01 私の心理

第2話

私には12歳と10歳年上の姉がいる。



どちらの姉も高校生くらいになると彼氏ができた。


『彼と結婚の約束したんだ』


にやにやと自慢げに言う姉達を羨ましいと、私は幼いながらに憧れた。



長女の千香は公言通りに高校時代からの彼である智充さんと7年に渡る交際の末に結婚した。



智充さんは女3姉妹の我が家に婿入りした上に、両親が経営しているレストランの跡継ぎにまでなってくれた。



ビジネス街の外れにある3階建てビルの1階は店鋪、その上は私たち家族の住居スペースで、千香夫婦は3階を新居にした。



当初、千香夫婦は順調だった。



けれど、職場も住居も嫁家族といつも同じ空間にいることが、智充さんにはストレスだったのかもしれない。



営業時間を終えると、彼はふらりとどこかへ消えてベロンベロンに酔っぱらって帰って来るようになった。



そして、千香に手をあげるようになったのだ。



私はまだ子供でそんな状況を理解してはいなかった。



学校から帰って厨房裏から「ただいま」の挨拶をすると、頬や目元を腫らした千香の姿を目にするようになったくらい。



父や母も智充さんに気を遣い過ぎて、口出しができなかったのだろう。



休業日に千香夫婦の部屋になんの気なしに遊びに上がった私は、いつもは温和で優しい智充さんが千香を殴っている光景を目にして、愕然とした。



どんなに姉が泣いても、彼はやめなかった。

そして止めに入った私も巻き込まれ、頭を壁に叩き付けられたのだ。



あんなに怖い思いは初めてだった。



けれどお酒が抜けた彼は私をぶったことすら忘れて、いつものように温和に微笑みお菓子をくれた。



『彼はホントは優しいの。お酒に逃げてるから仕方がないの』



千香はとても彼を愛してるんだと思う。

でも、子供の私には理解できなかった。



結局、千香夫婦は近くのマンションに引っ越して仕事でうちへ通うようになった。



時折、姉は泣き腫らした目で朝出勤して来るけれど、智充さんと別れることもなくふたりの子供を育てながら暮らしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る