第54話
帰り道に昴さんは静かに言った。
「ウチもさ格式だのなんだのって実はとっても煩い旅館でね。兄のところへ嫁いだ由香里義姉さんも苦労してると思うんだ。智充さん見てるとさ、由香里義姉さんとだぶっちゃうんだよ」
私は今まで彼には告げなかった、姉夫婦のことを伝えた。
千香も苦しんでいるけれど、智充さんも同じだと昴さんに教えられたように感じたからだ。
姉夫婦に対して、表面的に深入りせずに来た私は、彼に導かれるように一歩前進できたように思った。
マンションに帰り着いて入浴を済ませると、彼の為に用意したシャンパンの栓を抜いた。
昴さんの湯飲みであるカットグラスと、私の有田焼の湯飲みに静かに注ぐ。
「モエのロゼだろ。僕の好きな銘柄だ」
フランスで一つ星のお店でディナーを食べた時、彼がチョイスしたこのシャンパンはいくらでも飲めそうなくらいに軽やかで美味しかった。
きっと彼が好きなんだろうと推測して、この日の為に買って来たのだ。
「私からのクリスマスプレゼントです」
「最高のプレゼントだ」
湯飲みを軽く持ち上げて、しゅわしゅわと心地よい発砲を感じながら咽に流し込む。
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