第11話 モコスタビアの街に着いた

 なんやかんやあったけど、捕縛完了までそれ程時間もかかっていなかったので、再度眠りについて、朝日が出て空が白み始めた頃に朝食となった。

 干し肉を出されたが、塩辛くて食べられないよ!


 『こんな塩辛いの食べたら死んじゃうよ、他に無いの?』


 他の保存食を出してもらったが、カッチカチの固いクッキーの様なもので、カビの様な臭いがしたのでやめておいた。

 アルティスは狩りに出たが、ウサギが居らず、野鼠のねずみを捕まえて戻って来たが、アーリアに取り上げられて、川にポイされてしまった。


 『あぁー 俺の朝飯がぁー・・・。』


 ディメンションホールに、何か食べられる物が無いか探してみると、食べかけのウサギの肉があったので取り出すと、またもやアーリアに取り上げられて、今度は、焼くまで待たされた。


 「いい匂いが・・・」


 コルスが匂いに釣られて、肉の前に座ったが、アルティスはコルスの前に鎮座し、取られない様に守りに入った。

 コルスの手が肉に伸びてきたので、叩き落す。


 ビシッ

 「痛っ!ちょっと、ひっくり返そうとしただけですよ。」


 反対の手が、上から伸びてきたので、魔法を撃った。


 「ミャ」『[ファイアーボール]』

 「うわっ、あっぶ!?」

 「コルス、その肉はアルティスの朝食だぞ、お前は干し肉を食べただろ?」

 「はっ!?、すいません、いい匂いでつい・・・、少し分けてくれませんか?」

 「ミャー」『足1本だけなら』

 「足1本くれるそうだ。」

 「ホントですか!、アルティスさんありがとうございます!」


 横で様子を見ていたお嬢様が、呆れた顔でコルスに話しかけた。


 「よく貴方、朝から肉なんて食べられるわね」

 「昨日の夜動いたので、お腹が減っちゃって、てへへ。」


 焼けた肉から足1本もぎ取ったコルスは、ニコニコしながら食べていた。


 アルティスは、冷ました肉を急いで食べた。


 野営地を出発した時、アルティスはペティセインの膝の上に乗ったのだが、撫でられたり、抱き上げられたり、口の中を覗かれたりと忙しないので、アーリアの方に逃げた。


 「ああー・・・」

 『煩くてうるさくて眠れないよ!』

 「お嬢様が弄るいじるから、うるさくて眠れないと。」

 「あーん、ごめんなさいー、触らないからこっちきてー。」

 「ミャ」『ヤダ』

 プイッ

 「ぐすん」


 太陽が、中天を少し過ぎたお昼ごろに目が覚めたが、二人の雰囲気からすると、町まではまだ時間がかかりそうだった。


 ところで、捕虜はどうやってついて来ているんだろう?

 箱馬車には、前後の確認ができる窓が存在しておらず、御者と会話する為の小窓が存在しているだけで、後ろが殆ど見えないのだ。

 アーリアに聞いてみたら、後ろにロープで繋いで歩かせているそうだ。

 兵士達も訓練を兼ねているので、御者役以外は、基本は歩いてついて来ているらしいが、自動回復を任意にしなければ、無駄な足掻きあがきと言えるだろう。


 兵士達は、歩き疲れたら御者役と交代して休憩するらしいが、捕虜はそうはならない。

 捕虜たちは、転ぶとそのまま引き摺られる事になるので、必死に馬車について来てる様だ。

 馬車に乗ってる方も動けない分、腰や尻が痛くなったりするし、馬も水分や塩分を補給しなければいけないので、時々休憩を挟みながら進んでいるらしい。


 『次はいつ休憩するの?歩いている兵士は、疲労を感じるの?』

 「今さっき休憩したばかりで、次はお昼だから、目的地の少し手前だよ。兵士は滅多に疲れたとは言わないな。」


 なんと、休憩の時に起こしてくれなかったそうだ。

 兵士については、自動回復があるから、ですよねーって感じ。


 「起こしたらきっと狩りに行くだろ?」

 『あれくらいじゃ足りないから。』

 

 ここで、ペティセインに、甘やかしたい心理が働いた。

 御者役の兵士に、町に入ったら屋台の串焼きを買うよう、お願いしてくれたのだ。


 「御者の兵士に、屋台で串焼きを買ってもらって下さい。」

 「ミャー!?」『串焼きくれるの!?』

 「コルス、街に入ったら、屋台で串焼きを買ってくれ。」

 「はい。判りました。あ、御代は結構ですよ?銀貨では多すぎますし、朝のお礼もありますので。」

 「そうか、では頼む」


 町まで、あとどれくらいで着くのか聞こうとしたところで、窓の外の風景に気が付いた。

 窓の外には、広大な黄金色に輝く麦畑が広がっていて、町まで、もう間も無く着く事を教えてくれていた。


 数時間後にやっと到着した町は、高さ5メートル程の壁に囲まれていて、外側には幅5メートルくらいの堀があって、澄んだ水が流れていた。

 きっと川から引いているんだろうと思うが、畑の範囲が思ったより広くて驚いた。

 とはいえ、歩きで追いつける程のスピードしか出ていない事を考えれば、時速3キロと仮定すると、10キロ前後しか進んでいないという事になるね。

 元の世界の感覚のままだと、車に乗って進んでいるつもりで考えてしまうから、誤差が凄いよ。


 街中から流れてくる肉の焼ける匂いで、考えてた事が、かき消されてしまった。


 門の前には、街に入る人々が列を作っていて、馬車はその横を進んで行く。

 門番の検閲をスルーして、壁に開いたトンネルをくぐると、賑やかな街の風景が広がった。


 串焼きの屋台の前で停まり、御者のコルスが何本買うか聞いてきた。 

 いつの間にか、両脇を歩いていた兵士と、後ろの盗賊達は居なくなっており、衛兵の待機所に盗賊達を引き渡しに行った様だ。

 コルスは、2本の串焼きを購入した。

 1本の串焼きをアーリアに渡して、もう1本は自分の分らしい。

 串焼きは、竹の皮の様な模様は無いが、光沢のある薄い木質感のある物に包まれていて、湯気が立っていたが、アーリアの膝の上に広げて、串から外して冷ましてくれた。


 『いただきまーす!』


 タレが少し、しょっぱい気がするが、美味い。

 はぐはぐ食べてる様子を、二人が微笑ましく見ていた。

 食べ終わってしまった、包みに付いたタレを舐めとるが全く足りない・・・。


 『あるじ、あと10本買って!』

 「いやいや、そんなに食べられないでしょ?」


 窓の外の風景を眺め、通り過ぎる屋台の肉を眺めていると、屋台の親父が青色のタレを肉にかけているのが見えた。

 青い香辛料は多分、山椒だと思うんだけど、串焼きに真っ青なタレが塗られているのは正直言ってキツイ。


 『うげぇ、青いタレ不味そう・・・』

 『あっちの鶏肉美味そう!』


 忙しなく、馬車の中を動き回って、ミャーミャー鳴きながら、キョロキョロするアルティスに、アーリアが注意した。


 「館に着いたら、晩御飯食べられるからね、大人しくして。」

 『いいじゃん、初めて街の中を見たんだから、もっと見せてよ。』

 「お屋敷に着いたら、暇な時にでも街を散歩するから、それまで待てない?」

 『待てない。』


 即答したら、首根っこを摘まみ上げられて、お嬢様の腕の中に押し付けられた。

 えー、お嬢様の胸は固いからあんまり嬉しく無いんですが?


 「何かイラッと来たわ。」


 20分程で、町の中心にある領主の館に着いたらしい。

 門扉と柵と、内側の道の両側に広がる林は見えるが、建物が全然見えない。

 相当に広いのか?

 門の周辺の建物は、石造りの2階建てが多い様子だ。

 

 地震や災害が無くて、温暖な気候だから、柱も少ないし、石材が剥き出しの建物でも、問題が無いのだろう。


 門を通過して100メートル程進むと、これまた広い庭園の向こうに3階建てのでかい建物が見えた。

 どんだけ広いんだよこの屋敷・・・、町の真ん中にこんなでかい屋敷があったら、町の反対側に行くの大変だろうな。

 街の端っこなのかな?


 門からロータリーまでの道は、幅が6メートルくらいあって、馬車がすれ違う事もできる様だ。

 エントランスには、屋根付きの車寄せがあり、ロータリーに接続されていて、ロータリーの左側には広い駐車場の様なスペースがある。

 自動車と違い、馬が引っ張ってるから、停める際に馬が前後に動くスペースが必要になるんだと思う。


 ロータリーの真ん中には噴水があって、上には何かの像が乗っかってるみたいだけど、何を模ってかたどっているのかわからなかった。

 少なくとも、小便小僧では無い事は確かだ。

 ロータリーには、反時計回り方向から入り、車寄せに馬車が停まった。


 ザ・執事って感じのイケおじが馬車の扉を開け、アルティスと目が合った瞬間、驚いた様に目を見開いたが、動いたのは目だけで、声も出さずに即座に平静を装いながら、脇に避けてお辞儀をしていた。


 「お帰りなさいませ。」


 アルティスを見て緊張したのか、警戒したのか判らないが、額に薄っすらと汗が滲んできていた。

 熟練の執事をビビらせるような事は、何もしてないんだけどな・・・。

 鳴いたら腰を抜かすかもしれない。


 馬車から降りる時に、アーリアの腕の中に納まり、首だけを動かして、並んでいる人を観察した。

 アキバで見た様な、ひらひらは全く付いていない地味なメイドメイド服を着た、メイド達が並んでお辞儀していて、真っ白いエプロンもフリルは無く、外国の修道院の人みたいな印象だ。

 フードは被っていないし、カチューシャも付けていないが、全員髪を結っており、それぞれ最小限の髪留めで纏めまとめている。


 髪の色は様々で、赤、金、紫、オレンジ、青、緑、茶、黒、灰色で、目がチカチカする。

 灰色の髪の子は、それ程老けてないと思えるんだけど、白髪みたいな髪色だからか、老けて見えるよ。

 前を通り過ぎる途中、小声で「きゃー」「かわいい」「くっ」と聞こえた。

 最後のやつは一体・・・?


 エントランスホールは吹き抜けになっていて、奥にはでっかい2足のトカゲの剥製?羽が無いから、ゴ○ラみたいだ。

 その両側には壺を肩の上に担いだ、ローブを纏った女性の像が左右対称に立っていて、肩に担いだ壺には、花が生けられていた。

 その外側には、カーブした階段があり、床は赤い絨毯、壁は乳白色の大理石っぽい石で、アクセントに金の装飾が輝いていて、品がある高級感がいい感じ。


 天井にぶら下がっているのは、シャンデリア程の華美な物では無く、大きな燭台の様だが、蝋燭ろうそくでは無く、ガラスでも無い宝石みたいなものが設置されている。

 今は使っていない様だが、壁にある照明が光っていて、特に暗さは感じない。

 壁の照明も蝋燭やランプではなくて、クリスタルが光っている様だ。


 ホールの真ん中に、高身長で細マッチョ、30代くらいの髭を生やした、厳ついおっさんと、ペティセインにそっくりだが、豊満な女が並んで立っている。

 これが伯爵夫妻かな?、お嬢様の胸は誰に似たんだ?発育不良か?


 む?殺気!?

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