第71話
「いつか私のベンチもここに置いて」
「それは千捺の仕事だろ。僕より先に逝かせはしない」
どちらかに死が訪れるまで、僕らは一緒だと告げられているようで、泣きたくなった。
私は昴さんに家族として愛されているのかもしれない。
そう思えるだけで、幸せだ。
「昴さん、約束して」
「ん?」
「どちらかが先に逝ったら、ベンチを寄贈するって」
「わかった。遺言にそう書いておく」
まだまだ先のことかもしれないけれど、そんな約束がなによりも嬉しい。
「例えば、よぼよぼのおじいちゃんになっても、何年かに一度はロンドンに来て私のベンチに座って私を偲んで」
「僕が先の場合でも千捺もそうしてくれる?」
「っうん。子供や孫もいっぱい連れて行く」
「新婚がする話しじゃないけど、それくらい慈しみ合えるふたりになろう。そして家族を増やしていこう」
優しい涙を流す私の手を繋ぎながら、彼は女の子と男の子がひとりずつ欲しいなと照れくさそうに笑った。
閉園の時間になるまで、まだ存在もしない子供の名前を相談し合う私と彼は、気が早過ぎる未来のパパとママだ。
いつかそんな日を叶えられたらと、私は暮れる夕日に願ったのだった。
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