第129話

***



欧米人は気持ちの表現がオープンだ。



クリスと別れてもアプローチしてくる女の子は少なからず居たけれど、以前のように素直には受け入れられなくなってしまった。



倫やギルのように、どんな障壁も飛び越えてお互いの愛を深めて行くのは、僕には無理だと思った。





「今日は石狩鍋よ」



「お得意のなんちゃって風か」



「これは、正真正銘の石狩鍋レシピ」



「問題は味だな」



食卓のテーブルを挟んで親父が味見する姿を、真剣に見つめている母さん。



「日本酒」



「はいっ」



パタパタとキッチンに走って、ご指名の物を持って来る母さん。



トクリと風味づけ程度に鍋へと日本酒を少量垂らして、親父は口元を緩める。



「ん。食べよう」



それを合図に「いただきます」と手を合わせる母さんと僕達。



この瞬間の母さんは、いつも幸せそうだ。





周りのイギリス人夫婦のように、子供の前でキスしたりストレートな愛の表現はしない。



けれど、静かに食卓を家族で囲んでいる時も、仕事に出掛ける親父を見送る時も、散歩している時でさえ、いつも情愛が溢れている夫婦だと思う。



できれば僕もそういう関係を築ける女性に出会いたい。



そう考えるようになっていた。

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