第9話 お腹いっぱいです
それは耳だ。
紛うことなき耳。
頭上にある耳だ。そう。
“ケモミミ”
何故?なぜ女神様にケモミミ?
ぐるぐるとまた思考が巡る。
そんな僕の思考を読み取ったのだろう。
女神様はバッと両手を頭の上へとやった。
そしてしばしモフモフ。
ずるい。
すると今度はさっき出してあったトランクへとダッシュ。
猛ダッシュだった。
ゴソゴソと何かを探しそれを出して確認していた。おそらく鏡だろう。
その後見事な程の万歳ジャンプを決めていた。
再び猛ダッシュ。今度は僕の方へ。
そして笑顔だ。
『お、お兄さん〜!み、みみ、見てください!これ、これ!耳が耳があるのですー!』
大興奮だった。
うむ。とても似合ってらっしゃる。
『えへへ、えへっ!もうっお兄さんは〜!えへへ』
とにかく嬉しそうだった。そんな姿を見て僕もホッコリとした。
しかし何故急にケモミミ?
改めて考えると不思議だ。だがすぐ別の思考へと移る。
なぜ今僕に手足がないのだ!
僕だってモフりたいのに!
『え、え〜。だ、ダメですよ!お兄さんはユメリカの耳をモフれないなのですぅ!』
な、なんだと⁈
つい。そんな事を思ってしまった。そしてフルフルしていた僕を心配したのかそれとも呆れているのかわからないが白黒の2つの魂が僕の周りをぐるぐる周りだした。
さながら衛星周回だ。
それを見て僕は反省と共にようやく落ち着く事が出来た。
ふうーーーー。
もはやコレに限るな。うむ。
『この耳はお兄さんのおかげでもあるのです!ありがとうなのです!』
うん?どゆこと?
『この神域に満ちる神力とユメリカに宿る神力がパワーアップしたのです!あっ!じゃなくてたっくさん増えたなのです!』
ふーむ、なるほど?
何やら神力が増えるとケモミミが生える。と。
うむ。わからん。
『むっ!むうー!もうっお兄さん!わかりますよね?お兄さんならきっとわかってるのにユメリカを揶揄って楽しんじゃってますよね!むっむうーっ!』
い、いや。普通にわからんのだが。
何やら僕の行動のせいで女神様をイジるキャラみたいになってしまっていた。
うむ。反省だな。
『えっえっ!ほ、本当にわかんないなのです?ユメリカで遊んでるんではなくて?』
そうなんです、本当にわかんないのです。
『そ、そっか〜。えーとさっきのお兄さんに与えられた神聖魔法のスキル。あれのおかげなのです!ユメリカ自身もお兄さんを転生させる為にお仕事をしてましたがお兄さんにスキルを与える為に”神々の力”がユメリカを通してお兄さんへと渡ったのです!』
『たっくさんの神々の力がユメリカを通る事によりユメリカ自身の神気回路も拡張されるのです!そして拡張された事によって今までよりもたっくさんの神気を取り入れる事が出来たのです!』
うむ。なるほど。
要は身体に宿る神気の容量が増えたという事か。
『そう!そうなのです!これは凄い事なのです!日々の信仰から神気、神力を少しずつもらい貯めていく。長い時がかかるのです!それなのにスキル授与のたったの一度で例え神聖魔法という大きな力だったとしてもすごい事なのです!』
『神聖魔法の流れ込んだ量がとっても多かったのです!それは受け取るお兄さんの魂の器がとっても大きかったという事なのです!だからこそユメリカの器も広がってたくさんの神気が貯まったなのです!』
なるほど。しかしそれは女神様が作ってくれた器のおかげじゃないのかな?
『むっ!むぅー!お兄さんはダメダメなのです!もう何回も言いました!確かにユメリカがここで直接つくりました!でもベースはお兄さんの魂なのです!今までの人生、世界を渡るに耐えうる魂力!それがあっての事なんですー!』
力説だ。
そういえばそんな事を聞いた気もするなぁ。
うむ。謙遜しすぎるのは日本人の習性だな少しずつ変えていかねば。この世界に馴染む為にも。
そして未だにわかっていない事がある。
なんだったらずっと思っている。
なぜ神気が増えるとケモミミが生えるのだ?
もう疑問はその一点しか無かった。
『む!そ、それでしたかぁ!その理由は内緒なのです!内緒というよりは制約で言えないなのです!』
最大の疑問が制約という最強の壁に阻まれてしまった瞬間だった。
うーん、仕方ないか。
だって制約だもんね。
すると女神様。ハッとして今度は自身のお尻をまさぐりだした。
やめなさい、はしたないですよ。
そしてちょっとしょんぼりしていた。
もう僕にはわかったさ。みんなもわかったよね。誰に問うたのだろうか。
尻尾
きっと尻尾を探して生えていなかったんだろう。
うむ。今回の脱線はなかなかだったな。
『そ、そうなのです!脱線なのです!まだ転生前にお話ししておく事があったのです!それはお兄さんの死因なのです。そして世界を渡るに至った経緯なのです!』
おおう。ケモミミフィーバーからの一転。
急に重そうな話題だった。
しかしある程度記憶を取り戻している僕なのだ。
死因はたぶんわかる。
わからないのは”世界を渡った”
これだ。
『そうですか。では死因の方はわざわざ伝えないでおくのです。お兄さんも気になっている渡った経緯なのです』
ふうっと女神様はひと息。
『お兄さんも今まさに体感していると思うのです。そしてたっくさんそのお話もしていたなのです。だから薄々それが関係していると感じていると思うのです。』
そう切り出す女神様。
うん。そうだね。薄々、しかしおそらくそれが関係している事は感じていた。
『お兄さんが世界を渡ったのは”魂に刻まれた縁”そしてその”縁”をとてもお兄さんが大事にしていた事なのです』
やはりそうか。
最初から言いようの無い感覚が確かにあった。
『もうお兄さんも感じているとは思いますが直接の関係は無いなのです。しかし魂だからこそ感じ、見えないその”縁”と”紡いで積み重ねたちいさな”力”に引き寄せられたんだと思います』
淡々と。しかし丁寧に説明をしてくれる女神様。
『お兄さんにこの世界アルステルスについて説明しました。”剣と魔法のファンタジー”と。』
うむ。確かに。
『ここアルステルスは神々の管理する領域の世界の中で一番新しいのです』
『なのでこれまでのお姉さま方や他の神々と色々話し合いより良い世界を創る為に皆様方の培ってきたたくさんの知識と経験を惜しみなく教えて頂いたのです。』
『そして皆で研究をしました。どうしたら素敵な世界になるのかと。その一環で先ほども使用した神々とその世界を繋ぐネットワークも構築されたのです。』
ゴクリ。そんな筈はないのに喉が鳴る。
またひとつ世界の一端を聞く。
『そしてあるひとつの要素をより強く入れてみてはどうか。との結論が出たのです』
やはりそうか。
ファンタジーな世界なのでもしやどこでもこれがベーシックなのかと自信がなかったが。
ここまでに起こった事や話しの内容
それを聞けば、やはりそうかとなる。
『そうなのです。お兄さんが今感じている思っている事がこの世界アルステルスの根幹の一翼なのです。』
『アルステルス』
剣と魔法、魂で紡ぐファンタジー
静寂だった。
視線はきっと合っているのだろう。
しかしお互い動かない。いや動けないのかもしれない。
そして徐に女神様が笑う。
『まさか転生の儀、転生準備でこの世界の一端をここまで明かす事には驚いたのです』
『だからこそ、お兄さんにはこの世界を楽しんでもらいたいのです。難しく小賢しく考えるよりも感じて欲しいのです。感じたからこその行動を遊びをして欲しいのです』
『あの頃を…あの時を取り戻すのではなく。今を、これからを感じて欲しいのです』
『そうする事によって未来が変わるのです』
『魂が紡いでくれる。紡いでゆくから縁となる。縁となるから魂が結ばれる。』
『結び、解け、また紡ぐ。それは環となり円となる。円は周りて巡る道。道を進めばそこに縁。』
『巡り巡りて縁は環、紡ぐは欠片の魂なり』
意味は難しくはっきりと理解は出来ていない。
そう僕は完全に理解など出来てはいない。
だからこそ余計に思う。そして感じる
魂が震えている。と。
それは僕であり僕の力。しかして僕の全てでは無い。
気の向くまま風まかせ。
そんなセリフの方が合いそうだ。
そして再びの静寂だった。
疑問のひとつが少しわかった事で僕は晴れやかになっていた。
先ほどまでのお真面目モードを思い出すとちょっと恥ずかしくなるくらいには晴れやかだった。
そして今また困ってもいる。
お堅い空気が戻らない。
どうすればよいかと思案する。だが名案などと言う都合のいいものはすぐには出て来ない。
うむ。困った。
あと、何気に女神様が放置してくるのでこれまた困った。
なぜ放置なのか?簡単さ。
トランクケースをお片付け中なのさ。
うむ。皆、想いは同じ様だ。ならば行動するのみだ。
そして僕ら3つの魂は追いかけっこをしていた。
なぜだろう?この世界が魂に重きを置いているからだろうか?
追いかけっこがとても楽しい。
きゃっきゃうふふだ。
うむ。地上でも2人とは仲良くなれそうだ。
もうこんなに仲良しなのだから。
時間を忘れて遊べる仲間。なんて良いものなのか。
だからだろう。気づかなかった。
いや、気づくべきだった。
女神様がすぐそこに居た事に。
『むっむううぅーっ!お兄さん!白黒ちゃん!もうっ!もーうっ!また遊んでましたねぇー!大人しくしてなさいってさっきも言った筈なのですぅーーっ!』
絶叫だった。
天罰が下ったかと思った程だ。
3人共盛大に震えていた。今なら良いマッサージが出来そうな程に。だ。
また、しばらく説教を喰らった僕たちであった。
それでも収穫はあった。お真面目モードの重い空気は霧散してくれたのだ。
『ふうーーーーー!』
とうとう女神様が使い出した。
僕の”ふうー”を。
怒りはなんとかおさまってくれたようだ。
やれやれだ。
いえ、僕らが悪いです。
ここは、心が読める場所。危ない危ない。
なぜか首回しだしてコキコキする女神様。
『スキルや能力は渡し終わったので次はギフトを授けます!』
もう結構もらっているのにまだくれる。
大盤振る舞いだ。
『ユメリカが直接ギフトを渡す事も中々無いので有り難くもらってくださいね!』
どうした。なのなの言ってない。
ちょっと怖い。
その予感は当たっていた。
女神様の手が光りだした。よく光る。
こちらへ顔を向けるとニヤリとニヒルな笑み。
そのまま魂の僕は光る手に鷲掴みにされた。
あばばばばばばばばば
比喩ではなく魂への直接攻撃だ。
いや、ギフトの手渡しの筈なんだが。
光るが消えていく。ホッとしたのも束の間
反対の手が迫ってくる。
ちょっ
がしっ。
あばばばばばばばばば
魂が恐怖している。
つまりは僕のだ。
その横で震える2つの魂。白と黒。
フッと光が消えた。ふうー。
目の前の女神様は次の獲物を見ていた。
ほんわか可愛い女神様はどこへ行ったのだ。
すると今度は両手が同時に光る。
震える子羊。白と黒。
がしっがしっ
あばばばばばばばば×2
惨劇だ。
しばらくして2人へのお仕置き。いやギフトの授与がおわった。
僕らはみな思った。女神様を怒らせてはいけない。と。
太古より神々の怒りは恐ろしいと言う事をなぜ忘れたのか。
そして何故僕らきゃっきゃっしてしまったのか。
そんな風に猛反省をしていた。
フッと目の前に影。女神様だ。
え?
『お兄さんは特別にもう少しギフトを授けます』
言い終わるかどうかのタイミングで
僕は両手でそっと包まれた。
あばばばばばばばばばば、あぱーーーっ
『ふうーーーーーーっ』
額の汗をすっと拭い晴れやかな顔をした女神様がいた。
うむ。ストレス発散のあとによく見る表情だ。
ジトっとこちらを見る女神様。
い、いや!あの表情は一仕事終えた爽快感の筈だ!
チラッと
ご満悦のようだ。
ホッとする3人であった。
『ギフトは地上に降りてから確認してくださいなのです』
ふうー。
よかった。なのなの戻っていた。
そして頭の上ではケモミミがピコピコ動いていた。うむ。可愛い。
日常が戻り少し安堵していた。
『お兄さんお兄さん!まだ地上にも降りてないなのです!日常も始まってないなのです!くふっ、くふふ。あわてんぼうさんなのですぅ!くふふっ』
真っ当なツッコミであった。
そうだ。まだ始まっても居なかった。
『使用人のお二人はそろそろお家へ到着する頃なのです』
なんですと。家主の僕よりも先だと?
『もっちろーんなのです!いいですか?お兄さんっ!使用人さんは主さんよりも先に居て万全の準備をするつもりなのです!使用人さんの喜びはそういう所にもあるのです!日本の方の考え方に美徳がある様にアルステルスの世界で使用人さんとして生きる方にも美徳があるなのです!』
『なので!その辺りもお二人からしっかりと教育してもらってくださいなのです!くふふっくふっ』
そ、そうか。そうだな。
色んな矜持がある。
その中で生きていくのだ。僕は。
『お兄さんたちにもコレを渡しておくなのです!』
そう言って手のひらから淡い光りと共に先ほど見たコインが出てきた。
女神コイン。
そうか女神コインが無いとお家に入れないんだったな。
金色に輝く表面に女神様の横顔。
スッと2枚取り出し白と黒の魂の方へ。
一瞬ぶるっと震えたのは気のせいだろう。
『女神コインはお兄さんが認めた人に渡して体内へと取り込んでもらえばお友達が出来た時に自宅にご招待出来たりするなのです!』
『そしてこの女神コインは魂に取り込むので今お渡し出来るなのです!』
言うや否や2人の魂にすぅーっと女神様コインが入っていった。
そして小さく一瞬光り落ち着いた。
『女神コインはこれで本人以外には使えなくなったのです!使用者登録なのです!』
ほう。そうなのか。
なにか他の使い方もあるんだろうか?
『もっちろーん!あるなのです!でもそれは地上で確認して欲しいのです!何に使うかも色々考えたりして楽しんで欲しいなのです!』
ふむ。そうだな。
永い時がある。ゆっくり楽しめばいい。
女神様の手がまた光り出した。
うむ。神域はよく光る。
すーーっと女神様の目が細まった気がした。
が、気づかなかったにした。
うむ。触らぬ神になんとやら。だ。
すると出てきた女神コインの色が違った。
え?銀色?
他の子には金貨で僕には銀貨?
軽くショックを受けていた。
『むっ!むぅーっ!ユメリカはそんなイジメみたいな事はしないのでっす!お兄さんはちょいちょいひっどーいっ事を考えるのですぅ!むう!』
ちがったようだ。ごめんなさい。
『むっむうー。本当にもう!いいですか?よーく見るなのです!』
んー?
鈍色…いや、よく見るとホログラムみたいにやや虹色の光りが見える。
角度によって違う色が次々表れるように。
はっ!
気づいた。僕は気づいてしまった。
そして知っているこの色を。きっとそうに違いない。
《SSR》だ。
スーパースペシャルレアだ。
『くふふっくふっ、ある意味正解ではあるなのですぅ!この女神コインはオリハルコンでは出来ているなのです!』
どどんっ!
そんな音が聞こえそうな程のドヤ顔だった。
オリハルコン、神々が創り出したと言われる伝説の金属だと…?
やばい眠っていた厨二心が震えている。物理的にも。
『くふっくふふっ。やっぱりお兄さんはおもしろさんなのです〜!アルステルスでも伝説の金属として有名なのです!大型のダンジョンの深層でわずかに発見されたり遺跡でも昔は少し出ていたのです!』
『そのくらい希少価値があるなのです!』
そ、そんな希少な金属をなぜ女神コインなん…『ごほんっ!』
っと。危ない。
『むう〜。要注意なのですぅ。イエローカードなのですよ〜。ちゃんと理由はあるなのです!まずはお兄さんがお家の主人と言う事で他の女神コインの上位互換の物をというのがひとつ!』
『魔法やスキルなどを使う時などに非常に伝達率の高い触媒にもなるなのです!』
ふんす。
『そしてこれが本命なのですが”神聖魔法”を行使する為にはオリハルコン製の女神コインが必要なのです!』
ふむ。そうなのか。
神聖魔法をあの力を人の身だけで扱うには大きすぎると思っていたが、こういう事か。
『はいなのです!なので早速お兄さんにINしちゃうのです〜』
そう言って女神コインは僕の中にすーっ入ってきた。
ほんのり暖かい様な感触があったかと思ったが今はなんともない。しかし意識を向けるとそこにある事がわかる。
『おお〜!さすがお兄さんなのです!感知もバッチリなのです!これなら問題なく残りも渡せるのですぅ〜!』
ふむふむ感知も問題なしと。
んむ?残り??
と不思議に思い女神様を見たら両手一杯の金貨があった。
そんてニンマリだった。
『お兄さんに友達100人でっきる〜かな〜♪』
鼻歌交じりで僕の体、魂に
女神コインをジャンジャン投入してくる。
ちょ、ちょ、こんなに入るんですか⁈
え?なんで入るの?
あー、でもなんか気分的にパンパンじゃないですか。
え?まだ入れる?嘘でしょ?
ちょ、女神様〜
お腹いっぱいです
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