第21話

「僕らのキスは神様だけが見ればいい。みんなには見えない」



肩に手をおかれて、そっと耳元に小さく告げられた言葉に、私は止めていた息を吐いて瞼を閉じた。



こんな風に私を気遣ってくれることが、信頼感へと繋がる。



軽く触れた昴さんの唇は、一瞬で離れるかと思っていたのに、そうではなかった。



薄く開いた彼の唇の隙間からあらわれた舌が、私の唇を描くようになぞり、最後には私の口の中のそれに合わさった。



言いようのない感触と衝撃にくらくらしながら瞼を開けると、それを待っていたかのように彼は妖艶な眼差しのまま静かに唇を離した。



「貴女を大切にします」



呟かれた言葉に私は頷くのが精一杯。



そこから先は、どこか雲の上を歩くように頼りなく、彼の腕をぎゅっと掴みながら挙式を終えた。




「もうっ。シャッターチャンス狙ったのに、千捺の後ろ姿しか撮れなかったんだよ、キスんとこ。しかも長過ぎだから」



親族席より後方に座っていた友人に毒づかれたけれど、最前列に座っていた母には「窒息しそうな千捺、可愛かった」とからかわれたから、やはり神様以外にも目撃されていたんだと知り、逃げ出したくなった。

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