(3)狂宴
「ぶぐっ! うっ、んふっ、ううぐぅ、おうぅう!!」
後ろ手に縛られたまま、シルフィナは三人の男たちに弄ばれ続けていた。
「うう……たまんねえなあ……」
三人のうち、太った男が喜悦の叫びを上げる。「こんなキレイなお姫さんがよ、俺の(作ったパラパラ炒飯をのせたレンゲ)をしゃぶってくれてるなんてよぉ……」
「んんんっ! ぷっ……くはっ、ああ、ああっ!!!」
口の中のものをようやく飲み込んだシルフィナが、悲鳴混じりの喘ぎを漏らす。太った男は容赦なく、皿の上のパラパラ炒飯を一口レンゲにすくい、それを哀れな王女の目の前に突き付けた。
「……ひっ……!!」
「お姫さん、どうだい、この卵の塊はよぉ?」男はニヤニヤ薄笑いを浮かべながら、レンゲの上の炒飯をシルフィナの眼前でひらひらと動かした。
「俺はよ、卵は一番最初に、米より先に入れるんだ。そうするとなぁ、こういうふうに卵の塊ができてなあ、ぷりぷりした食感が楽しめるんだ、ぜっ!」
「むぐぅうう!!」
また口内にパラパラ炒飯を突っ込まれ、シルフィナは苦悶の呻きを上げた。
(いや……もう、いや……パラパラ炒飯は……忌むべき……存在なのに……っ!)
「どうだい、うめえだろぉ? 卵の食感に負けねえように、米は冷や飯使ってんだよ。こうするとなぁ、米に重みが出るんだよぉ」
「ぶっ、くぅっ、ふうううっ!!」
男の言葉を聞くまでもなく、シルフィナは口内のパラパラ炒飯のおそるべき美味しさに気付いていた。味付けはオイスターソース、具材はハム、ネギ、
(そ、そんな……さっきのゼーランのもそうだったけど、パラパラ炒飯を……美味しいと、感じてしまうなんて……)
くやしさのあまり、王女の青い瞳から
「おうおうたまんねえな、涙なんか流しちゃってよぉ」
「ほらほら、そろそろ交代だよ」
シルフィナの涙に欲望をそそられたのか、今度は背の低い男が割り込むようにシルフィナの前に立った。
「姫さん、たっぷり可愛がって差し上げますぜ」
けけけ、と笑いながら小男が付きだした炒飯は、一見すると普通のパラパラ炒飯に見える。しかし、皿に盛られた山の頂上に、縦に切った半熟卵が乗っていた。
「この味付き卵ですがね、お姫さん」小男はレンゲよりも小さなスプーンを使い、半熟卵を半分切り取って、炒飯と共にすくい取った。
「具材の叉焼のタレに漬け込んでるんですよ。そいつを絶妙な加減でトロットロの半熟卵に仕上げるんでさ……そいつをパラパラ炒飯に絡めていただくんですよ」
小男はいきなり炒飯を王女の口に突っ込むような真似はせず、まず言葉と視覚で、シルフィナの感覚に訴えかけた。そして王女が、どんな味か想像できた瞬間、それは口の中に挿入された。
「うぶぉお!! んふっ、ぶふっ!! うむぅうう!」
「へへっ、たまんねえでしょう? あっしの叉焼ダレは、醤油に味醂にショウガ、隠し味にニンニクを入れて、煮込んでから一晩寝かせた秘伝の味でねえ」
小男は味玉と炒飯をすくい、再びシルフィナの口腔内を徹底的に蹂躙する。
「味玉はね、そのタレに塩を砂糖、昆布を加えて漬け込むんですよ。漬ける前に殻に小さく穴を開けといて、タレに漬けて八十度で一時間煮る。そいつを冷ましてからゆで卵と同じように茹でて、殻をむいてもう一回漬けダレに漬けて一日置く、ってすげえ手間かけてますぜ」
「ぶっ、はっ!! おううっ、ぐっ……むっ……ふぐぅ!」
それはシルフィナにも理解できた。卵の茹で加減は、わずかに黄身がとろりと流れる程度の半熟。味付けは炒飯の味を邪魔しない薄味ながら、しっかり存在を主張する味わい。それが炒飯の具材である角切りの叉焼の味と競い合いながら、甘じょっぱい旨味で王女を誘惑していく。
(いやっ……こんな、こんな、パラパラ炒飯なんかを、おいしいと……認めたくない……っ!)
「ぐ、ぇ…………いや……もう、いやぁっ!!」
ついにシルフィナが泣き出して、許しを乞うた。これまで離れて見物していた枢機卿は、満足そうに立ち上がって王女に歩み寄ると、勝ち誇った声で尋ねた。
「シトリ派を捨て、パラパ派に転向いたしますかな?」
「……そ……れは……」
打ち砕かれた抵抗の意思が、彼女に転向を促す。しかし王女の瞳が、かすむ視界の端に、黒髪の騎士の姿を捉える。元主人が無残に弄ばれる様を無言で眺めていたゼーランが、初めて視線を合わせてきた。
(ゼーラン……)
最後に残っていた意地が、シルフィナを突き動かす。
「……嫌、です。それ、だけは……」
枢機卿は酷薄な表情で、シルフィナを見下ろした。
「そうですか。では、続きだ」
淡々と部下に命じると、三人目の眼鏡をかけた男が進み出た。
「やっと出番ですか」男は手にした盆を、シルフィナのそばのテーブルに置いた。その盆を見たシルフィナに、戦慄が走る。盆には炒飯を盛った皿と、そして……
「ひっ……!」
「私はね、殿下」
眼鏡は無表情に、大きめのレンゲを手にした。
「炒飯は温かい飯を使う。その方が水分が飛んで軽い食感になるからね」
「い、いや……お願い、やめて……」
「何故そうするか? 私は炒飯は単体で食べるより、他のものと一緒に食べた方がもっと幸せになれると信じているのです」
「いやっ!! それだけは嫌ぁっ!! お願い、もう許してぇえ!!」
「例えば、そう……」無表情だった眼鏡の顔に、残忍な笑顔が浮かんだ。「ラーメンと一緒にいただく、というのがね」
眼鏡の男は、炒飯をよそったレンゲの上に、箸で艶やかな麺を乗せた。
「どうやらこの組み合わせ、お好きなようですな」
好きなどというものではなかった。この禁断の組み合わせこそ、シルフィナの大好物そのもの。もし炒飯がこれまでのパラパラ炒飯のような絶品で、そこにさらにラーメンの味まで加わったら、今度こそ完全に抵抗の意思は砕け散り、パラパラ炒飯に仕える奴隷が誕生してしまう……。
眼鏡はレンゲを突き出し、抵抗しつつも期待する王女の口に、それを――。
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