23 三度目の春

第99話

春の辞令で琴平さんは一旦日本へ戻ってから、シンガポール支社へと旅立って行った。



我が家に顔を出すのが最後かもしれないと訪れた琴平さんの為に、私は熊谷さん伝授の「なんちゃって風」料理をたくさんテーブルに並べてお祝いした。



「あっちの支社には、同期の女がいるんですけど、ぶっちゃけ入社当時は気になってた存在なんで、これチャンスだと思うんですよ」



その日の琴平さんは荒れていた。



自宅近くのハブで知り合った女性と、良い雰囲気になっていた矢先のことだったからだ。



もちろん、いつかは来るべき辞令だし、琴平さんだって覚悟はできていたはずなんだけど、そんなこととは関係なしに堕ちてしまうのが、恋だ。



「ガンガン行って、モノにしてやれ」



すでに彼の親友である三上さんも、彼が遠く離れた地へと赴くことと彼の恋情を痛いほど理解しているからか、普段は口にしないバーボンをぐびぐびと咽に流し込んでいる。



本来なら、私たちも昴さんの海外勤務が明けて日本へと戻る予定だった。



けれど、日本で言う課長職のポストに就くことが去年秋の辞令で決定した昴さんは、少なくとも後5年はロンドンを離れることができなくなってしまったのだ。

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