第3話  ご、ごめんなさい

つい。


ついってあるよね。うん。



出ちゃう時あるよね、つい。



『よーし話しを聞こう』



先ほどのセリフである。



つい、出ちゃった。うん。



だってさ、僕けっこうな時間ここにいるよね。



ラノベや小説ならプロローグだよこの真っ白な空間。



きっと自分で執筆していたら3話くらいになってるよね。



長いよね?うん。



こーいうのは転生してからアレコレ冒険があったりするじゃん。


「こんな能力聞いてねーぞ駄女神がー!」とか言ったりね


「どこに転生させてくれやがったんだー!」とかね。



ふうー。まだ転生理由も聞いてないよ。



まだ真っ白だよ。



そして女神様の手には




”転生説明マニュアル”



なんでだろうね、なんで持ってきていなかったんだろうね。



そして本を出すのにさっきの派手な演出なに?



雰囲気的には”神級武器”だったり”アーティファクト”だったり出てきそうな光景だったね。



本だったけど。



マニュアル本。



うん、考えても仕方がないよね。



よし!話しを聞こう!



『ユメリカ様そちらの本は?』



『う、うん。お兄さんに転生の事をわ、わ、わっかりやす〜く説明する為にユメリカとお姉さま方と一緒に作った本なのです!』



えへん!



そんな後が聞こえそうだ。



うん。目の前にいるのは”ちいさな”女神様だ。



多少の粗相はあっても仕方がないさ。



だって完璧な存在なんて味がしないだろう?



誰に問うでもなくそんな事を思う今日この頃。



『そうなんですね!すごい!わざわざマニュアル本まで作られるなんてさすが女神様でね!その本があればとってもスムーズに説明が出来そうですね!』



おかしいな、感情が揺れている気がする。


ちょっと皮肉っぽくなってないか?


しかしそこは”さすユメ様”



『そうなのです!お任せください!』



笑顔が眩しい。花が咲いたようである。



うむ。眼福。



そして本題だ。


女神様が本をパラパラめくる。うん?めくって、、ない?


本が宙に浮いてるよね、そして勝手にパラパラ〜パラパラ〜。 



すごっ!


やっぱり女神様なんだねぇ、神力?なの?それとも神気?なんだろー?とにかく超常パワーで本人が勝手に検索しているみたいだ。



そしてとあるページでピタっと止まった。



きっとそこに書かれているのだろう僕の使命が。なぜ転生し何を為すかが。



色々なパターンを高速で考えそうになるがやめる。



だってすぐ答え合わせになるから。



ドキドキ。



ドキドキ。



『ありました!お兄さんの転生目的なのです!』




ふう〜あったかぁー。ドキドキするわー。


なんか最初の頃より感情出てるような気がしてきた。まあいい。



『アルステルスで自由に過ごして欲しいのです!特に使命とかはないなのです!』






…………………え?




じ、自由?使命がない⁈



え?



意味がわからない。



いや、言っている意味はわかる。しかし転生目的が結局わからない。



だって転生してから好きにしていいとしか言われてないからね。うん。



『え、えーと。その、転生してからですかね?好きに自由にしていいってのはとても有難いです。はい。とくに使命、あ〜なんか魔王とか討伐して世界を平和にして〜とか言われなくてホッとしてるくらいです。はい。』



軽く僕の方が挙動不審だ。しかし肝心な事をまだ聞いてない!



なぜ僕が転生するかだ。



その目的だ。



すると女神様『あっ』と慌てたご様子。



指でページの先頭あたりをなぞってませんか?



うむ。うっかりかな?



ふふ、大丈夫です。



なんせちょっと慣れてきましたから。うむ。



『ありました!お兄さんの転生目的なのです!』



もう一度律儀にやり直すようだ。



セリフまで同じなのはまあそっとしておこう。



『アルステルスは長い時間をかけてユメリカが発展を見守って、あ、ユメリカとお姉さま方のアドバイスで発展を見守ってきたなのです!色々な制約や不測の事態、幸や不幸、生と死、輪廻、自然と開発、それはもう色々とありました』


とつとつと語る女神様。


急に慈愛の雰囲気になる。やはりこの方は女神様なんだな。


『そしてアルステルスはある一定の発展を遂げて安定化しつつあります。人類種の感覚での安定という意味ではなく星を創造する上での安定なのです。』



うむ。どうした?



急にそれっぽい雰囲気と予想以上の真面さに面を食らっている。いや、面食らっている。


続く続く。



『そして神の視点で安定化するとその中での文明や文化が破壊と再生を繰り返しが起こるのです!それは星としては安定、しかしながら古い文明と新しい文明が交互に繰り返し人類種の優劣、差別が起こり、女神たるユメリカの言の葉を歪曲し流布しぶつかり戦になったりするなのです。』


『そしてユメリカが思うよりも世界は澱む事もあったりなのです。それらは魔物など影響を与え時に神々の想定を超えそうになることあったりなのです。』


『それでも世界が崩壊したり人類種が絶滅する程の事では無いのであります!』



ふぅー!急に難しくなって重くなるかと思いきや世界の崩壊とかは無いのね?うん、よかった。



うーん。これはきっと女神様たちの時間感覚と人類である僕との違いなんだろうなー。



結局のところ、そう!結局なんだが



まだ転生目的を聞いていないだな。



ふーむ。これはきっとヒトたる僕なんかでは予想も及ばないなどあろう。



だって人なんだもん。



神様基準はもうわからん!



そしていよいよ気になるアルステルスへと僕を送り込む理由が聞ける時がやってきた。



『お兄さんをアルステルスへと転生してもらう目的、理由なのですが…』



ゴクリ。



思わずだね、魂でも雰囲気でやってしまうよね。



   






『お兄さんにユメリカの星アルステルスを楽しんで貰いたかったからなのですぅーー!』






…………へっ⁈




な、なんて言った⁈




『た、楽しんでもらいたい…?』



『はいなのです!そーなのです!!』



今日イチの満面の笑顔だ。



屈託のない笑顔。



この表情の事を言うのだろう。




思考が高速で回る弊害か、ぐるぐるぐるぐるとセリフが回る





“楽しんでもらいたい”





色々と考えすぎたせいで余計に混乱している。



そう。混乱しているのだ。



おい、精神の鈍化はどこへ行った?




『な、なぜ⁈』



と、つい固く低い声色で聞いてしまった。




つい。である。



一瞬、女神様はビクッとなったが




『お兄さんならきっと楽しめると思うからなのですー!』



たしかに僕はそういった世界が好きだ。



名前も年齢も思い出せないのにその部分の記憶はある。



日本では、地球では使えない魔法。



科学では起こせない奇跡。



見たこともない魔物。



夢とロマンのダンジョン。



ではあり得ない数々。



そう、僕はきっと楽しめる。



そんなワクワクした世界に行ってみたいとずっと思っていた。



ずっと…?



何かが霞むような気がした。



だけどもっと気になる事で上書きされた。




『ユメリカ様。ありがとうございます。きっと僕は楽しめると思います。そして楽しみです。』



だからこそ僕は聞きたかった。





『なぜ僕なんでしょうか?』





そうなのだ。なぜなんだ?




だって地球の人口どんだけだと思ってるんだよ。



日本だけでもだよ。



その中で僕。



きっとこの転生は日本の記憶を持ったまま行くのだろう。



輪廻の中で前世を忘れて転生しているものもいるのかもしれないがきっと僕は違う。



なぜそんな確信があるかなんて考える事もない。



だってそうするなら今ここに僕は居ないはずだから。




何かしらあるからここにいる。




もしかしたら現地の無理矢理おこす勇者召喚の途中の可能性も考えた。



が、ユメリカ様は言った。



転生して楽しんで欲しい。と。



ならばきっと召喚の途中でチートな能力をもらう場面ではないだろう。



やはり思考は巡る。



なぜ、なぜ僕なんだ⁈



転生先での使命も目的も無い。



楽しんで欲しい。



それだけ。



じゃあ僕以外でもこんなファンタジーな世界が大好きっ子が居ないのか?



否っ‼︎



居すぎるよ、特に日本。



その中で僕が一番情熱的なのか?



その辺りの記憶は曖昧ではあるがそんな事はないだろう。



仮にあったとしてもここは異世界。



どうその想いが届くのだろう?




わからない…




なぜ僕なんだ⁈



混乱がおさまらず思考の沼にハマりかけた頃…



『ーーーーぃーーーぁーんー』



鈴の音のような声がした



『お、おにいさんっ!』



ハッと顔を上げる。



目の前には心配そうな不安そうな顔をした女神様、ユメリカ様がいた。



目と鼻の先だ。



どのくらい思考に耽っていたのだろう。目の前の人影に気づかないほどなんて。



いまだ声を出して返事をしていなかった事に気づき声を出そうとしたところで


『大丈夫?』


そんなありふれた言葉を聞いてつい気が緩んだのだろう。



そう、つい。だ。



『大丈夫。ありがとう。』




そう言いながら僕の手は





女神様の頭を笑顔でなでていた。




びっくりだ。




つい。




つい。とはおそろしい。



今まで居たのかなー?つい。で女神様の頭をなでる不届きもの。



さぁーーっと血の気が引いた気がした。



魂なんで血はないのかもしれないが気分的には確実に引いた。




『ご、ごめんなさい』




つい。だ!



たぶん普段使っていた言葉だ。




女神様にごめんなさい。つい、頭を撫でておいて謝罪の言葉がごめんなさい。



おぅふ。



終わったかもしれん。




まだ転生は始まってないけど終わったかもしれん。





始まる前に終わる。





ハジオワだ。




なんだそれ?高速思考がうらめしい。




今日何度目かの恐る恐るだ。





女神様を見る。   




さっき居た目の前から説明をしていた5メートルくらいのとこへと戻って俯いていた。



両手はだらりと体に沿って伸びていたがよく見ると拳を握り小刻みに震えている。




あぁ、これはあれだな。




きっととんでもない破壊力の”女神パンチ”的なのが繰り出されるのだろう。




走馬灯なのかそれとも極限状態によるゾーン発動なのかはわからない。



だけどよく見える。ゆっくりに。



そう、ゆっくりゆっくりと女神様の右の拳が上へとあがっていく。



腰を越え、胸を越え、肩を越え、頭を越える。



そしておもむろに。その拳は開かれた。



そこで女神様の声が小さく囁くように響く。






『えへへへっ』





そう言いながら自分の頭を撫でていた。





どうやら嬉しかったようだ。




まさかの連続過ぎて僕はその場にへたり込んでしまった。




自分の過失とはいえ生きた心地がしなかった。



当然、今死んでいると言う事は別にしてだ。




この真っ白な空間で考え事はよくない。思考が巡りすぎると反省した。



そして改めて



『ユメリカ様不敬にも御髪を撫でてしまい大変申し訳ありませんでした』



土下座だ。



今までで一番綺麗に出来た自信がある。





それ程までの土下座をキメタ。




『え⁈お、お兄さん⁈』


慌てる声が聞こえたが僕はびどうだにしない。


誠心誠意の土下座。



その動かざる事山の如しを目の当たりにした女神様が気まずくなったのだろう話題をかえた。




『その、大丈夫なのですよぉー。あ、何でお兄さんが選ばれたか答えてなかったですね』




ハッとして僕は頭を上げてしまった。



それを見た女神様は笑顔だった。



してやったり顔をしていたような気がしたが気にしないことにした。



理由だ。



それが聞ける。



『お兄さんが選ばれた理由。ううん、ユメリカがお兄さんをこちらに呼んだ理由は…』



笑顔からのやや紅潮。頬のだ。



少し俯いたあと意を決したように顔を上げしっかりと僕の方が目を見やる。



金色の凜としながらも可愛らしいその瞳がぼくを射抜く。










『なんとなく、ですっ!』







絶句だった。





先ほどのまでの巡り巡りの連続の思考の沼からの一転。




真っ白だった。



この場と同じくらいの真っ白になってしまった。頭が。



倒置法。



それだけ浮かんだ。



そしてしばしのフリーズの後



絞るように囁くように



意識もせず僕はつぶやいていた。





『なんとなく…』




鈴の音ではなく虫の息だったろう。




それは音ではない。




そして本当の鈴の音のような女神様の声が僕に届いた。










『ご、ごめんなさい』























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