白髪の鬼5

 白樹が自分の髪の毛を数本抜いて、空中に投げ出した。すると、髪の毛の一本一本が小鬼に変化し、人間である三人に襲い掛かってくる。光明は、呪符を取り出し呪文を唱えた。どこからか炎が巻き起こり、小鬼を焼き尽くしていく。


「時子様は法眼を安全な所に連れて行って下さい。申し訳ございませんが、直通様は私の援護をお願い致します!」


 そう言うと、光明は次々と小鬼を退治していく。光明が退治し損ねた小鬼を、なんとか直通が切っていた。


「埒が明きませんね」


 光明が別の呪符を出し呪文を唱えると、嵐のように風が巻き起こった。小鬼は風に吹き飛ばされていく。光明は風に乗るようにして、一気に白樹との距離を詰めた。小鬼に邪魔されないうちに白樹を焼き尽くすつもりだ。

 だが、新たな呪符を出そうとした所で右腕を蔓のようなもので絡め取られた。そして、そのまま地面に体を叩き付けられる。


「……っ!!」


 光明は、苦痛に顔を歪めた。


「そのまま地面と一緒になっていればいい。……あちらを構う方が面白そうだ」


 白樹はそう言うと、法眼を括り付けている蔓を切ろうとしている時子の方に顔を向けた。

 武官の姿の式神が二人揃って白樹に切りかかるが、軽くいなされ、蔓で絡め取られてしまった。そして、別の蔓が時子の方に伸びてきた。


「時子!」


 直通が叫んだ。


 しかし蔓は、時子に届く前に焼き払われていた。いつの間にか法眼を括り付けていた蔓は切られており、法眼が呪符で炎を出していたのだ。


「……絶対、この女には手出しさせない……」

「この女、お前にとって一番大切な存在のようだな。……面白い」


 白樹が小鬼と蔓の両方を法眼と時子に向けて放った。法眼は、まだ立てない状態だったが、渾身の力で焼き尽くしていった。


「お前、そんなに力を使ったら……」


 立ち上がった光明が呟いた。


 法眼の放った炎は勢いを増し、白樹の右腕を焼いた。


「この炎、邪気を浄化する働きもあるのかな? 少し力が抜けていくようだ」


 それでも白樹は、余裕のある表情をしていた。法眼は、また攻撃が来ると思って身構えたが、何故か白樹はもう攻撃してこなかった。


「身体を回復したいし、面白いものも見れたから、今日はもう失礼するよ。また会おう、可愛い弟」


そう言って、白樹は風をまとうようにして去っていった。


「大丈夫ですか、法眼様」


 時子が慌てて声を掛ける。


「なんとか……。良かった、お前が無事で……」


 法眼は力なく笑うと、意識を失った。

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