第13話

 いま、校舎のまわりをあてもなくさ迷ってるけど、せめてくさい棒イカ味くらいは貰っておけばよかった。晩ご飯までもたないかもしれないし、そもそも文谷家の晩ご飯にカロリーを期待できないよ。

 食い物も金もなし、どうしよう。光合成でもしないと死んじまうんじゃね。

 とりあえず、誰もいない芝生に体育座りでもして時間をつぶすか。

 お、校舎の外非常階段に生徒会長がいるじゃないか。昼飯時なのに、あんな暗くてジメジメした目立たない場所でなにやってるんだろう。ヒマだし、ちょっと声をかけてみるか。

「あのう、立花さん」

「あら、文谷君じゃないの。こんなところでどうしたの。お昼は食べたの」

 なにって、同情されるのが泣けてくるから教室を逃げ出してきたとは言えないな。

「べつに。ちょっと校舎の全体像でも見ようかと思って」ウソですよ、はい。

「へえ、そうなんだ、私はいまからお昼なの。そうだ、文谷君も一緒にどう。たくさんあるから食べていってよ」

 え、マジか。

 でもさ、それはちょっと微妙だぞ。

 熱海や委員長のお弁当は、内容の悲しさが極北の10倍に到達しているけど、なんだかんだいって家は普通にあるしな。

 それに引き換え、この巨乳の生徒会長は悪臭漂うホームレスだ。どんな怪しいところから食材を仕入れてきたかわかんないし、衛生的に、ちょっとバイオハザートな要素があるんじゃないか。

「いや、やっぱ悪いからさあ」

 ここは遠慮しておこう。腹でもこわして医者にでも行こうものなら、それこそ文谷家は破産だからな。空腹のままなら金はかからないし。

「私はグリューネワルト第三帝国の第四十七王女であるぞ。そなたごとき下賤の輩に断ることなどできないのだー」

 巨乳のホームレス生徒会長が、両手を腰にあてて、めっさ偉そうにしてるよ。

 あひゃあ、ヤバい。これは、ヤバいパターンだ。

 あまりの不幸な境遇に、頭がイッちゃったのか。現実逃避のあまり、心はもう、異世界あたりをグルグル回ってるんだよ。私、異世界でホームレス生徒会長な第四十七絶倫王女であります、って小説が書けそうなくらいにさ。

「なあんてね。内野君だったら言いそうだけどさ」

 なんだ、冗談かよ。一瞬、本気でイカれてるんだと思った。

「文谷君は、私のことが不潔だと思ってるんでしょう」

「べ、べつにそんなことは」

 なんかこの学校のやつらって、妙にサイキックじゃないか。

「汚い女はイヤ?」

「だ、だから、汚いなんて思ってないし」ウソです、めっさ汚いと思ってますけど。

「女はねえ、汚れてなんぼなのよ」

「え」

 おおーっ、とおお。

 生徒会長が、いきなり脱ぎだしたぞ。汚いセーラー服を脱いで、スカートをずり下げましたとさー。

 おひゃあ。

 な、なんやこれ。なにが起こってるんだっ。なして生徒会長が俺の前でストリップしてるんだ。ここはネットか。こんなこと、ネットの中でしか起こりえないだろう。なんかの個人撮影か。

 あっはーーーー。

 ブラとパンツだけになったよ。生徒会長で第四十七王女だか知らないけど、スッポンポン一歩手前の姿で、俺を見つめているさ。しかも学校だぞ、ここ。場所的に興奮するやろ。

 うっひょー、生徒会長のオッパイでっか、パンツ、ちっさ。

 つか、ナイスバディー過ぎて、いやいやナイスバディーって言葉は何だよ、俺はオヤジか、三丁目のエロオヤジか、ッゲエッホ、ゲホ、いかん、喘息の発作が、って、俺に喘息などねえだろうって」

 ウホウホウホホホホホホーーーー。

 だ、抱きついてきたあ。

 ブラとパンツの巨乳が、この俺の身体に抱きついてきたよ。

 なんだか知らないけど、すんごく柔らかいぞ。なんだ、この極上な感じは。ぷにゅぷにゅすぎて、意識が飛んでしまいそうだ。

 いやあ、もう死んでもいいかな。思い残すことはない。はい、合掌。

「ねえ、私って臭い?」

「え、なに」

「だから、いまの私は臭う?」

 ええーっと、そう言えば、あんまし臭くないぞ。ちょっとは臭うけどさあ、さっきの猛烈熾烈、イボイノシシが生ゴミをほじくってます的な悪臭ではないな。いや、逆にほんのりいい匂いがするような気がするのは気のせいか。

「いや、そんなことないよ」

「そう、よかった」

 抱きついていた生徒会長が離れた。正面に俺を見て、にっこりと微笑んでいるさ。

「私ね、ほんとうはそんなに臭くないんだよ。えへん」

「ん?」

 また腰に手をあててポーズをとってる。でも、今度のは柔らかく感じるなあ。

「私ね、ホームレスだから寝るところは公園の遊具とか橋の下とか、そういうところなのね。でもね、夜になるとヘンな人が寄ってきて危なくて。いままで何度も襲われそうになったの。だからね、臭いで撃退することにしてるのよ。鼻がひん曲がるくらいの臭いを服にしみつけてるんだ」

 ああ、なるほどな。制服をわざと臭くして、危険な男を近づけないようにしているのか。

 そんで、ほんとうは臭くないんだぞ、ってことを俺にわからせるために服を脱いで抱きついてきたってわけだ。

 納得納得。俺が絶妙にモテたわけじゃないってことだよ、ははは。そうだよな、そんなにいい事ばかり続くわけないもんな。

「それでも学校に来るときは、臭い控えめなんだよ。寝るときには特製の臭い服を着るから、死体みたいなんだからね。ゾンビも鼻血を出して逃げるくらい臭いんだから。てへ」

 わ、笑えない。ここ笑うところなんだと思うけど、状況が切実すぎて笑えないよ。逆に泣きそうだよ、ぐすん。

「私、生徒会が終わったら銭湯でバイトしているから、お風呂にも入ってるんだよ」

 だから、体は清潔なんだな。いい匂いしたもんな。

「おおーい、恭介、そこにいたか。パンもってきてやったから食えよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る