第2話  よーし話しを聞こう

大声だった、思ったよりも。


うむ、倒置法。


そんなどうでもいい事を考えている。


そしてまた泣いてしまうかもと焦っている。


そんな、僕です。


やっちまった。あまりにも捲し立てるのでつい大声で言ってしまった。


『女神様おちついて!』


馬鹿者め!落ち着くのは僕だ!


と逡巡する。しゅんじゅんとか普段は言わないのに。とか余計な事を考える。



つまるところ現実逃避したい気分だあった。


恐る恐る、女神様を見やる。


すると、なんと言う事でしょう‼︎


女神様は泣いてはいなかった!よかった!


でも真っ赤な顔ではあった。


『ご、ごめんなさい〜。また慌てちゃった』


うむ!泣かないのであればこちらはなんの問題もありませぬ!


もはや僕の言語がおかしくなりそうではあった。


閑話休題


ようやく僕は本題というか自身に起こっているであろうこの状態について質問をする。


『えーと、ここはどこでしょうか?、そして僕は今どのような状態なんでしょうか?』


長かった…やっと質問をすることが出来た。


『は、はい。それについて説明をさせて頂く時間であったのです』


なんだろう神殿が光ってから女神様の印象がずいぶんと変わったようだ。


いや、まだちょっともじもじしてるか。


『ここは神域。神と神に連なる者が住まう場所なのです。そしてわたしはこの星の創造の一翼にして管理する者であるのです。この星アルステルスにおいては女神ユーメリカとして見守る者になります』


『ん?女神ユーメリカ?あれ?女神様のお名前はユメリカ様では?』


ちょっとした事が気になってしまいつい口を挟む。


そしてまた女神様は真っ赤になってしまった。


え?なんで⁈


『うぅ〜、言わないでください〜。は、初めての神託をする時にき、緊張し、してしまってゆぅ〜めりかってなっちゃったなのですぅ〜。うぅ〜』


な、なるほど。これは女神様人見知りのうえ緊張しぃなんだなきっと。


そして黒歴史の”ユーメリカ様”についてはあまり触れない方がいいだろう。


黒歴史はツラい。うん。うん?あれ?僕の黒歴史ってなんだったっけ?


そうだここに来てから自分の事がよくわからない。なんだこれ?


しかし女神様の話しを無視する訳にはいかないので


『そうだったんですね。でもユメリカ様でもユーメリカ様でもどちらも素敵な御名前ですね!』


そう、もはやどちらでも良いのだ僕的には。いや罰当たりか!


『あ、ありがと!お兄さんはいい人!』


うむ。泣かなくてよかった。


そして気になる事をまた質問する。


『僕は死んでしまったのでしょうか?自分の最期とかの記憶、そして名前も何をしていたかも思い出せないのですが。でも地球に住んでいたとか色んな技術があったとか小説や漫画、テレビ、料理なんかの生活様式は憶えているみたいなんですがコレってなんですかね?』


そう、ぜんぶ思い出せない訳ではないのだ。ここがわからない。



すると女神様はすこし困ったようなそれでいて悲しそうな表情になった。


『そうですね、どこからお話しをしようかと思ったのですが。ひとまずお兄さんの今の状態から説明するのです。』


ちょっと慌てたのかな?大人びた話し方の中に先ほどの子供っぽい話し方が混ざっている。


いかん、また余計な思考になった。


『お兄さんは今この神域に神に連なる者以外の存在としてここにいます。人の魂で神域にあり続けると魂が崩壊または大きな傷を負ってしまうのでパニックにならない様に情報制限と感情の鈍化を施してあります。それによって普通の人間が感じるモノを排除しているので理路整然と思考が出来る状態なのです。』


なるほど〜、さっきからやたら話しを聞きながら他の事を考えていたのもそれが出来る状態だからか。


『そしてお兄さんは地球ですでにお亡くなりになっているのです。その死因などはこの後少しお話しをするのですが今ここに何故いるかと言うと…』



そうか、死んでしまったのか。ふむ、やはり冷静だな。


まあ、それはいい。ここにいる理由だ。


半ば確信はある。まだ残っている記憶の部分にある。


しかし、そんなベタが起こるのか?というか疑問もある。


でもそれしかないよねと言う確信もある。


まあいい。何故なら今の僕はとても冷静だから。


さあ女神ユメリカ様続きをどうぞ!何故ここにいるのかの続きを!さあ!


あの決め台詞を!


『ユメリカの星にこのアルステルスに転生して欲しいなのです‼︎』


うん、そうだよねー。異世界転生。


ふう〜。冷静だわ僕。


しかし意を決した様子の女神様の期待を裏切る訳にはいくまい!


『て、転生⁈この星に転生⁈そ、それって所謂…異世界転生ですかーー⁈』


真っ白な空間にそれはそれは僕の大声がこだまする。


僕は役者だったのだろうか?我ながらとてもとても良いリアクションだったのではないだろうか。


チラリと女神様を見る。



うむ。とてもよい表情をされておられる。


よくやった僕よ。


自画自賛である。


さて女神様のお話しは、と。


『そ、そうなのです!よくおわかりなのです!地球のさらに日本の方には異世界転生がとてもスムーズに説明出来るとお姉さま方から聞いていたなのです!うふ、うふふ。うまくユメリカは説明出来たなのです!うふふ』


女神様はふんすふんす、うふふうふふと大層ご満悦のようだ。


うむ。笑顔がとても輝いてる。まるで女神のようだ。


しかし僕は聞き逃さなかった。


『お姉さま方?』


その問いに女神様は答えてくれた。


『はいなのです!ユメリカは神々のなかではまだちいさいのです!なので転生のやり方や神域でのお話しの仕方なんかを他のお姉さま女神に教えてもらったなのです!ユメリカはその成果が出てとても嬉しいなのです!』


女神様は先ほどの恥ずかしい真っ赤な顔ではなく興奮気味の赤い顔をしていた。


うん、うーん、うまく出来ていなかったような…いや本人が嬉しそうだからいいか。



などと思考にふけっていた。


そこで僕は焦った。そしてマズイとも思った。


この真っ白な空間。目の前には女神様。そしてベタな異世界転生。


今はこの瞬間のあまりにも女神様に対して不敬極まりないこの思考。


やっちまった。


心の中読めるパターンじゃないか!いくら目の前の女神様の容姿が幼女だとしても”神”だぞ。


いくらギャン泣きしたとしても慌てて何を言っているかわからなくなったとしても”神”だ。 


迫り来る不安を胸に女神様を見る。



めっちゃ笑顔だった。


あ、あれ?どーいうこと?


そして気になると質問せずにはいられなかった。


『と、ところでユメリカ様はこの神域で僕の、その〜思考なんか読めちゃったりなんかしますよね?』


そして質問をした後に後悔することになった。



涙目である。



やばい。



『ユメリカはぁ〜、ぐすっ、まだ女神としての〜ぐすっ、し、神格がひ、ひく、ぐすっ…低いなのなのなのだ、です…ぐすん。だ、だから、ぐすっ…まだし、神域なのに…ぐすん、思考すら読めない…ぐすっ…め、女神なのですぅぅぅ、ぐすん…』



やっちまったーーー!やばいやばい!


涙チャージだよ!


いや、焦るんじゃない。こんな時こそ今の冷静さを活かさないでどうする!


さあ僕の思考よフル回転だっ!


ぎゅるんぎゅるんぎゅるるるるー


そんな擬音が聞こえてきそうな程の高速思考。


そして答えは出た!これ一択だろう!



『へ、へぇ〜それって”伸び代”しかないですよねぇー!すごいっ!今でも女神様ですごいのにまだ伸びちゃうんです!いやーすごっ!ユメリカ様って”伸び代”の塊じゃないですかー!いいなー!さすがです!いよっ!さすユメ!』



ど、どうだ⁈



もう何度目だろうか、恐る恐る女神様を見る。



そこには今にも泣き出しそうな顔から見る見る頬が紅潮していきやがて満面の笑みへと変わる!


ふんす!



うむ。ご満悦のようだ。よかった。



ふう〜。



話し進まないなぁー。




ともあれご機嫌麗しゅう女神様。ここは一気に話しを進めるべきであろう。



『そ、それでこちらの世界アルステルスはどのような世界なんでしょうか?僕が思うにいやちょっとした期待なんかを含めるともしや…”剣と魔法のファンタジー”だったりしますか?』


さあ、どうだこれは!


ドキドキ。


ドキドキ。



『はいなのです!そのまさかの”剣と魔法のファンタジー”の世界なのです!お兄さんはすごいなのです!』



キタコレ!



うむ。なんか古い言い方が自分で気にはなったがまあいい。



続くぞ!



『ま、魔物が出たりダンジョンなんかがあって冒険者が居たりなんかしちゃったり国によっては王や貴族がいたりなんかしてますかね?』


『そうなのです!お兄さんやりますねー!ユメリカとお姉さま方と一緒に頑張って創造した星なのです!』


なるほどここまではテンプレだな。



ここからだなー。よく小説やラノベなんかでも大きく分かれるところだ。


果たして僕の転生する理由がなんなのか。


うーんどうしよう、魔王とかいて勇者とかやらされたら嫌だなぁ。


いや、それとも逆に魔王の方かもしれないな。


ダメだ。パターンがあり過ぎる。


日本人発想が豊かすぎる問題だ。


うーん、うーん。


いやホント多いな。ハズレスキルが実はハズレじゃないパターンもあるし…



どれになるんだろう?


おかしいな冷静なはずなのにドキドキしてしまう。


しかし避けては通れまい!


なんか不遇っぽい感じだったとしてもユメリカ様なら相談したらなんとか考えてくれそうだし。(願望)


い、いくぞっ!



聞くんだ僕よ!



『その、僕がこの世界に転生する為に呼ばれた理由ってあったりなんかしますかねー?』




すると女神様はハッとした顔になる。





え、やめて、、急に真顔になるの。



そして真顔からの目があちこちへとぐるぐる動く。


なぜか手もバタバタしだした。



おーう、これハードモードな感じなの⁈



僕の不安をよそに女神様が焦りつづける。



腰の後ろを見たり服の中身を自分で覗き出したり。


いや、幼女でもそれははしたなくないですか?



えーそんな慌てるほど理由があるのつらい。




しばらくバタバタしていた女神様。



そして唐突に。



それはまあわかりやすいほど



音ならきゅぴーん‼︎と聞こえそうなほどハッとして動きが止まった。



いや、もうなに?



泣かないでよ。



なんて思っていたら急に目の前が眩しくなった。



何事かと見ると女神様の蔓のサークレット?いやもうサークレットでいいか。それが光出した。


だんだんと光が収束していき一筋の光になったかと思ったら今度は神殿が光出した!



もう!あちこちめっちゃ光るじゃん!



そう思った瞬間、神殿とサークレットの光が交差するようにぶつかり混じり合う。



神々しい光から一転



それはもうレーザービームだった。



音こそしないが擬音で表すならもうそれは



“ちゅどん!”であった。



そしてぶつかった場所が渦を巻き出し光の水球みたいになってきた。


それが凝縮するように回転しながら小さくなってゆっくりと女神様の元に降りてくる。


女神様の手元に来る頃にはバレーボール程の大きさになったいた。


それを女神様が触った瞬間に一陣の風が吹いたかと思うと光が霧散した。


そしてそこに現れたのは一冊の本であった。


黒を基調とし周りを金と銀で蔓のような装丁


中心に謎の紋章?みたいなのがありそのやや上のほうに何やらタイトルらしきものがあった。



地球で見たことのない文字だった。



なのに、それなのに何故か僕は読めてしまった。


読めた事に驚いたりはしなかった。



だってここは神域。そして目の前には女神様。



きっと文字も魂のなんやかんやで読めるのであろう。




だから読める事には驚かなかった。










“転生説明マニュアル”


 





びっくりだ。






マニュアルあったんかーーーい!






ふうーーーうーーー!




おかしいな感情は鈍化しているはずなのに




何故だか心がザワザワしたような気がした。



僕は一息吐き



僕は冷静だ。心も穏やかだ。そう。違いない。



そう思いながら話し出した。







『よーし話しを聞こう』






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