第11話 現代における魔法の取り扱いについて
クラスに馴染めず
友人もいなくて
魔法でも使えたらなと
ふと夢想をして
願いが通じたのか
ある朝
念ずると
掌から小さな炎が出るようになり
ぼくは得意で
クラスで魔法を披露し
皆は驚嘆し人だかりができたけど
それも数日
すぐに飽きられた
’陰気なやつ’
から
’ライターくらいの火を出せる陰気なやつ’
となった
まったく役に立たなかったわけじゃない
大きな地震があって
停電になったときは
ぼくの火は少しだけ
家族にありがたがられた
半年くらい過ぎたころ
学校からの帰り道
大きな体の大人たちが
急にぼくを車に押し込み
驚いて逃げようとばたつくと
妙な薬を口から飲ませ
ぼくは眠った
眠りから覚めると
ぼくは見知らぬ一室に横たわっていて
手と足には錠がついていた
「目が覚めたかい」
白衣を着た男性が
微笑みながらぼくに言った
「一年ほど寝っぱなしだった。大規模な研究と、手術の繰り返しだったからね」
手術?
「わけがわからないよね。無理もない。でも、悪いようにはしないから、安心してくれ」
悪いようにとは言われても
現に手足を錠に繋がれている
「今までも、君みたいな子は、何人かいたんだよ。自然法則に反した、無から有の、エネルギーを発生させることができる子が。極秘裏に、研究に参加してもらって、でもだれも、長くは生きられなかった。彼らには、申し訳ないことをしたが……。でも、君は、初めて、生存することができた。小さな力、何もしなければ、1か2くらいの力を、10000くらいに高めることができた。なぜそんな力が発生するかを突き止めることはできていないけど、増幅する技術はわかったんだ」
「あの、ぼくは今後、どうなるんですか?家族にも会いたいんですが」
「表向き、君はもういないことになっているから……」
男はうつむき
言葉を濁す
「でも大丈夫。悪いようにはしない」
男は繰り返し強調する
「今、この国は大変な状況だ。二大大国の間に挟まれ、地政的に難しいことになっている。大国の対立に巻き込まれるか、あるいは、大国の融和の生贄になるか。いずれにせよ、存亡が危ぶまれる状況になりえるから、そのとき、君の力が必要になる。核を持たない我が国は、核の代わりに、君を持つ。無から有を生み出す力、今の君なら、本気を出せば一度に大陸を吹き飛ばせる。十分もあれば世界を焦がす。もちろんそんなことはしない。窮鼠が猫を咬むための、交渉の切り札だ。君は、英雄になる」
念ずると
両の手が熱くなり
手錠が溶けだした
男の顔色が変わる
「あれ。抑制が効いていない……」
ぼくは
自分の中でマグマみたいにたぎる
感情と衝動のままに
体から熱を出し始める
男が電話を取り出す
「緊急コール。N8棟実験室。対照の抑制消失し――」
ぼくの手から火が立ち上り
男はのまれ
肉体は瞬時に跡形もなくなった
自分の中で蠢く
自分でない力の存在を自覚する
死ぬほど体は熱いのに
思考はどこか冷えている
このままだと世界を焼くことになる
今ならその前に
自分を焼くことができる
さてどうする
全身がさらに熱を帯びる中
なんでこんなことにと思う
ほんの少し
周りから承認されたいと
ただそれだけだったのに
部屋の扉が開け放たれる
複数の白衣を着た者たち
「いったいどうした」
「暴走だ」
「鎮圧しろ」
「遠隔で脳は壊せたはず」
「あの熱じゃもう無理だ」
「建物ごと壊せ。外部に情報が出るとまずい」
勝手なことばかり言って……
世界はぼくに優しくはなかったけど
焼き尽くすほどじゃなし
さりとて
ぼくだけいなくなるというのも
なんだか怖い
……
そろそろ決断しないと……
熱い……
人間の……
他の動物と隔絶する……
知能こそが……
魔法じゃないか……
どうでもいい存在の……
些細な感情も……
暴力装置に変えて……
ぼくは……
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