第114話

**



初めての海外赴任で不安だった、26歳の春。



俺は上司の西院さんに、彼の自宅へと招待された。




「お帰りなさい」



「ただいま」



上司とその妻が交わす有り触れた挨拶に、くすぐったさを感じる。



まだ高校生にも見える二十歳過ぎの奥さんはこれと言って美人ではないけど、ほんわかとした印象を与える優しそうな女性。



西院さんの脱いだ上着を皺にならないよう丁寧に腕へ掛けながら、嬉しそうに彼の横にピタリと寄りそう。



「初めまして、琴平貢です」



「妻の千捺です。主人がいつもお世話になっています」



照れたように頬を赤らめた彼女に、初々しさを感じる。



ま、新婚さんだもんな。



西院さんの噂は、俺ら世代の同僚の中でも結構有名。



いつかは主要な海外支社を任せられる逸材だと、俺が居た関西支社にも名前が届いていたくらい。



加えて可成りの男前で、出張で現れる度に女性社員が騒いでいたのを思い出す。



だから彼が選んだ女性にも興味があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る