第4話
塩焼きソバを食べ終わって、京香、くつろいでるなあ。
俺という異性がいないがごとく、ゴロンと横になっている。こういう女って、どうなんだ。
だらしねえなあっていう反面、ちょっといいよなって思う。日常感があるっていうか、自然っていうかさあ。
「ん、なんか用か」
「いや、なんでもない」
お母さんが台所で後片付けしてる。ちょっと行って手伝ってくるかな。
「べつにお母さんを手伝わなくていいぞ。女ってのは、下手に手出しをされると、いやなものだからさ」
「そ、そうかよ」
くっ、ヒマだ。
やることねえ。ここには、スマホもギターもパソコンもゲームも、なんにもない。どうやって時間を潰せばいいんだ。
そうだ、こういうときは幼女をいじろう。イジイジしちゃえばいいんだ。
「亜理紗ちゃん、勉強はどうだい。俺が教えてあげようか」
「んー、いらな~い」
フラれた。がっくりだ。
「京香、お風呂入んなさい」
「そうだ、風呂の時間だな。お~い、一緒に入るぞ」
ええーっ、マジっすか。
ウソだろウソだろ。
いくら貧乏だからって、女子高生と男子高生が一緒に風呂に入ったらマズいだろう。あ、でもお母さんも公認って、やっぱ貧乏な家はこうなのか。
ど、どうしよう。女子に裸を見られるのは恥ずかしいけど、でもやっぱりいくしかないな。それがこの家のやり方なんだし、うんうん。
「じゃ、じゃ、じゃ、じゃあ一緒にはいろうか」
「え、ちょ、あんたなにやってんだよ」
「なにって、服脱がないと」
脱衣所とかなさそうだし、この家。
「ば、バカか。だれがあんたなんかと風呂入るんだよっ。このドへんたい」
「え、だって一緒にって言ったじゃないか」
「亜理紗に言ったんだよ。この、死ね死ね」
あいたた。
そんなに蹴るなよ。
可愛い顔して、なんでそんなに乱暴なんだよ。おまえの先祖は蛮族か、クリンゴンか。もう、あったまきたぞ。
「まぎらわしい言い方するほうが悪いんだよ」
「はあ?、わたしは女子高生、あんたは男子高生。一緒に風呂に入ることは、ビタ一ミリもない。未来永劫ないっ。フェイスハガーが顔に貼り付いてもないっ」
「お、俺だって願い下げだ。だれがおまえなんかと」
か、勘違いしたのは恥ずかしい。
微妙な言い方すんなよな、ったく。生まれて初めて、ネットじゃないリアルな女子の裸を見れると思っちまったじゃないかよ。
「ほらあ、お湯が冷めちゃうでしょう。早く入りなさい」
「うん、わかった。ほら亜理紗、お風呂入るよ」
「おふろ、はいるの~」
京香というよりも、亜理紗と一緒に入りたいと思う俺は、やはりドヘンタイなのだろうか。
「おい、へんたい。もし覗いたりしたら、あんたのを握りつぶすからね」
だから、両手でギュ―ッとやる仕草はやめてくれ。俺の身体のどの部位を想定してるんだよ。エアーな玉つぶしはやめなさいって。
「恭介君は私のあとでいいかな」
はいはい、いいですよ、お母さん。なにせ、居候の身ですからね。一番最後でけっこうです。
「俺は、いつでもいいです」
ああ。
俺は、ほんとうにこの家で暮らしていくのか。高校を卒業するまで可愛い女子高生と一緒というのは、男子の憧れかもしれないが、あのキッツい性格にはついていけないな。
姉ちゃんがほしいなあと思っていたけど、現実はきっとこんな感じなんだなろう。女って一皮むけば、そのへんのチンピラと変わらねえ。
「お母さん、お風呂いいよ」
うっわ。
ちょ、なんだよその格好。
「お、おまえ、いちおう服着ろよ」
「はあ?着てるじゃん」
「ら、ランニングはダメだろう。しかも短パンだし」
「あんた、オッサンかよ。これキャミソールな」
ブラぐらい付けてくれよ。
ちょっと濡れてるから、まっ白なランニングが透けそうだ。パツンパツンだし。
う。
オッパイが意外とデカいぞ、この女。もう見ちゃいられないよ。
「頭の中がへんたいだから、いやらしく見えるんだよ」
「う、うるさい。おまえに言われたくはない」
「ちょっとう、おまえって呼び方、やめてよね。あんたの女房じゃあるまいし」
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
呼び方は、ちょっと微妙だなあ。
「京香でいいよ。あんたのことは恭介って呼ぶからさ」
「そ、そうかよ」つか、すでに恭介って呼ばれてるし。
「ふー、ノド渇いたな。亜理紗、冷たいものでも飲むか」
「のむ~」
やっぱり風呂上りは、ストロングな炭酸飲料でしょう。ケケ・コーラのストロング鬼炭酸が定番だ。
「ほら、冷たい水だぞ」
「みず~、おい~しい~の~、ごくごく~、ぷ~へ~」
そうだよな。
やっぱ、貧乏人は水だよな。水は生命の源。水さえあれば百まで生きる。元気ですかーっ。
幼女よ、味わって飲むんだぞ。
「ところで恭介はさあ、学校どうするの」
「え」
そうだ、そうだよ。俺の高校生ライフはどうなるんだ。
たしか、あの恐ろしいおじさんが、転校の手続きもしといたで~、って言ってたな。
「たぶん、ここの近くの高校に通うと思う」
「ふ~ん」
「よく知らないけど」
「ふ~ん」
ほんと、どうなっちゃうんだよ、俺。
「わたし、これから勉強するんだけど、恭介はその辺でくつろいでてよ」
「あ、ああ」
「ありさ~も、するの~」
う~ん、とくにやることもない。この家、ほかに部屋が一つしかないからな。俺の居場所は、居間しかないのか。
「恭介君、お湯が冷めないうちにお風呂入っちゃいなさいよ」
お母さんが風呂から出てきたな。
うおおおお。
な、なんだよ、その格好。
「あのあの、なにか着たほうがいいと思います」
だって、ブラとパンツだけなんだもん。
「恭介君とは、もう親子なんだから、気にしない気にしない」
いやいや、気になるでしょう。存分に気になるよ。じつの親子でもあり得ないから。
「あらあ、それともこんなおばさんに欲情しちゃったの、うふふ」
「いや、その、」
たしかにおばさんだけど、けっこうスタイル良くて、けっこう胸がデカイい。若いおばさんだし。
ありていに言って、美熟女。
「お母さん、いちおうパジャマ着れよ。今日から男がいるんだから」
「それもそうね」
お母さん、一つしかない部屋に入っていった。そんで、パジャマ着て戻ってきた。
これで、ひとまず落ち着いた。
なんだか、すげえドキドキするぞ、この家。座敷わらしのかわりに、貧乏神とサキュバスが住み着いてるんじゃないか。
「ねえお母さん、恭介の学校って、どうなってるんだよ」
「あ、そうそう。それは京香と同じ高校だよ。もう手続きも済んでるんですって」
「え、マジかよ。わたしと同じかよ」
よかった。とりあえず、高校には行けるんだ。
このまま中退して働かなければならないと覚悟してたけど、ホッとした。
学校なんて面白くもないのだが、いちおう高卒ぐらいにしとかないとな。
「恭介、風呂入ってこいよ。うちな、一度お湯入れたら、継ぎ足し禁止だからださ」
なんだよ、そのセコいローカルルールは。早く言えよ。
「じゃ、入ってきますので」
つ。
風呂場にきたのはいいけど、湯船にお湯があんまりない。三分の一もない。
これ、どうやって入るんだ。どんなに頑張っても、身体全体を温めるのは無理っぽいぞ。
そうか。ダンゴムシのように、極限まで丸まればいいんだな。
なんとか小さくなってみたけど、やっぱり無理だ。どう転がっても、体の三分の一くらいしか浸からないし、このお湯もぬるい。
ええーい、しゃあないな。
グッピーじゃあるまいし、この水深でお風呂を楽しむのは至難の業だ。髪と体を洗うだけにしよう。
「おお恭介、あがったか。冷たい水でもどうだ」
「み~ずう、おい~しいよ~」
「へ―っくしゅん」
体が温まってない。冷たい水なんか、飲めるか。
「お湯がほとんどなかった」
「わたしらで使っちゃったからな。わりいわりい」
「今度からはもう少しお湯を入れとかないと、恭介君までもたないわねえ」
そういうことは、はじめっから計算しといてくれよな。
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