第5話 召喚されたスライム大魔王の大暴走
さて、ボンボンヤーはどこに行った。
まさか逃げてはいないよね。
あいつの使命は精液採取だから、絶対に逃げてはいないはずだと確信している京太郎は囮として一人離れたところに立っていた。
するとボンボンヤーが姿を見せた。
単純な奴だ。
京太郎は既に刀を背中からおろし、居合抜きができるように腰に差している。
「ひぇひぇひぇ、おしゃぶりポンポロポ~ン」と言いながらボンボンヤーが満面の笑みを湛えて近づいてきた。
すかさず、京太郎は呼子を吹いて全員にボンボンヤーの存在を知らせるとともに、すり足で迫って抜刀したが、ボンボンヤーは恐ろしい速さで後ずさりし、「わたくしは前後左右、時速百キロで移動できるでございます」と言った。
今日子がボンボンヤーの背後から匂い玉をなげつけ、恭美がシャー! とエネルギーを照射したが、やはり、何の効果も得られなかった。
そこにちゃんときゅんが駆けつけ、急いで杖で魔方陣を描いて呪文を唱えた。
すると天空が俄かに曇りだし、雷鳴が轟き、稲光がして、何かが舞い降りてきた。
「呼ばれて飛び降りてジャジャジャジャーン」と叫んだ丸顔の男は「吾輩はスライム大魔王でごじゃる」と言って、いきなりボンボンヤーに飛びついた。
ボンボンヤーはスライム大魔王をかわそうとしたが、時すでに遅し、スライム大魔王は目、耳、鼻、口の穴という穴から侵入してきた。
そして、脳らしき部位に辿り着いた。
(ここがこのロボットの司令塔か。どれどれ、ふうむ、なかなか高度なGPUを用いてごじゃるな。よし! このロボットはもう、吾輩のものでごじゃる。クェクェクェ)
こうしてボンボンヤーはスライム大魔王に乗っ取られてしまった。
(さぁて、これからどうしてやろうかと思案中でごじゃる)とふと周りを見回すとスライム大魔王は三人の黒装束の男女と二人の魔導士に囲まれていることに気づいた。
(こ、これは何事でごじゃるか。こやつらめは吾輩の敵か味方か。雰囲気から言って、味方ではないようでごじゃる。となれば、三十六計逃げるにしかずでごじゃる)
ターミネーターを乗っ取ったスライム大魔王は全速力で逃げ出した。
時速百キロはでるから、スライム大魔王は砂塵を巻き上げて走った。
行くあてもなく、ただ、疾走した。
きゅんは呆れた顔をしていた。
(召喚した怪物がロボットを操って逃げ出したわ。とんでもないできそこないね。これは魔導士の面子にかけても許せないわ)
そう言うときゅんはアラビア風のデザインであるアラベスク柄の絨毯を取り出し、そこに乗って飛んだ。
(はっ? 空飛ぶ絨毯? 初めて見たわ)今日子と恭美がぽかーんとしたアホ面で飛び去ってゆく絨毯を見つめていた。
「どこへ行ったのでしょうか」と京太郎がちゃんに訊いた。
「さぁ、どこに行ったのかは分からないですね」
「では、僕たちも後を追いましょう」
「はっ?」
「君も魔導士でしょう。絨毯出せるでしょ。それに乗って追いかけましょう」
「いや」ちゃんは戸惑っていた。
(4人も載せるってか、重すぎでしょう。ムリゲーでしょう。でも、まいいか。途中で降り落とされても責任は取りませんからね)
ちゃんはきゅんが出したそれより、一回り大きな絨毯を取り出した。
それを見て今日子と恭美は「きゃー! 空飛ぶ絨毯よ」と喜んでいたが、京太郎は(こんな囲いもない絨毯に乗って飛ぶのか)と思うと恐怖でしかなかった。
三人は刀を絨毯に突き刺し、それに捕まっていた。
ターミネーターは相変わらず無目的に疾走していたが、いつしか沼地に迷い込んでいた。
(うう、足場が悪いでごじゃる。ロボットは機械なので疲れることはないが、これはスピード狂の吾輩の好みでないでごじゃる)
しかし、その地は最悪最凶のどクソババアであるサイケデリックモンスターババアの縄張りだった。
サイケババアは、泥水を跳ね上げて疾走してくるターミネーターを見て、(わしの縄張りに侵入してくるとはいい度胸しておるわ、男ならタマキンを食いちぎってやる、女なら股を引き割いて干物にして食ってやる)と3メートルの巨体を揺らして凝視していると走ってくるのは眼を赤く光らせた筋骨隆々の男だった。
(なんじゃこりゃ。人間かいな、それともかいな)
スライム大魔王はご機嫌だった。
(機械を操って走るのがこんなに楽しいものとは知らなかった。吾輩はご機嫌でごじゃる)
そう思っていると、突然、真っ赤な服を着て、長い髪を垂らした巨大な女が目に入ってきた。
顔がしわくちゃだ。
(なんじゃこれは、バケモノなのか)と思っているといきなりサイケババアの後ろ廻し蹴りによってターミネーターはぶっ飛ばされた。
「なにをするでごじゃる。ご機嫌で走っているのに! 吾輩は怒ったでごじゃる」
ターミネーターはサイケババアと同じ3メートルまで巨大化し、サイケババアに殴りかかったが、サイケババアの動きは早かった。
腰をひねって横向きになって蹴る
持ち上げて地面に叩きつけたが超合金なので何のダメージもない。
それでは、首を持ってねじ切ろうとしたが超合金なのでそれも通用しない。
「怒った怒った怒ったでごじゃる」とターミネーターもサイケババアを殴ろうとしたが軽々とかわされてしまった。
そこに、ようやくきゅんが到着した。
(サイケババアを相手に暴れているわ。どうしょうもない奴ね)
きゅんの右手が上がり、その手のひらから青白い炎が立ち上がり、それをターミネータ―に投げつけた。
「ウォォォォォ」ターミネータ―は叫んだ。
「熱い、熱いでごじゃる。吾輩が溶けてしまうでごじゃる」
慌ててスライム大魔王はターミネーターから抜け出した。
怒ったのはボンボンヤーである。
(おのれ、わたくしめを勝手にあやつりおって、許さないでございますよ)
スピードで勝るボンボンヤーはスライム大魔王に追いついて、その頭をつかみ、首をねじ切ろうとしたが首がビョ~ンと伸びてねじ切れない。
しかも、スライム大魔王の指先が伸びて耳の穴から侵入しょうとしたため、慌てて、猛スピードで後ずさった。
そこに背後からサイケババアの飛び蹴りを食らったが、今は、それどころではない。
遂に、ボンボンヤーが右太ももから拳銃を取り出した。
パンパンパンと連射したが、スライム大魔王の柔らかい肉体に跳ね返されてしまった。
(ううむ、拳銃も役立たずか。どうすればいいのでございましょうか)
そこにちゃんの絨毯が到着した。
京太郎が言った。
「さて、どうしましょうかね、獲物が多すぎでしょう」
「サイケババアはイチゴを持っているので、最後に残しましょう。ターミネーターも、ただのロボットなので、始末するのはさほど難しくはなさそうです。なので、とりあえず、捨てておきましょう」
「ということは、あのアラビア風の衣装をまとった小太りの男がターゲットということですね。で、生きたまま捉えますか、それとも処分しましょうか」
「処分ですね」ちゃんは冷徹に答えた。
「召喚違反は重罪ですから」
「でも、あいつ、ゴムみたいにめちゃ柔らかそうよ。斬れないんじゃない?」と恭美が心配そうに言った。
「でも、生き物みたいだからね、毒が効くんじゃないかな」
「サソリとかコブラが持つ神経毒ね。それで痺れさせるという手はあるよね」京太郎と今日子の会話に割り込んで、ちゃんが言った。
「もっと面白い方法がありますよ」
「なに?」
「昆虫です。僕が得意とする分野です。サイケババアのように髪の毛の使い手やうずまきクネクネのような衝撃波を使うバケモノには通用しませんがゴムのようなスライム大魔王には効くかもしれません」
「毒を持つ昆虫ってスズメバチですか?」
「いえいえ、もっと強烈な麻痺毒を持つツクイムカデとかタガメです」
「タガメ? 毒を持っているのですか」
「意外と知られていませんが猛毒の持ち主ですよ。なにしろ、あのマムシを襲って殺し、その体液をすするという、とても昆虫と思えないほど凶暴な虫です」
ちゃんは、「飛べる」ということでタガメを選んだ。
ちゃんは魔法を使ってタガメを呼び寄せた。
その数、3千。
BooooooN、凄まじい羽音を響かせてタガメがスライム大魔王に襲いかかった。
「うわっ、なんでごじゃるか、こりゃこりゃ」と最初は大騒ぎしていたが、麻痺毒が速攻で効いてきたのか、次第に動きが鈍くなり、遂に、倒れてしまった。
京太郎は白い目でちゃんを見ていた。
(なんという魔法を使う奴だ。僕たちは、とんでもない世界にタイプスリップしてしまったのかもしれない)と背筋が寒くなった。
なんとかして、この魔法を手に入れられないかとも思ったが、よく考えるとこの世界でしか使えない
きゅんが降りてきて、やれやれと言った顔でスライム大魔王を中心に据えた魔方陣を描き、呪文を唱えて亜空間に送り返した。
残るはボンボンヤー一人かと思いきゃ、ボンボンヤーが三人に増殖されていた。
しかも、一人が西洋風の漆黒の鉄仮面と鉄の鎧を着て、片手に刃がギザギザになった剣を片手に斧のような武器を携えている。
京太郎が「増殖されている。しかも、一人変な奴が混じっている」と驚きの声をあげるとちゃんが冷静に言った。
「彼らは宇宙人なので、どこからかやってくるのです」
「どこからって? 出入りが自由ってことですか。それに武装した奴はなんですか? 尻尾も生えているようですが」
「あれは、バーサーカーです。見た目から、ボンボン星の爬虫類型戦士と思われます。きっと、最初に来たボンボンヤーが救援を要請したのでしょう」
「は?」
「そんなのありですか?」
「何をいっているのですか、ここは魔法ランドですよ。なんでもありに決まっているでしょう。ただね、どの星でも爬虫類型戦士は強敵ですので、僕も戦士に変換して戦います」
「変換?」
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