20 ママとパパになる準備
第89話
ロンドンでの生活にも不自由を感じなくなった、秋。
待ちに待った赤ちゃんが、私の中に芽生えた。
やっぱりと言うかなんと言うか、最初に気付いたのは私でなく昴さんの方だった。
月に2〜3度、彼の仕事絡みのパーティに参加することにも慣れだして、その日も10センチの華奢なヒールにマーメードラインのドレスでお洒落していた私は、会場に着くや否や大好きなシャンパンを手にとった。
コクンと咽を鳴らせて飲み込んだものの、妙な口当たりを感じたのだ。
「どうした。千捺」
「これ、変な味」
「少し辛口だけど、スッキリしてて旨いだろ」
彼とグラスを取り替えて口に含んでみても、やはり違和感がある。
その後もパーティで顔見知りになっているイギリス人の奥様方とテーブルを囲んで料理に手を付けたけれど、味覚の違和感がとれることはなかった。
いつもよりも食が進まず、周りの香水や料理の匂いに気分を悪くした私に気付いた昴さんは、控え室へと連れ出してくれた。
「今朝もスムージーに口を付けただけだったよな」
「うん」
「ランチは何食べた」
「パーティがあるから、ジュースだけで済ませた」
「昨日から、ずっとそんなだろ」
「うん」
「帰るぞ」
私の腰を抱き寄せて、ゆっくりと慎重に歩く彼の行動を不思議に思いながら帰宅すると、一直線にトイレの前まで連行された。
「とりあえず、調べてみよう」
差し出された妊娠検査薬を手にするまで、迂闊にも私は自分の体調の変化に気付いてはいなかったのだ。
結果は陽性。
「千捺。ちゃんと明日病院に行け。喜ぶのはそれからにしよう」
そう言いながらも、どこか落ち着きなく浮かれている様子の彼を見て、頬が緩む。
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