第90話

翌日、熊谷さんに付き添われて、彼女が二児を出産した病院の産婦人科に行って検査を受けると、妊娠3週目であることが判明した。



じわじわと現実味を帯びて、自分が母となった喜びに浸りながら、その足で彼の会社へ報告に行くと、昴さんは手に持っていた書類を高らかに放り投げて私を抱き締めたのであった。



琴平さんや三上さんを含め、昴さんの部下であるイギリス人スタッフたちに祝福を受けながら、そのまま早退してしまう私の旦那さまは、地下鉄を使わずにタクシーで靴屋へ寄ってから帰宅した。



「こんなにいらないのに」



ペタンコ靴や踵が太くて低い靴を5足も買い込んだ彼に呆れる反面、嬉しさで頬がどこまでも緩んでしまう。




それからの彼は、「やっぱり車が必要だ」と言って出て行くと新型のミニを購入して帰って来たり、「食事のバランスと適度な運動がいいらしい」と実家の両親から送られて来たたまひよ系の書籍を読破すると、私に代わって3食ごとのメニュー表やエクササイズのプログラムをリビングの壁に貼付けたのだった。



つわりの症状はないけれど、駄目な匂いや味覚が多い私は、安定するまで調理や食事をすることが一番過酷な作業に感じた。



日に日に増えるマタニティドレスと赤ちゃんグッズ。



散歩がてらに出掛けると、昴さんは決まってそういうものを躊躇わずにどんどん購入する。



「きっと千捺にそっくりの可愛い女の子だ」と、なんの確証もないのに買い込む彼にストップを掛けられない私も、既に親バカ予備軍なのだろうか。

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