第12話 魔王のその後
ある日魔王が
魔王軍を率いて
地球にやってきた
魔王は
その掌から放たれる閃光で
とある国を吹き飛ばし
世界は慄きに塗れ
強力な爆弾が魔王のもとに落とされたが
魔王はそれを跳ね返し
爆弾はいくつかの国に降り注ぎ
それらの国はなくなった
世界は魔王に跪き
来て一週間で
魔王はすることがなくなった
食べ物や宝石や
よくわからない証券やら国の土地の権利やら
そんな話が魔王の元にきたが
魔王は興味が持てなかった
取り入ろうとしてくる高官らしき者もいたが
面倒なので首を吹き飛ばした
自軍の者も
支配した星の者も
自分の思い通りで
思い通りにするのが目的だったはずだが
やってみると
’だから何だ’
の気持ちが拭えず
なんだか空虚だった
暇なので
この星の言葉を知ろうと思い
本を読んでみた
明晰な魔王は
すぐに言葉を覚え
おもに詩を好んだ
やがて
自分でも詩を書きたくなった
いざ詩を書いてみると
なかなかうまくいかなくて
無理して韻を踏んだりして
意味を持たせようとして逆に意味が削がれ
魔王は何度も何度も
書いては破って捨てた
まったく思い通りにならなかったが
でもなんだか夢中になれた
家来が一人やってきて
「書き物ばかりしていないで、統治に目を向けてください」
と進言した
「邪魔をするな。好きにやっていいから」
と魔王が紙面から目を離さずにこたえると
「しかし――」
と家来が食い下がろうとしたので
魔王は家来を吹き飛ばした
それを見ていた他の家来たちが
「ご乱心。大魔王様に報告を」
と口々に叫んだ
今は集中したいのに
と魔王は思い
手をかざし閃光を放ち
自軍の基地すべてを破壊した
魔王はがれきの中から立ち上がり
街へと歩き出した
魔王はあてどなく
幾日も街から街へと転々とした
その間にも
各国の詩を読み
自分でも詩を詠んでみた
本と用紙をたくさん積んだリュックを背負っていた
退屈ではなくなったが
少し寂しかった
ある街で
地べたに座って詩を書いていると
一人の女性が足を止め
魔王の足元にある詩を書いた紙束を手に取り
そのうちの一枚を選んだ
「これ売ってくれませんか」
「売る?売る、とは?」
「え?路上で詩を書いて販売している人じゃないんですか」
「売ってはいない。でも欲しいならやる」
「ただでもらっていいんですか?」
「べつに、過去に書いた物に興味はない。持っていけ」
「ありがとうございます」
女性は頭を下げた
「いつもここで、詩を書いているんですか?」
「方々を歩いて、別の場所で書いている」
「吟遊詩人ですか?いまどき?ゲームでしか見たことない」
女性は笑った
すると
女性の背後
はるか上空から
黒い大きな影が見えた
連絡を聞きつけた
大魔王が降臨しようとしていた
来たか
と魔王は思った
そして
思うままに紙面に書き付けた
< わずらいの中で
意味など柄にもなく考え
運命を放棄し
意味を探索することとして
ただそこに後悔はなく
生命はどこまでも
生命としての神秘をたたえ
そこに気づき限界の中でまっとうすることは
無限の中の退屈よりはるかに喜びがある
時は来た
今目の前にいるその存在を契機に
この世に一抹の未練はあるが
放棄した運命の
事後処理をしなくてはならない
すべては宇宙の塵で
しかし塵の中にもまた
無限の宇宙は内在し
そこに思いを馳せらるる思念こそ
生涯で得た至上の財産であり
今は
眼前の存在の
せめてもの平穏を祈る>
「これを」
魔王は紙面を女性に渡した
「どうしてこれを?」
「なんとなく。そなたに受け取ってほしい」
魔王は
漆黒の翼をその背中に蘇らせ
上空の巨大な暗黒に向かって
飛び立っていった
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