第11話【閑話】 お姉さま女神様達の憂鬱

アルステルスでのはじめての転生が行われたしばらく後のとある日。



世にも美しい面々が集まっていた。



ここは神域。



神々とそれに連なる者しか立ち入れない場所。





大理石を思わせる硬質で美しい円卓に7人の美女が座していた。



いや、7柱。



彼女たちはそれぞれが自分の管理する星を持つ女神だった。



『それで?』



1柱が不満気な声を出す。



『わかっているでしょ、あの子のことだって』


『にゃははは、そらそーだにゃ』


にゃんこもいたようだ。


『結論から言うわ、やっちゃったのよあの子』


一瞬の静寂。そして満場一致のため息。



『ま、まあある程度失敗する事もデータ取りとしては有効活用にはなるからここからフォローすればいいんじゃないッスか』


後輩気質もいた。


『はぁ〜ん♡それがねぇ〜、ふぅ、あ♡中がよくてぇ、じゃなく…』


『進まん!エロ女神っ!』


エロと堅物


『どのくらいの失敗なんだ?あの星は私達だけでなくネットワーク内のほぼすべての神々でアドバイスをしてきて上手く行っていたじゃないか。それらがひっくり返る程の事などそうそう起こらんだろう』



委員長タイプかな



『うーん、まあ今はこのリンクシステムがあるから百聞は一見にしかず。リンクのアーカイブをみんなに見て欲しいの』


データ班っぽい



テーブルの淵にある小さな水晶にそれぞれが神力を流す。


中央からモニターが出てきて映像が流れる。




の一部始終だ。



再生が終わると皆が頭を抱えた。




『何やってんのよあの子ー!』

『初めてであんな転生者引き寄せる?』

『誰?あの子に貢ぎ癖つけたの!』

『にゃああ!いきなりの神聖魔法だにゃ』

『転生者にあやされてたよね』

『ぁん♡』

『もっとあの時話を聞いておけばよかった』




はぁーーーっ




『そも、いくら新しい種族ったってあんなに女神コイン入らないはずだ!なんであんなに入るんだよ!』




『あの子自分謹製のスキル21コも渡してるわよ。全部SSRよアレ』



『にゃんでもう耳が生えるにゃ!早すぎるにゃ!』



『地球のスキルの種まで開花させてるし』



『シャルが地球のジジイの所でよからぬものを教えたせいだ』



『ちょっと!私は当日直接相談にも乗ったのよ!』



『あの構築で爆発させない技術はさすが過ぎるけど情緒不安だけなんで治らないんだ?』




『それこそ、あの世界でしか治らないわよ。だからマニュアル本まで作ってカケラの修復を促したんじゃないの』




『新しい試みで誰がどう見ても今までの世界よりも良くなってる。それこそ魂の資質が。だから安定しているが今回直接あの子に紐付いてしまった』



『せめて純真な色の期間がもっと長ければ良かったが成長の鈍化は大人になってからしか出来ないっていうもどかしさだな』



『カナン?どうしたの?』



『……』


『ちょっと!無視しないでよ!』



『ナシエラ姉様、コレどうやって構築したんですか?』



『え?それってリンクからベースを巡ってそこからソフトに落として、でしょ。そうじゃないとラグの那由多値に割り込ませないといけないから神でも無理よ。机上理論”円環炉”時を止めても崩壊するから無理なのよね』



『ああ〜あの理論ね!発表された時はずいぶん騒がれたけど時の神、次元の神、光の陽神、あの3柱と創成神が組んでも出来なかったやつじゃない』



『円環炉ねぇ〜それが出来れば1人で1つの星どころかここの全員の星すら余裕で再生ブーストが掛けられるわよ』


『そっすよね。智慧神でしたっけ?ネットワークに参加している全部の神と2元の神々全部の祝福を幸運値に振り切っても成功率が弾き出せる程の値にならないって』



『もはやそれは机上の理論にもなっていない。所詮”空想”なのさ』



乾いた笑い声が部屋を埋めている。



その中でただ1柱だけが真っ青な顔で異常な程震えていた。



ようやく皆んなが気づいて声をかける。



『カナン?カナン!!!!』


ガタガタっ、と全員が精神安定の奇跡を行使した。



それほどカナン呼ばれる女神は危険な状態だった。



精神が崩壊すれば女神でいられないのだ。突然星の管理者が消滅してしまえばその星はもちろん次元にまで影響が出る。



だから皆が焦った。


はぁーはぁーはぁー



『あ、危なかったッス!ど、どーしたんすか!カナンさん!』


なんとか崩壊の危機は脱したが未だ震えている。


『カナン。ゆっくりで良いからなにがあったか教えて。』


『そうにゃ!ただの神力急降下じゃにゃく崩壊を伴う消滅をしかけたにゃ!』



カナンは精一杯の声を絞りだす。



『ーーーーーしーいる』



誰も聞き取れない



テーブル上にあるモニターを指差しながら先程からずっと同じ場面がループしている映像を見ながら声を出す



『完成。して、、いる!』



誰もがわからなかった。皆がモニターを見るがすぐには気づかない。



2人ほど何かがおかしいかもと思った頃



カナンは力を振り絞り叫んだ。



カナンでなければ



普段のカナンを知らなければ



誰もが笑っただろう



しかし、ついさっき自身が崩壊し掛けたことも相まってそれらは皆の時間を止めた




『円環炉が!!』




しばらくして一転皆がモニターへと近づいてその前提で確認する




すぐさま1番冷静な女神が神力の半分程を使い部屋中に精神安定の奇跡をかける




そして7柱の答えは一致した



“円環炉の完成”



“成し得たのは最年少の女神と魔法の無い世界の魂の1柱と1人”




『なんで…あんなタイミングで差し込める…の?』



『映像を見ているのに信じられん』



『ああっ!こ、この魂も、よく見たらおかしいじゃない!』



『何故だれも気づかなかったんだ』



『本当にいるなんて…』



『しかも2人居なければ何の意味も持たない』



『そんな存在がこの広い宇宙の中の小さな星で邂逅するのか⁈』



『いや、邂逅するだけではダメなはず』



『紡ぐ為には結び解かなければならない』



“理を司るニ翼は永劫の悲劇”




それが覆されている




『あった!』




ナシエラが叫んだ。魂の過去アーカイブを遡っていた。



『し、信じられない…ユメリカ…』



『ユメリカが方翼、しかもたった3代前…』



『そしてこの”ニコ”に至っては当代だ』



『出たよ!地球の言葉の意味』



『ふたつだ。2の個という意味だ』



『どちらも意志で選んでいない2が合い1となり再び2になっている』



『しかも”紡いでいる”』



『環が円になる』



『だからこその円環』



『そして結び、解けの後だから』




『紡ぎが始まり”理”を超えた』




『そうして完成したのが究極の理論』




『ついさっきまではただの机上理論』

 



『理が紡いだ”円環炉”』




『理の悲劇には続きがあった』






“理を司るニ翼は永劫の悲劇”






“さりとて結び解けば一翼となる”






“一翼と一翼に縁あれば道となる”





“道が巡れば欠片の魂”





“欠片巡れば環となり紡ぐ”






“紡げば一翼はニ翼となる”







“ニ翼となりて紡いで一翼の環”






“紡いだ環は円となり環となる”





“紡ぎ環となり円となり巡り結べは”





“理を超え円環と成る”




『そして今まさに成っている…』




『成って一翼と紡げばニ翼の円環…』




『そして炉が灯れば悠久の煇』





誰もがそれを願いながらも




誰もが願わなかった




誰にも成し得ないとわかっていたから




神々すらも願わなかった




しかし




翼の2人だけが願い続けた




奇跡では決して辿り着けない




理を超えねば辿り着けない




だからニ翼は辿り着いた




運命なかれ、司るは理






バタンっ!




入り口のドアが勢いよく開く




ちいさな一翼が見える




そして弾み、鈴を鳴らし、理を超える




『ユメリカは頑張ったなのですーーー!』




むっふーーー!




空気を読むなんて言う”理”は軽く超える者




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