第16話  お供え祭壇


歓喜と絶望。




カフィはそれを僕に教えてくれた。





前世持ちの弊害かもしれない。





美味しそうにカフィをのむロブに嫉妬した。




そして僕は今、ホットミルクで機嫌を直していた。子供の心は移ろい易いのだ。




そんな様をミレイはニコニコしながら見てくる。仕方がないので僕はウインクで返した。




ミレイの顔は赤くなり少し膨れていた。




くふふ。



僕はウインクが出来るのだ。くふふ。




そんな様子を慈愛の表情で見やるロブ。




なんとも素敵空間だ。




とても今日出会ったとは思えない。




そう、色々有りすぎて忘れがちだが




まだ転生初日なのだ。



時刻は16:00になろうかとしている頃だ。




もうすぐミレイが夕飯の準備をするので



僕は2人に聞いた。



『2人は自分のお部屋に女神様へのお祈りをする祭壇もってるでしょ。僕も自分で持ち運ぶ祭壇を女神様が作ってプレゼントしてくれたの』



そう言うと2人は大層驚き



そして羨ましいそうにしていた。



すぐにソワソワし出した。



うん。見たいよね。僕もまだ見てないから



せっかくなので一瞬に見る事に。




念の為リビングの広い所で出す。



インベントリの中から取り出す。



『持ち運び祭壇(ニコ用)』



ヒュっ



と、それは現れた。






ちいさな神社だった。




ちょっと日本テイスト所では無かった。



まんまだった。




ふふふ僕は笑ってしまった。




涙がちょちょぎれた。




それはどんな涙か僕でもわからなかったが




嬉しかったのは確かだった。




せっかくなのでミレイにさっき食べてたのと同じクッキーを持って来てもらった。



祭壇をローテーブルの上に置く。




賽銭箱の代わりにお供えが置ける台があったのでそこに置いた。



本坪鈴(ほんつぼすず)と呼ばれる鈴を



指で摘んで鳴らす。



ちいさいのに綺麗な音が鳴る。



 二拝二拍手一拝

(にはい、にはくしゅ、いっぱい)



初めてのお祈りは参拝だ。




感謝の気持ちを込めて頭を深く下げる。




柏手は2人きっと驚いただろうな。




そして最後の一拝と共に



『ユメリカ様アルステルスに転生させてくれてありがとうございます。楽しく過ごせそうです。お供えをお納めください』



そう言い終わると鈴の音が鳴る。



チリンチリン。



一瞬懐かしい気配がしてお供え台から



ちいさな魔法陣が浮かんだかと思った頃には



消えていた。クッキーもだ。



きっと神域で僕がよく光るなーとか言ってしまってたので考慮してくれたんだろうな。


あの女神様は慈愛の権化だと思う。


人見知りで緊張しぃだけどね。くふふ。



チリン。



おっと。まだ繋がってたのかな。ふふ。




そして振り返ると2人は片膝を突いて手を組み祈っていた。



『ニコ様!く、クッキーはどこへ行ったのですか⁈一瞬、本当にほんの一瞬、何かを感じ跪かずにはいられなかったのですがあれはもしや!』


『そそそ、そうです!まさかですが、わ、私の作ったクッキーが台の上から無くなっているのはまさか!』



2人共、大興奮だった。



『もしやニコ様がされていたお祈りの方がユーメリカ様いえ、ユメリカ様はお好きなのでしょうか?だから祈りに答えて下さったのですか⁈』



ひどい誤解が生まれていた。


『な、なるほど!ユメリカ様の御名前も知らない、お祈りの仕方も間違っていたからなのですね!』




大興奮からのパニックになりそうだったので





『ちがうなの!僕がお願いして前の世界の物を少し感じられるような物を頼んだの』


『たぶん女神様やさしーので前の世界の僕の国のを作ってくれたの。この世界の神殿と同じなの』





『では神殿の形式でも大丈夫なのですか?』



ロブが不安そうに聞いてくる。ミレイもうんうん頷いている。


『大丈夫だよ!神域には大きな神殿があってそこはユメリカ様のお家だって言ってたから。2人に神託降ろす時も神殿の中入ってたよ』




その言葉を聞き2人はまた跪き祈りだした。



僕の祭壇、いや神社に。




どうしよう。

お家用のがあるって言いにくいな。



お家用の祭壇はどんな形式なんだろう。


また神社だったら2人が間違った方向に走りそうでちょっと怖い。



しあし女神様謹製の祭壇、すっごい羨ましそうにしてたからなぁ。



僕もお家に常設してあれば毎回出さなくてもいいしね。旅の時は神社使うしね。




ふーむ。お!2人のお祈りが終わった。



そしておずおずと、言いにくそうに


『不躾なお願いなのですがニコ様がお供えとお祈りをされる時にはどうか我ら2人も同道させてもらえないでしょうか』




『えーとね。ちょっと言いにくいなんだけどね…』



そこまでの言葉だけで2人は少し落ち込んだ



大丈夫、最後まで聞いてぇ。



『実はね女神様がお家用にってもうひとつ作ってくれたの!僕のは持ち運び用なんだけどお家用のはもう少しおっきいみたいなの』



きょとーんだ。



見事なほどのきょとーんだった。



そして言葉の意味を理解すると詰め寄られた




『さあ!ニコ様!せっかく女神様が我々皆の為に手ずからお作りになり下賜されたのです!お家に鎮座されれば女神様も喜ばしかろうと愚考致します』


『そうですニコ様!私に女神様手ずからの祭壇を毎日綺麗にさせて頂く機会を何卒っ!』



おぉう。女神様、愛されてますね。



『ま、まって!まってなの!まだ僕も見てないなの!女神様はちょっと大きくしたって言ってたけどもしかしたらすっごく大きいかもなの!だからいっかい広い所で出し…』



誘拐犯だ。



言い終わる前にささっとっと攫われた。



2人共走って無いけどめっちゃ速い。




玄関ホールに到着。ひろっ!



そうなの。このお家でっかいの。かなり。



お屋敷なの。あ、2人がソワソワだ。



『じ、じゃあ出すから少し下がってね〜』



「インベントリ」



【ユメリカ謹製お供え祭壇(ニコの家用)】



ヒュパッ



どどん。



ひょー!綺麗だぁー。



現れたのは神殿の祭壇だった。



よかった。



何かこうシンプルなのに神々しいね。


白い石柱があって一段高い所に祭壇


その奥には女神様の像がある。



あ、ちょっと美人系にしてる。背も高くない?あれ?


あ、ダメなんか祭壇の方からピリピリの空気漂ってる気がする。


ふう。


2人は光の速度で祭壇前に行きお祈りをしていた。


せっかくなので僕もこの世界でのお祈りの仕方を勉強しよう。


すると祭壇の方から一瞬、フワリと風が吹き



何かが宙に舞った。



『きゅいー!』



コハクが宙を駆けた。はしっ!



何かを咥えて戻ってきた。



「「それはなんですか!」」


2人の息はピッタリだ。



コハクが僕にそれを渡す。



封筒だった。



【ニコへ】



早く開けろと無言のプレッシャーが頭上にある。



中には二つ折りになった手紙が入っていた。



————————-

ニコへ

お家用の祭壇どうですか?


自信作なのです!


この祭壇は浄化の効能が付けてあるので


少し心が疲れた時や癒されたい時にもバッチリなの!


あと設置場所も2階に上がる奥の階段の所の部屋あるでしょ?書庫の向かい側。


あの部屋にピッタリなサイズで作ってあるの。あの部屋少し広いの。



なので祭壇設置してからも部屋で遊んでね!


ユメリカは楽しむみんなが好きだから。


お供えは毎日じゃくなくていいからね。


ニコがユメリカに送りたいって思った時にお供えしてください。


皆に幸あらんことを


アルステルス最高神

女神ユメリカ

———————


ありがとうございます。



つい。出てしまった。



『ニコ様!さっそくあの部屋を掃除して参ります!ミレイさんは食事の用意をお願いします。私は掃除が終わってから夕食を頂きますのでお二方は先に済ませてください』



そんな事をロブが言う。



『そ、そうですね。私は食事の準備がありますもんね。いえ、それが私のお仕事!』



『ロブ〜あのお部屋広いよね。ご飯はみんなで食べたらもっとおいしーよ?祭壇はみんながお祈りするやつだからみんなでお掃除した方が女神様も嬉しーおもうよ?』





ハッとするロブ。ホッとするミレイ。


『明日みんなでどんなお部屋にするかいっぱい話しながらご飯すると楽しーねぇ。たのしーとご飯もおいしーなの!』


くふふ。ぜったいそうだよ。


楽しさを想像して

くふふっ



夕食は華やかだった。



ミレイが僕を迎える為に色々準備してくれていた。



2歳児も考慮されて小さくカットしてある



肉や野菜、リゾット、たくさんの種類を食べられる様に一品あたりはすごく少ない。



そして話題は祭壇部屋へ。



なんかもう祭壇部屋って呼ばれてた。



『まずは部屋荷物を一度全部出しましょう!絨毯の洗濯は私がするのでロブさんは部屋の天井からお掃除を始めていて下さい。棚や机ソファも一度天日干しをしてしまうのがいいと思います!』


『確かにそうですな。でしたら特に重い物から私が運び出しましょう。ミレイさんが絨毯を運び終わったらハシゴを持ってきます。如何に早く室内を空にするかが重要ですな。』


『そうなんです。早ければ天日干しの時間も長くなりますし絨毯やカーテンも明日の間に乾きますからね』


ふーむ。楽しそうだ。


『じゃあ、ぼくは〜に…』


『ニコ様は荷物を運び終わってから外に出した机や椅子などの埃をパタパタで払って頂きましょう!』


パタパタってあれだよな?たぶん。


むう〜。


君たち2人は僕を戦力外扱いだな。



ぷっくー。



『あ、いえ、ニコ様はもしかしたらパタパタの名手かもってロブさんとお話ししてましたのよ。おほ、おほほ』



ミレイは焦ると貴族マダムになるんだな。



もうお嬢様じゃなくてマダムだ。



ロブも頷いてていやがる。



しかし忘れてもらっては困るのだよ。



『あ〜のねぇ〜。お部屋の荷物なら僕なら一瞬だよ〜。本当にいいの〜?』



ハッとしてるな。くふふっ。



『あ、あ、しかしニコ様のアイテムボックスが大きくても何やら女神様からもたくさんのプレゼント入っておられるとかなんとか』



あせあせ。


そんな音が聞こえてきそうだ。


『そそ、そうですよ。あまりニコ様に負担をおかけするのはちょっと、まだおちいさいのですから』



ふーん。強情だね〜。



『因みにね。僕のスキルはアイテムボックスじゃないからね』


『そ、そういえば。何やら聞き慣れないスキル名でしたが』

『確かにニコ様のなさる事だからと思っていたから気づきませんでしたがあれほどの祭壇のサイズが入ってまだ余裕があるのですか?』



ミレイめぇ、祭壇に興奮してたんでょ。


ちょっとジト目で見る。


『インベントリって言ってね。ユニークなの。』


ロブは驚く。

『ゆ、ユニークですか⁈』


『そだよ〜。能力はアイテムボックスと似てるけどねぇ〜。違う所があるんだぁ』



くふふ、気になってるね。



『そ、それはアイテムボックスよりも容量が大きいのですか?確かわかっている伝説級の容量がこの食堂くらいでしたよね』


うん、食堂結構広いもんねぇ。


『くふふ。くふ、食堂広いよねぇ〜』


『まさか…ここより大きい…?』



あ、ロブがどっかトリップしそうな



『正解はねえ、無制限なのです!』



ふんす!どやっ!



くふふ


するとミレイが

『えっと、な、何が無制限なのでしょうか?む、無制限?はて、無制限っなんでしたっけ?』



あ、容量オーバーかな?



『んっとねぇ、僕のインベントリはどれだけ入れてもいっぱいにならないってことね。広さとか容量が無いの。地面に繋がって無かったたらここのお家でもすっぽり入っちゃうの!』


2人して


「「ははははは」」



笑い出しちゃった。


『え?冗談ではなくほ、本当に無制限で入るのですか?』


ロブが何とか理解して聞いてきた。

追撃だっ。


『入っちゃうよー!しかも時間停止機能付きね』


もうミレイ笑い出して


『あは、あはは。もう〜ニコ様ったら時間停止って。あ、それならこのスープを入れておいても明日でも明後日でも冷めないざますか?』


ど、どーしたミレイ?


ザマスになってるよ。


『うんー。そうだね。百年後に出してもこのまま温かいね。うん』



あ、止まっちゃった。



あれ?2人には時間停止かけてないんだけどな



『だ、大丈夫?』



ギギギってなってる。



僕はそっと2人にリラックスジュースの素を渡した。



『それ飲んでおちついて』



復帰に10分くらいかかったよ。



あれからインベントリとは何かを説明して納得してもらった。


『はぁ〜、ニコ様のお話聞いていますとこの先もまだまだありそうですね』

『それでも寒い時期に外へ行った時に温かい物が口に出来るのは凄い事ですからね』



そうだよね


『ユニークスキルは聞いた事ないやつだからしょうがないなの』


そこからは僕も明日の会議に参戦した。



うむ。満足だ!



しかし2人には精神疲労をしばらくは


かけてしまうだろうな。



だってまだ僕が驚いてるからね。



インベントリになんか無いかな?


シュン


——————————-

【リラックスに最適、飲み物から薬物まで】

♦︎リラックスジュース▼

♦︎リラックスティー▼

♦︎リラックスお酒▼

♦︎リラックス携帯食▼

♦︎リラックスタブレット▼

♦︎リラックスドラッグ▼

♦︎リラックス禁止薬物▼

———————


何だよ!禁止薬物って女神様何入れてるの!



ふぅー。



『ふ、2人はお酒とかはのむのー?』



僕は見逃さなかった。2人共一瞬”覇気”を

纏ったよね?




『め、女神様が送ってくれた中にリラックスのお酒あるみたいなんだけどよ、よかったら

〜飲む?僕たぶんお風呂入ったらすぐ寝ちゃうけどあ、大人の、時間って大切なのかな〜なんて』


チラリ


2人共急に大人の雰囲気纏ったアピールしてるな。



ロブは言う


『ええ、まあ私は執務後少し嗜む程度ですが、ええまあ蒸留酒あたりが好きですかな』



ミレイは

『おほほほ、あたくしはちょっとだけ眠る前に香りを楽しむ為にワインを飲むくらいですわ。あ、赤も白も差別しない様ににしてますの、差別って嫌ですわ。ほほほ』



はいはい、蒸留酒とワインのリラックスはと



あ、あったあった。



2人の前に一本ずつ出す。


共に750mlだ。



『ありがとうございます。ご主人に出されては頂かない訳にはいきますまい。』

『うふふ、ありがとうございますですわ。ニコ様の労いならば無理しても飲みますわ』



もうバレてるから無理しなくていいのに。



幼児のいたずら心が疼いてきた



『あ、ごめーん。明日は忙しいから今日はやめとこっかぁー』


瓶を取ろうとすると


ものすごい勢いで引き寄せた2人共。



僕はその必死の様子を見て思わず



両手で口を押さえながら



『くふっ、くふふふっくふっ、くふ』



もう笑い声が手から漏れちゃう。



2人共とも真っ赤な顔をしていた。





お酒はほどほどにね。



くふふ







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