第18話 溶岩をも凍らす龍の息吹
「……これなら届く! アイツの喉元に、アタシの牙が!」
それからまもなくゴーレムは胸の前で両手を組み、両手の平からマグマを噴出させた上でそれを地面に叩き付ける。
ゴーレムが叩いた箇所から地割れが発生し、その割れ目から温泉の様にマグマが湧き出てくるも――
魔方陣の上でシルヴィが足踏みした事で、凄まじい勢いの吹雪が起こり、割れ目から漏れ出す前に冷やし固められてしまう。
「自身を0度未満の低温下に置くことでのみ発現する氷龍の真価……アタシの知らない力だ、凄いな」
感心するシルヴィを余所にゴーレムは一歩前に踏み込むが、シルヴィが瞬時にそれを察知すると背後にある光球の一個がゴーレムに向かって飛んで行く。
光球はゴーレムの右足に当たると大きな氷塊へと姿を変え、地面と密接にくっついて動きを止める。
「それ、もう取れないぞ。氷に変わった瞬間から地面に根を張り、尚且つ拘束された方の体内にも少しだけ根を張る……らしい。今知った」
一心不乱に右足についた氷塊を殴って怖そうとするロボットに対し、シルヴィは残り六つの光球を発射する。
光球は四肢の関節と首と頭頂部にくっつき、ゴーレムの体に氷の根と霜を張り始めた。
ゴーレムは最後の抵抗にと全身からマグマを噴出させるも、氷塊に触れたマグマは即座に冷え固まってしまう。
「永い眠りから覚めたと思えば、竜の子孫と戦わされるなんて災難だよな。せめて眠るように逝け、『リヴァールの遺産』」
やがてゴーレムはよろけ始め、岩肌にもたれかかったと思うとそのまま動かなくなった。
ゴーレムの戦闘不能を確認したシルヴィは右腕を横に振り払って元の姿に戻り、ゴーレムの亡骸に近寄って眺める。
「村がお前を資産として持ってると知っていれば、村には近寄らなかったんだがな。しかもそいつが、よりにもよって対氷龍よう決戦兵器のマグマゴーレムときた」
そう呟くシルヴィの傍に突如、辺りに漂っていた白い霧が人型に集まって来てフランの姿に変わる。
「君、このゴーレムのことをリヴァールの遺産と言っていたね。詳しいのかい?」
「ああ、妹達も知ってるはずだ。だからこそシペは焦ってナツやアンタを呼びに来たんだろう……本当に、来たのがアンタ一人で良かった」
「ナツさんの判断力の賜物さ。家を出てすぐにナツさんは僕一人を現場に魔法で転送して、そのお陰で間に合ったんだ」
「……運転士の件と良いコレと言い、アンタには助けられてばかりだな。せめてもの恩返しにゴーレムの説明をしてやりたい所だが――」
シルヴィは崖の上にいる壮年の男に目を向け、睨み付ける。
「まず、アレらを処理しないとな」
「それについてだが、後始末は僕に任せてくれないか? 戦闘で疲れてるだろうし、こういう大人のやり取りは僕の本分だ」
「冷気を取り込んだお陰で疲れてはないけど……そうだな、アンタに任せた方が波風立たずに済みそうだ」
帰ろうとしてシルヴィはフランに背を向けて歩き始めたが、少しして、深く溜息をついてから振り返る。
「フラン、お願いだからアタシ達の代わりに少しだけやり返して欲しい。アタシはアイツらにハメられてむしゃくしゃしてるし、シペもアタシが傷つけられて腹が立ってると思う。無理にとは言わないが」
「それがお望みなら何とかするさ。きっと良い報告を持ち帰れると思う」
シルヴィは笑顔で二回頷いたあと、背中から翼を生やして上に飛び上がった。
(さて、ここからは大人の時間だ。調子は相変わらず良くないけど、交渉で相手を出し抜く位の事は出来る。今に仇を取るぞ、三人とも)
◇ ◇ ◇
「何が起こったんだ……さっきまでアイツ、死にかけてたよな?」
壮年の男は崖上から動かなくなったゴーレムを見ながら、呆然と立ち尽くしていた。
「外からガキが一人やって来たと思ったら、次の瞬間には龍人の姿が変わっていた。訳分かんねえ……」
「その辺のことは理解して頂かなくて結構です」
背後から突然聞こえてきた声に驚いて振り向くと、そこには村人達を背に立つ金髪赤目の少年がいた。
「お前、さっき崖下に居た!」
「初めまして。僕は夜王の巣の新隊長、フラン・ケミストと申します。貴方がこの村の長と言うことで、間違いないですよね?」
「分かるのか」
「僕の目は少し特殊でしてね、偉い人って言うのは一目で分かるんです」
「なるほどな……おいお前ら、家に戻ってろ。俺はこの客人と大事な話がある」
村長は村人達にそう呼びかけるも、村人達はその場に残ってひそひそ話を始める。
「聞こえなかったか? 帰れと言ってるんだ。それとも、都市に行った子供達に今日お前らがした事を報告されたいか?」
そう言うと、村人達はクモの子を散らすように各々の家へ帰っていった。
「さて。世界一のクラン連合たる夜王の巣の、しかもその隊長サマがこんなへんぴな場所へ何のご用で?」
「簡単な話が、さっき起きた事について詳しく説明を頂きたいのです」
「なぜお前に説明しなきゃならない?」
「僕は彼女を採用し、龍人の家と信頼関係を築きました。その様な立場である以上、僕は貴方から事の顛末について説明を受け、しっかり家に報告しなきゃならないのです」
「……ふむ」
村長は頭を掻いて少し俯いたあと、顔を上げて言う。
「説明をするにはするが、約束して欲しいことが一つある。お前には事実を伝えるが、それを家に報告する時は、家と村の関係が崩れないようにして欲しい」
「何故です?」
「この村はアイツらが安全に食料や生活必需品を買える唯一の村であると同時に、俺達もアイツらが出してくれる金に依存してる。だから俺達はアイツらに絶縁されたくないし、こっちからも絶縁したくない」
(……何とも、難儀な)
「どうだ? 約束してくれるか?」
「分かりました、約束しましょう(まあそれはそれとして、包み隠さず報告するけど)」
ホッと胸をなで下ろす村長。
「それじゃ、付いてきてくれ。貴重な第三者として、お前には色々見て貰った上でどう報告するか判断して貰いたい」
フランは軽く頷き、背を向けて村の中に入る村長のあとを追うのだった。
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