第124話

**




快晴の中、彼女は白い煙りとなって天へと昇って行く。



随分昔に捨てた恋情だった。



けれど彼女を想うと、やっぱり胸が疼くんだ。




「琴平」



「はい」



「千捺は倫や敦が誕生した時と同じくらいに、お前の結婚を喜んでいた。お前の幸せをずっと千捺は望んでいたからな」



「っ」



俺が36歳の時、常務に勧められるままに取引先の令嬢と結婚した。



妻は俺に尽してくれるし、子供にも恵まれた。

今は満たされて、充分に幸せだ。




『琴平さん』



千捺さん。



俺は貴方に恋して、今があります。





「大事にしてやれよ」



「西院さんをお手本にします」



「まだまだ青いな」




そんなことない。



貴方が千捺さんをどれだけ愛して大切にしていたか。



俺の。



否、俺らの夫婦の目標ですよ。



いつまでも。





西院さんは切れ長の双眼を少し緩ませて、空に微笑みかける。



彼女の心のように綺麗な、白い煙りがどこまでも高く空へと続いていた。







<完結>

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