笑う女3
縁側には、法眼と実継が腰かけていた。
「歩いても大丈夫なのですか?」
「少しなら大丈夫です。ありがとうございます」
実継が微笑んで礼を言う。そして、未だ浄化を続けている光明を見て、少し眉尻を下げた。
「……陰陽師の方々にこんなに良くして頂く資格が、私には無いのかもしれませんが……」
「それはどういう……」
法眼が質問しようとした所で、声が聞こえた。
「実継、ここにいたか」
話しかけてきたのは、恰幅の良い四十前後の男性だった。
「おや、お客様がいらしたのですね、失礼致しました。私、実継の父の
「陰陽師の鬼四と申します。庭におりますのは、私の師に当たります加茂光明でございます」
「ああ、実継の病を治す為に陰陽師がいらっしゃっていると聞いております。……実継、くれぐれも失礼のないようにな。それと、麗子様を大切にしなさい」
成房は、そう言って去っていった。
成房の背中を見送った後、実継が苦笑しながら言った。
「……ああ言っていますが、父が私と麗子の仲を気にするのは、出世の為ですよ」
「出世?」
「ええ、麗子の実家は、有名な歌人を何人も輩出していて、人脈が広いんです。父は、その人脈を利用して出世しようとしているんです」
「……そうなんですか……」
「でも、私は父に感謝しているんですよ。……私は、麗子に惚れていましたから」
聞くと、実継が麗子に初めて会ったのは実継が七つの時。麗子の父親が麗子を連れて成房の屋敷に遊びに来たのがきっかけだった。
麗子は、綺麗な着物や髪飾りを愛でるより庭いじりをしたがるような風変わりな少女だった。しかし、楽しそうに遊ぶ麗子の笑顔に、実継は心を奪われた。
麗子が大江家に嫁いだ時は複雑な気持ちだったが、麗子の幸せを願っていた。ところが、今から三年前、大江雅広は亡くなってしまった。その後すぐ、成房が再婚の話を持って来る。
実継は夫を亡くしたばかりの女性と一緒になって良いものか悩んだが、彼女が他の男性と再婚するのを黙って見ているのも嫌だったので、成房の話に乗る事にした。
「……時々思うんです、麗子は今幸せなのかと……」
実継は、寂しそうに笑った。
◆ ◆ ◆
夕刻、時子と直通は鬼ヶ原神社に寄った。中には、既に法眼と光明がいる。法眼は今にも死にそうな顔をしていて、光明も疲れているのか、いつもより笑顔がぎこちない気がする。
「進捗は?」
直通が聞いた。
「法眼が思ったより使える人材だったおかげで、あともう少しの所まで来ました。呪いの主の念を見つけたので、今は私の式神に念を辿ってもらっています。……噂をすれば」
神社の中に、一匹の蝶が入ってきた。そして、その蝶はたちまち人間の姿に変化した。
十代前半くらいの少女の姿で、黒髪を珍しい形に編み上げている。唐の髪型だろうか。
少女は光明の側に行くと、何事か囁いた。
光明は、口角を上げると、皆に告げた。
「呪いの主が、わかりました」
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