第94話

出産前に、少しだけ危惧していた。



私が倫ちゃんを産めば、昴さんの心は私から離れて倫ちゃんへと注がれてしまうんじゃないかって。



きっとそんな母親失格なことを考えてしまったから、風邪をこじらせて寝込んでしまったんだと思う。



なにより、私も倫ちゃんともっと一緒にいたいのに。



「昴さん」



今日も彼の名前に、ありったけの愛を込めて告げる。



「ん?」



「ありがとう」



きっと瞼の向こうで彼は柔らかく微笑んでいるはずだ。



気配で感じる。



そして。



「千捺」



彼が囁く私の名前の中に、同じ物を感じて満たされる。



軽くやんわりと落とされた昴さんの唇から、今日も彼の愛が注がれる。




不謹慎だけど、幸せ過ぎて怖いと言う感覚を知ってしまった。

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