第70話
自宅から歩いて15分。
昴さんに初めて散歩に連れられて行って、日暮れまで過ごしたのは2週間前だったろうか。
「ここが一番落ち着くだろ」
「うん」
いろんな庭園や植物園に行ったけれど、やっぱり私はこのキューガーデンが一番好きだ。
観光客を避けるようにゆっくりと奥へと芝生の上を歩んで行く。
池の畔に咲く枝垂れ桜が満開で、遠く離れた日本を思い出させる。
広大な敷地の中には、ぽつりぽつりと木のベンチが配置してあって、私たちは座るでもなく、そのベンチの一つひとつを辿るように進んで行く。
「愛しいルディよ、安らかに。ルディ・N・アンダーソン1930〜1988」
古く痛んだひとつのベンチの背の部分に取り付けられた錆びた横長のプレートを読み上げる。
このガーデンを愛していた故人を偲ぶように、遺族が寄贈したベンチにはその故人へのメッセージと名前などが刻印されているのだ。
「横にもう一枚あるよ、千捺」
そのベンチには比較的に新しいプレートがもうひとつあった。
「いつまでも君の隣に。アレキス・F・アンダーソン1926〜2010」
夫婦だったんだろう。
故人を愛し続けた男性の深い想いに触れたようで、心が温かになる。
「素敵ね」
「ああ」
私と昴さんはここのベンチに託された、見も知らぬ故人に注がれた愛を確かめながら歩く。
恋人や伴侶から寄贈されたもの。
子供や孫から贈られたもの。
その一つひとつにドラマがあり、私たちの心を満たして行く。
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