第13話 アゼリアと遊んだよ

 何か暖かい物に包まれた気がするが、気持ちいいのでそのままにした。

 伯爵は言葉が理解できるかどうか知りたがっているが、エカテリーヌ夫人が窘めたしなめる。


 「むぅ、言葉が本当に理解できるのか、判らんではないか!」

 「あなた、そんなに大きな声をあげたら、アルティスさんが起きてしまうじゃありませんか。それに、先程挨拶してたじゃありませんか。」

 「いや、しかしだなぁ・・・あれだけでは、確信が持てぬというかだな。」

 「あら?、あなたは、ペティを助けて下さった恩人に、無碍むげな事をする気ですの?。」


 エカテリーヌ夫人は、ケイン伯爵をとがめる様に睨み、言い含めた。


 「い、いや、そんな事をするつもりは無いが、気になるではないか。会話が成立するとなれば、お前も話してみたいと思うのではないのか?」

 「思わない事もありませんが、無理やり起こしてまで、やろうとは思いません。時間はたっぷりありますもの。後でゆっくりお話しできれば、それでいいですわ。だから、今日のお話はお終いって事でいいかしら?」

 「うむ、仕方あるまい。今はここまでにして、後でまた話を聞く事にしよう。」


 一旦お開きになり、部屋から退室する事になった。

 夫人はアルティスを抱き上げた。


 「それでは、私の部屋へ連れて行って、寝かせてあげましょう。」

 「「!?」」


 ペティとアーリアが慌てて、夫人を取成とりなしにかかった。


 「お待ちください!?お母さま!お母さまの部屋では、リアの出入りに支障を来しますので、私の部屋か、リアの部屋でお願いします!」

 「そうかしら?私の部屋にペティが居れば、問題ないのでは無いの?」

 「アルティス君のパートナーはリアですので、起きた時にリアが居なければ、暴れる可能性もあります!!」

 「大丈夫よ、少しくらい暴れても問題無いわ。」

 「いえ、先ほども話した通り、一撃で盗賊を殺せる程の力がありますので、奥様を危険にさらす事にもなりかねません。」

 「そう・・・わかりました。では、私から奪い取りなさい!!」

 「「ええええええ!?」」

 「冗談よ、ウフフ」

 「じょ、冗談が過ぎますよ・・・。」

 

 3人はペティの部屋のベッドにアルティスを寝かせ、アーリアは、肌着を着替える為に自分の部屋に行った。

 まだ、外は明るい為、アーリアは防具を外す事はできないのだが、今着ている肌着には、肩を怪我した時の血が付いており、腕と体にも血が流れた跡が残っている。 

 取り急ぎ肌着だけでも着替える為に、自室に向かっていった。

 残った二人は暫らく見守っていたが、全く起きる気配が無い為、ペティは、昨晩入れなかった湯浴みをする為に、エカテリーヌ夫人は、暫らくアルティスの寝顔を愛でていたが、そっと寝かせてあげる為に、部屋から出て行った。


 無人になったペティセインの部屋に、メイドが一人やってきた。

 彼女の名前はアゼリア、ペティセインの部屋付のメイドで、この部屋に自由に出入りできるメイドは、このアゼリアだけだ。

 アゼリアは、ペティセインが5歳の時に担当になり、それからずっとお世話をしてきた。

 好きな色や、花の好み、英雄譚、食事の好みから、香水の匂いまで好きな物が全て同じで、ペティセインが好きな物は、今まで嫌いと思った事が無かった。


 しかし、アゼリアには一つだけ、ペティセインが好きでも、相容れない苦手な物があった。

 それは、動物、毛むくじゃらでフニャフニャで、すばしっこくて、こちらの都合に関係無く突っ込んでくる動物が嫌いなのだ。

 アゼリアは、何故か小動物に絡まれる事が多く、今までに何度も、被害に遭ってきた。


 街の中にいる、小さなネズミには、服を齧られたり、突然上から落ちてきたり、大事に残してあったお菓子を食べられたり、買い物途中で、スカートの中に入られたりと、今まで散々な目にあってきた。

 友人と一緒にいても、被害に遭うのはいつも自分だけで、友人には笑われるばかりだ。

 街の外に出れば、角ウサギに追いかけ回される事は、日常茶飯事で、酷い時には鳥の糞が3連続で降って来た事もあった。

 そして今、ネズミとは違うが、似た様な動物が、今目の前にいる。

 ついさっき、玄関でお嬢様をお出迎えした時に、アーリア様に抱かれていたコイツ。

 一体何者なのか・・・、見た事の無い姿で、丸い頭に小さな体、2色の模様があるが、土の色と黒で正直綺麗とはいい難い。

 顔は・・・可愛い?小さな鼻が呼吸をする度に、ヒクヒクと動いていて、時折耳が動く。

 前足モフモフの毛に覆われており、足の裏にはピンク色の皮膚が見えていて、たまに、にぎにぎと窄める様な動きをする。

 顔には白い髭が何本も生えていて、眉の辺りにも同様の毛が生えている。

 街の外で追いかけて来る、角ウサギにも似ている様な気がするが、角は無いし大きさが全然小さい。

 ネズミよりも大きく、太い尻尾は20cm程の長さがあるが、ペシペシと布団を叩いたり、ぶんぶんと振り回したり、動きが止まったかと思えば、先端だけがクネクネと動き、全く動きが読めない。


 ペティセイン様のベッドを整えたいが、動物が寝ているので作業はできそうにない。

 迂闊に起こして、追いかけ回されるのは避けたいし、何よりペティセインお嬢様のベッドに寝ているという事は、ベッドに寝る事を許されたという事であり、それはお客様よりも扱いは上という事を意味しているのだ。

 しかし、無防備に寝ている姿を見ると、ちょっと触ってみたい気もする。

 恐る恐る髭を触ってみた、するとゴロンと仰向けになり、人が立っている時の様な姿勢になった。

 所謂へそ天である。


 「か、可愛い・・・」


 アゼリアは、この小動物に心を射抜かれた。

 もっと触れてみたくなり、手を伸ばすと、尻尾で叩かれた。

 もう一度手を伸ばしてみても、また尻尾で叩かれた。


 「この尻尾には、別の意思がある?まさか・・・ね。」


 少しムッとしたので、頭の方から触ろうとしたが、前足の甲で叩かれた。

 段々と面白くなって来たから、色々な方向から両手を使って、触ろうとしてみる。


 「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ」

 パシパシパシパシパシ


 手数を増やしてみたが、前足と尻尾に阻まれて、触る事ができなかった。

 うーむ・・・。


 アーリアが着替え終わって、ペティの部屋に戻って来ると、アゼリアがベッドに向かって何かをしているのが見えた。


 「何してるんだ?アゼリア」

 「ひゃいっ!?」


 突然後ろから、アーリア様が話しかけて来たので、びっくりして、変な声で返事をしてしまった。

 急に後ろから話しかけられたアゼリアが、飛び跳ねる程に驚き、焦りを見せていた。


 「こ、この小動物が、触らせてくれないので・・・、ちょっと面白くて・・・はい。」


 アルティスの姿勢は、お腹を上にして、足と尻尾を振り回していた。


 「フフフ、この体制は可愛いな、これでは触りたくなっても仕方が無い。でも、怒らせると危ないから、邪魔なら私が動かすよ。」


 怒らせると危ないという言葉が気になったが、動かしてもらえるのならありがたいと思った。

 アーリア様が抱かかえると、目を開けて鳴き声をあげた。


 「ミャミャー」『あるじが来てくれてよかった、さっきから煩いんだよね、このメイド。』

 「起きてるなら起きればいいのに。」

 「ミャ」『何か顔が怖くて。』


 ニャーニャー鳴く声と、会話をしているアーリア様を、不思議に思いながら見ていると、アーリア様が私の方を向いて、顔を覗き込んできた。


 「アゼリアの顔が怖い・・・ホントに怖いね、鼻が広がってるぞ?」

 「え?きゃぁ!?し、失礼致しました・・・。」


 顔が熱くなってしまいました。

 鼻が広がる程に興奮していたなんて。


 「あはは、あんまり怖がらせると、アルティスに相手にして貰えなくなるぞ?」

 「そ、それは、気を付けます。と、とりあえず、ベッドを掃除しますので、どいて頂けると、ありがたいいのですが。」

 「では、私の部屋に連れて行くよ。邪魔して悪かったね。」


 私は、あの小動物に揶揄われていたのでしょうか?アーリア様の腕の中で欠伸をする小動物が、可愛く思えて来るなんて、とても不思議に思えます。


 「アルティス、夕食ができるまで、私の部屋に行こう。」

 「ミャー」『ちょっと待って、あの子に撫でさせてあげて。』

 「アゼリア、アルティスが撫でてもいいって言っているよ?」

 「アルティス様、先程は失礼致しました。ペティセインお嬢様の専属メイドのアゼリアと申します。宜しくお願い致します。」


 自己紹介しながら、撫でさせて頂けました。

 ふわふわの毛並みが、気持ち良かったです。

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