第4話 そっかぁ…
静寂。
静寂って調べてみて。
【物音もせず静かなこと。しんとしてものさびしいこと。】
静寂。
ものさびしいね。うん。
ふと神殿を見る。上の方にある鐘楼。
鐘でもならないかな。
鐘は鳴らなかったが鈴が鳴った。
いや、鈴みたいな美しい声色だった。
女神様の。
『な、なんとなくでっ!ご、ごめんなさいっ!』
ペコリである。
王様でも庶民には頭を下げない。
女神様がペコリはダメだ。きっと。
だから虫の息の僕は息をふきかえす。
虫くらいになる。
『いえいえ〜き、気にしてませんから。大丈夫です。それよりも女神様が僕なんかに頭を下げないでください。息の根が止まりそうです。』
虫のね。
ふぅ〜。もう今日はふぅDAYだ。
うん、思考巡らず破壊しそう。
まあ考えても仕方ないだろうよ。
だって神様、いや女神様の考えなど虫の僕にはわからないのだから!
そうわからないことに執着している場合ではない。
異世界。アルステルスへとこれから転生するのだ。
そこを楽しむ為にもここでしっかりと聞いておかねば。
幸い女神様の手元には”転生説明マニュアル”がある。
きっとまだまだ説明してもらえる事があるだろう。
その間に心を持ち直す。回復させよう。
あ、回復魔法とか使えるのかなあ?
回復大事。
貰えるなら真っ先に欲しい。
そうだ!剣と魔法の世界だ!
僕にも魔法が使えるのかな?
『あの、ユメリカ様!これから転生させてもらう世界で僕は魔法が使えるようになりますか?』
若干まくしたててしまった。
しかし女神様は笑顔だった。
『はいなのです!もっちろんお兄さんは魔法が使えるのです!』
『おおっ!魔法が使えるのか〜!嬉しいな。それってどんな魔法が使えるのですか?それも本人の才能のようなもの有無で変わるものですか?それとも魔導書なんかを手に入れるパターンですか?それともそれとも…』
気づいたら、いや気づいてないからだろう。
めちゃくちゃ早口で喋っていたみたいだ。
マシンガンだ。
『あわわ、あわ』
女神様もあわあわだ。
それにも気づかないマシンガンの僕だった。
そしてはたとそれが止んだのはひとつの言葉だった。
『お兄さん落ち着いて!』
ハッとする。
どこかで聞いたセリフだ。
いや、言ったセリフだった。
僕の顔は真っ赤になった。たぶん。見えないからわからないが真っ赤だろう。
はあはあと2人の息の音がする。
息継ぎを忘れてマシンガンの僕と大きな声でマシンガンを止めた女神様。
2人の呼吸音。
そしてお互いにハニカミながら笑い出す。
「「ふふふふっ」」
地上ならラブコメが始まったかもしれない。
が、幼女女神様と庶民魂なので始まらない。
乙である。いや、おつかれの方。
とにかく僕は少々焦り過ぎたようだ。
ここは女神様のマニュアルの説明を聞く場面のはずだった。
僕の少年心はスピードの向こう側へと走り出しそうになっていた模様。
うむ。反省。
そして落ち着きを取り戻した様子の僕を見て女神様の説明が始まる。
『では転生の説明をするなのです!』
そう言うと再びの本。
宙空に浮かび上がりパラパラ〜。と。
さて、びっくりである。
さっきまでのグダグダは一体何だったのだろうか?
思わずにはいられない。
なんでかだって?そんなの決まってるだろうよ。
スムーズなのだ。とってもスムーズ。とてスムなんだよ。
ん?とてスム?
僕はおじさんなのかな?自分が見えないのでわからない。まあいい。
そう女神様の説明は同じ人とは思えないほどのスムーズなのだ。
アルステルス。
剣と魔法のファンタジー世界。
ありましたよ、奥さん!
あれですあれ!わかりますよね?そうあれ!あると便利、色々頑張りやすいやつ!
まあちょっと見え過ぎて批判もある事でしょう。
しかしそのクレームは僕にはノーサンキューです!だって僕が作った訳ではありませんからね!
と言う事でそうあれです!
何もわからず現地転移パターンで勇気を振り絞って出てこなかった時のダメージが超深刻なアレです!
“ステータス”
やりました!はい拍手〜!
なぜかって?決まっているでしょう好きなんです僕が!
やっぱり異世界に行って見てみたいです。
きっと本人にだけ聞こえる「ヴォン」って音がして目の前に表れてくれるはずです。
ん〜!たまりませんね!
そしてレベルもありました!こちらもラノベなんかでは賛否分かれますかね?
でも僕は好きなんです。だってコツコツ上げたいじゃないですかLv.
あっ、ちょっとウキウキして”L”と”v”にしちゃいました。ふふふ。
そして各種パラメータも完備でありました!
もうここまで来ると気分はひゃっはっー!ですね。
もちろんそれだけじゃありませんよ!
ファンタジーですからね。そう。
“スキル”
いやーロマンです!
しかもしかもありますよこちらも!
“ユニークスキル”
来ましたよこれ〜!やはり男子たるもの憧れます。ユニーク。いい響きです。オンリーですよオンリー。
「一度は持ってみたいユニークスキル」
うむ。そんな格言出来てもなんら不思議では無いかと愚考する次第であります。
だからでしょう。気づかずに出ていました。
『ふふ、ふふふっふふふははっ』
はい。マンガ読みながら1人で声出して笑ってるひとを見た時のアレですね。ふふ。
『お兄さん!大丈夫なのですか?こ、壊れてないですよね?まだ説明の途中なのですぅ』
逆転の立場だった
今度は女神様が落ち着かせるターンだったようだ。気をつけねば。
深呼吸。
鈍化したはずの精神を落ち着かせる。きっと鈍化無しならお犬様のお帰りパニック(嬉ション付き)くらいのテンションだっただろう。
鈍化有難い。
『落ち着いたらなのですね!では続いては〜種族であります!』
『おおっ!やはり色んな種族がいるのですか!定番有名どころはエルフ、ドワーフ、獣人、魔族、あー、あとはあとは…』
『はいはいなのですぅ〜!お兄さん説明するので待ってなのです!どうどうっ!』
『はっ!』
お犬様からお馬様へジョブチェンジしていた模様。
うむ。ブルルルっと落ち着こう。
『はーい、落ち着いたようなのです。そうですお兄さんが言う様にアルステルスには様々な種族いわゆる人類種がいるのです!こちらもたくさんの派生を生んでいるのであります。』
ふむふむ。定番の種族が基本みたいだなー
竜人とかもかっこいいな。尻尾ってどんな感じなんだろ?
ふふふ、もうこの時点で楽しいです女神様!
しかしどうやって種族選ぶんだろう?いやそういえば1人で嬉々として喜んでいたが自分で選べるとは言われて無いな。
あれ?
これはひょっとしてアレコレ選ぼうとしてたけど
「あなたの種族は〇〇なのですー、スキルはコレで魔法はコレなのですぅ!え?こちらのスキルがほしい?それは無理なのですぅ!今回は諦めて下さいなのですー!」
などとなるのでは⁈
そーだよ!だって魔法やスキルの才能は女神様の贈り物。地上の人々は選んだりしてないはずだ。
痛恨だった。
真っ白な空間に居すぎて感覚がおかしくなっていたのかも⁈
突然の絶望感。
いや、絶望とか失礼だけどね。ここはひとつアレに賭けてみるしか無いよね。
“転生特典”
そう3つくらい貰えるのが平均のやつです!
いやラノベよってはひとつとかもあるなぁ。
いかん。そんな事を考え出したら急に不安になってきた。しかも一度知ってしまった贅沢がやめられないヤツみたいじゃないか!
自重だ自重。諌めるのだ自分を。
ヒーヒーフー。
ふう〜。ちょっと落ち着いた。
『だ、大丈夫なのです⁈』
『あはははっ、大丈夫ですちょっと空回りしそうになっていただけですから』
『そ、そうなのです?大丈夫ならよかったのです!』
元気に答える女神様。ユメリカ様。
ちょっとした休憩みたいな空気になったので少し気になった事を何気無しに聞いてみた。
『そういえばこちらのアルステルスにあるステータスやスキル、魔法やら種族そして星としての環境やダンジョンとかって割と地球でみるいや日本でよく見る仕様に近いですよね?』
そうなのだ。近いんだよなー。
近いと言っても日本での異世界はもちろん空想だ。現実と空想混ざると危険なので要注意だが。
そして答えはわりと簡単だった。いやユメリカ様からしたら簡単なものではなかっただろうけど。
『そうなのですっ。ベース自体が地球の小説なのです!そこにお姉さま方先輩女神にアドバイスをもらったらしてたなのです!』
ビッ!と右腕を挙手しながらの満面の笑みであった。
『ほへぇ〜そうなんですね!でも星やシステム?なんかは設定出来ても人種がどうやって増えていくか魔法や技術がどう発展するかなんてわからないから僕なんかが想像するよりもとっても大変なんでしょうね!すごいな〜』
いやマジで。お世辞とか皆無よ。
そもそも星創るって何よの話しだしね。
ステータスあっても魔法やスキルの使い方なんて細々と女神様が説明する訳でも無いしね。
そうそう、やはり巷にある設定では無いんだけど女神様による直接干渉は基本的に出来ないみたいだ。
そう基本的には、だ。
ここらが僕の知っている物語りと少し違うあたりだ。
さらりと触りだけ聞いただけなので全ては当然知らないがよくあるあの問題だ。
教会
いやー皆さんも思いません?
悪徳教会の多い事多い事。なんだったら僕の主観では8割くらいは”悪”ですよね。
能力選定の儀みたいなヤツでレアなスキルや回復魔法を授かろうものならばまぁ酷いことになっちゃいますよね。
はい、それ!
囲い込み。
従わなかったら攫います。
枢機卿?司祭?助祭?…もれなく黒。真っ黒。賄賂の応酬。闇ギルドのお得意様。何だったら教会専用の暗部までいる事多し。
まぁね〜。地球での物語りは所詮空想。そして求められるざまあ展開。勧善懲悪は水戸のおじいちゃんの頃から人気です。
ちょっと脱線。
何が言いたいかと言うとこの異世界アルステルスでは教会はほぼほぼクリーンなんですっ!
ピッカピカ!とまではいかない様ですがクリーンなんです!庶民の味方なんですって!
びっくりです。
いやーもし僕もチートな能力貰ったら教会にどう関わらないようにしようか今からなんだったら前世から考えていた次第であります。
アルステルスすごっ。さすがユメリカ様。
そしてそのカラクリも結構シンプルだった。
僕も知ってるみんなも知ってる”神託”
もちろんそれはあるらしい。
でもみんなそれを利用して腐敗していったりしません?そう神の御告げを自分たちの良いようにして儲けるアレです。
しかしアルステルスは違った。
いやユメリカ様が違った。
“下るのです”
さがるじゃありませんよ。”くだる”のです。
【天罰】
または神罰とも言いますね。
ユメリカ様も頻繁にドッカンドッカンやる訳じゃ無いらしいですが”即”のやつがあるそうです。
聖典
守らなきゃちゅどーんって訳ではなくあれです。
ご都合的に解釈してブタ司祭とかがのさばる様なことになるやつです。きっと聖典のこの言葉は突き詰めればあいつら異端だから俺が成敗して金品はもらうぜー。みたいなやつです。
即•罰らしいです。
うむ。悪•即•ざ…。うむ。それっぽいやつです。
何はともあれこれから自分が行く世界の教会がクリーンで安心した次第です。
女神様は
『えへへ、ほ、褒めすぎなのですぅ〜』
と、りんご模様でした。眼福。
何にしても世界の生活様式は地域によって差はあるものの大体イメージする中世ヨーロッパと言われるものから魔法的文明が加わり近世ヨーロッパに近い所もあったり何だったら地球的にはオーパーツ的なのもジャンジャンあるらしいのでこればかりは行ってからのお楽しみですね。
ツラツラと説明を受けつつ質問したりユメリカ様の偉業を褒めたりなんやかんやでそろそろ次のステップらしい。
なんぞや?思う僕です。
色々と話しは聞いていたけど来ましたよ。
能力の授与
よかった貰えるんだ。ホッと一安心。
女神様も『もちろんあるのです〜!ユメリカが能力授与するのです〜!ちょっと準備するのでお兄さんそのまま少し下がって欲しいのです!』
そう言われ僕はその場から後ろの方へと下がっていった。
途中『もっと下がって欲しいのですー』と何回かあり10メートル程だろうかさっきの場所から移動した。
そしておもむろに女神様が杖を取り出した。
え?どこから?亜空間みたいなやつかな?
マニュアル本の演出がすごかったせいで杖の出所に逆に驚いてしまった。
その杖を頭上に掲げなにやら呪文のような歌のような荘厳な響きの声音が鳴り響く。
杖を中心に輪っか状の光の波動みたいなのが段々と重なり
そこから一気に図形と文字の羅列した円形の模様があらわれる。
魔法陣だ。
僕は内心大興奮だ。
精神の鈍化が無かったらヤバかったかもしれない。
それくらいドキドキしていた。
魔法陣は積層型に何重かに重なっているものやオリンピックの五輪の様に端が少し重なりつつ女神様のまわりにやや扇型に並んでいる。
これから異世界へと転生すると聞いていたが目の前で荘厳な、幾重にもあらわれている魔法陣に釘付けだった。
そして魔法陣がゆっくりと回転しだし輝きが強くなったかと思われたところで女神様の鈴の音のような透き通る声が響いた。
『アルステルス•コネクト•アカシック』
魔法陣が一気に地面へと向かう
そして女神様は杖を地面へと打ちつけ
『コール•レコード』
『ゲート•ゴッデス=ユメリカ』
荘厳だった。
いやそれすら陳腐かもしれない。
光り輝く魔法陣と杖。そして女神様。
すると地面から召喚されるかの様に様々な物体がせり上がってきた。
ぼくは息を呑んだ。
言葉も出ない。そんな状態だった。
そして光が収まりその中心にいる女神様はひと息『ふぅ〜』とついてから僕に語りかけた。
『お兄さんそちらの正面の魔法陣に立って下さいなの』
半径1メートルくらいの幾何学模様の魔法陣の中心にフラフラと立つ。
そして正面へと顔を向ける。
女神様は相変わらず満面の笑みだ。
そして僕は途中から思っていた疑問を
そう疑問を女神様へと投げかける。
『そ、その、ユメリカ様。ひとつ質問してもよろしいでしょうか?』
ん?と言う様なそぶりの女神様。
『はいなのです!なんです?』
聞かない方がいいのかもしれない。しかしどうしても気になってしまう。
『そ、そのユメリカ様の周りに鎮座しているそれらって…えーと』
先程の扇状に並んだ魔法陣からあらわれたそれに目を向けながら言葉を続けた。
『それって、も、もしかしてPC的な機械的な、そ、そうコンピューターっぽく見えるのは見間違いでしょうか?』
そうなのだ。あれだけ魔法陣がギュンギュンしたのに出てきたのはゲーマーやFXとかやる人が使う様なモニターやらキーボードやらなのだ。
そして女神様の返事はあっさりとしていた。
『はいなのです!最新システム転生モジュールVer2.0なのです!』
真っ白な空間、荘厳な神殿、神秘の魔法陣。
そして目の前のどことなく見た事のある
機械
『アップデート後の不具合もなくお姉さま方も絶賛の最新バージョンなのです!ハイテクは正義なのです!神域にもテクノロジーの風が吹いてるのです!』
言葉は出てきただろうか、それは独り言だったのかもしれない。
ただひとこと。
『そっかぁ…』
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