴力教師が目の前を通過中だから静かだが、これ、きっと京香が発狂するよ。

「このヘンタイ、なに考えてるのよっ、ドスメタル、ハダカデバネズミ、死ね死ね」なんて、猛烈に罵倒されるんだろうな。

 いや、それで済まないな。きっとこれから卒業するまでシカト地獄で、しかも学校中の女子全員から口をきいてもらえないよ。文谷家も追い出されるだろうな。亜理紗にヘンタイだのロリコンだの言われるのは辛いなあ。あんなかわいい幼女に無視されるのは辛いって。もう顔も踏みつけてもらえないよ。

「ようし、桐生がいったぞ」

「よかったね」

 まったくよくないって。

 おそらく、あと二秒で京香が爆発するはずだ。罵詈雑言をあびせられて、ビンタされること必須だろう。いや、グーで殴られるな。場合によっては、マイナスドライバーを眼窩から脳ミソに突っ込まれるかもしれない。ロボトミーかよ。

 ああ、こんな絶望的な気持ちになってるのに、俺の息子さんはいまだに元気いっぱいで屹立してるよ。ちっとも縮まない。だってさあ、極上巨乳とプル尻と激カワ女子が目の前だよ。萎えるわけねえじゃんか。そんなの、インポッシブルに決まってるじゃん。

「ちょっと、恭介」

 はい、きた、きましたよ。

 これにて俺の人生終了。俺としての矜持が、じ、endデス。

 もう諦めますよ。存分に罵ってくださいな。電車で痴漢をしたオヤジをシバキ倒すがごとく、存分にやってもらって結構ですよ。

「気にするなよ。こういうのって、仕方ないからな」と京香が言う。

 え。

「なになに、恭介っちがどうかしたの」

 熱海が嬉しそうに俺の背後から頭を出して、俺の下の方を見下ろしたよ。当然、委員長と生徒会長も気づいているさ。

「おおー、恭介っちのって、けっこう立派じゃん。まあ、この状況でそうならないほうがヘンだって。健全でよろしい」と言って、バシバシ俺の背中を叩くよ。

 え。

「たしかに仕方ないですね。いえ、かえってこうならなかったら、私たちが評価されていないってことです。文谷君、私はうれしいですよ」

「そうそう。女の子好きでよかった」

 左右の巨乳が、そう言うんだよ。

 え、ええーっ。

 おまえら、なんでそんなに物分かりがいいんだよ。俺のこの状態、あきらかにヘンタイなんだよ。三丁目のなかよし公園に出没する中年の露出魔と同類なんだって。

 どうして、そんなに優しく接してくれるんだよ。ポシティブすぎるにもほどがあるって。なんていい奴らなんだよ~。もう、四人とも嫁にしたいくらいだよ。  

「さあ、飯も食ったし、教室にもどるか」

「そうだね」

 四人の女子が、何事もなかったかのように服を着始めたぞ。

 って、臭っ。

 生徒会長が制服着たら、めっちゃ臭いわあ。だけど、なんだかクセになりそうな気もしてきた。中毒になる男子がいるのもわかるな。

「恭介っちも服着たほうがいいよ」

「あ、ああ」

 しかし、俺の息子さんの膨張が治まらず、なかなかズボンが履けないんだよ。いま気づいたけれど、けっこう大きかったんだな、俺。

「なにしてんの、恭介っち。もう、お昼休み終わっちゃうよ」

 そんなこといったって、引っかかってしまってズボンが履けないんだってさ。

「恭介、ひょっとして自慢してんの」

 さすがに、それはないぞ、京香。俺だって制御不可能で困ってるんだよ。その原因を作ったのは、おまえらなんだからな。

「しょうがないなあ。収納するの、手伝ってやるよ」

 あ、こら、熱海、なにすんだよ。俺の大事なモノを握りしめるんじゃない。パンツの上からでも、それは反則だっての。ちょっと駅員さん、痴漢がいますよー。

「じゃあ、曲げるね」

 グギッ、

 のおおおおおおおおおおおおおおおおーーー、オオおおー、折れた。

 男心とともに、アソコも折れました。すっかり萎えてしまったよ。雨の次の日に、アスファルト上で干乾びているミミズさんくらいに瀕死になりました。ありがとうございます。おかげさまで、ズボンに引っ掛からずに小さく収納することができました。あまりの痛さに、死ぬかと思ったよ。

「じゃあ帰るかいな」

「恭介、服を着たらすぐにこいよ。もう、授業が始まっちゃうからな」

「私は調理器具を返してから行きますね」

 京香と熱海、委員長が行ってしまったよ。鍋や電磁調理器の片づけがあるので、生徒会長だけは残ってる。相変わらず厳しい臭いだが、少し慣れてきたかな。そんなに不快でない。

「立花さん、俺も手伝うよ」

 ただでおでんを食わせてもらったんだ。後片付けぐらいはしなきゃならんだろう。

熱海に折り曲げられたアソコがジンジンと痛むが、ここは我慢でしょう。ってか、尿道とか大丈夫だったんか。オシッコしたら、途中で水漏れとかするんじゃないだろうな。

「大丈夫だよ。私一人で平気だから」

 まあ、俺が手伝っても邪魔になるだけかもしれない。

「それと文谷君」

 生徒会長が、かしこまった顔して俺を見ているさ。制服の激臭がなければ、ほんとに天使だよ。

「ん、なに」

「私ね、男子にね、あんなことしたの文谷君が初めてだから。誰にでもしているわけじゃないから」

 そう言って、生徒会長が非常口のドアを開けて、鍋や調理器を持って行ってしまった。ちなみに非常口ドアの鍵もってたけど、あきらかに盗んだと思われる。生徒会長って、やりたい放題だな。

 いやいや、そんなことよりも、なんであんなこと言ったんだ。

 俺は彼女に抱きつかれた最初の男ってことか。

 立花さんは、裸になって誰にでも抱きつくビッチ女ではなかったのと、彼女がわざわざ俺に自分のニオイを嗅がせた最初の男だということが、ダブルの意味で嬉しいさ。なんか、ほっとした。


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