14 過去の恋と今の喜び
第61話
お正月の三が日を過ごして、私たちは再び自分達の城へと戻った。
昴さんのご家族とも冗談を言い合えるような関係になれたし、西院家代々に受け継がれた和食のレシピも頂いた。
旅館のお手伝いはできなかったけれど、奥の家事はそこそこに補えたんじゃないかと自己評価する。
元旦の翌日には、やっぱり昴さんに楽しんで貰いたいからと、彼の高校時代の集まりにふたりで出掛けた。
結婚式に出席してくれていた彼の男友達もたくさん居たので、時折感じる女性陣の冷えた態度すらも余り気にせず彼らと和やかに過ごせた。
いつもよりお酒が進んでしまった昴さんはほろ酔いで、みんなの前であるにも関わらず、私の肩を抱き寄せながら何度も「僕の可愛い奥さん」を連発した。
それに便乗した彼の友人たちから「西院の可愛い奥さん」と呼ばれるようになった私は、恥ずかし過ぎて俯く事しかできなかったけれど、だらしなく緩む頬をおさえられなかったのも事実だ。
お開きの直後に、私と昴さんの前に現れた阿部さんは取り繕ったような笑顔で「いつまでもお幸せに」と言い、苦笑いの千堂さんに背中を押されて店を出て行った。
一度は深く愛し合ったであろう昴さんとの思い出は、彼女のものであり、彼のものだ。
私には知る術のないもの。
だからこそ私は、これから昴さんとたくさんの思い出を作っていけばいいのだ。
そんな新たな意識が芽生えた今回の帰省は、私にとって良い経験だった。
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