第121話
「結婚なんて、ホントは考えてなんかいないでしょ」
ロンドン郊外の田舎町に到着した時、園子さんがそう言い放った。
「そんなこと、ないですよ」
内心、冷や冷やしてる。
「琴平さんは、千捺みたいな人と結婚したいだけ。ううん、千捺が欲しいだけね」
今日はいい天気ねと告げる程度の軽い調子で、確信を突かれた。
「隠さなくてもいいわ。私、そういう勘が人より鋭いの。だから言わせて貰う」
どうせ嘘を吐くなら女が出来たとでも言いなさい、と。
「あの子はね、貴方のことをホントに心配してる。自分には恋愛経験がないから相談にものれない、旦那も転勤族で結婚したのは30手前だし、貴方が若いのに不憫だってね」
園子さんの言葉は、痛いほどに伝わる千捺さんの心情そのものだ。
「わかってます」
「わかってないから、言ってやってんの。ま、素敵な出会いを期待してノコノコやって来た私も馬鹿だけど、貴方も相当馬鹿ってことよ」
清々しいくらいにケラケラと笑う彼女に、俺は少しだけ救われた。
園子さんはいい女だった。
容姿も性格も。
なんの進展もなく帰国して行った園子さんのことを、千捺さんは「余計なことをしてごめんなさい」と何度も頭を下げて謝ってくれた。
彼女の優しさが、苦しい。
胸が張り裂けそうだ。
「俺、実は気になってる女、こっちに出来たんです」
「本当にっ」
「多分、来春にはまた転勤です。だからぶっちゃけ厳しいですけど」
だから嘘を突いた。
彼女の親友から言われた通りに。
それがいずれ、彼女を深く悲しませるなんて、考えもせずに。
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