第10話 野営して、盗賊を退治したよ
右手には野原と小さい丘、左手側は川、後ろには森、野営は小さい丘の上でやるのかと思ったら、街道横の平らな所でやるらしい。
馬車は丘の上に上がれないのと、護衛対象のお嬢様が馬車で寝るからだ。
『丘の向こう側が見えないんじゃない?』
「見通しが悪いから、丘の上に見張りを置くんだよ。」
薪は、いつの間にか森の近くで、折れた枝やらを拾って馬車の上に積んでいたらしい。
何か、最初から野営する前提で動いていないか?しかも、この場所が野営できる場所?見通しが悪く、見張りが最低でも二人は必要になるのに、野営に適しているとは、思えないのが不思議だ。
火を点けるのに魔法を使うのかと思っていたら、火打石を使い始めたが、小枝に向かってカチカチやってるのを見ると、どうやら全員焚火などした事が無いんじゃないかと思った。
あるじが火魔法を使えるのに、何で使わないんだろ?
『あるじが火魔法か、生活魔法を使わないの?』
「うぐっ、私の火関係の魔法は、何故か爆発するんだよ・・・、死んだ兵士が生活魔法を使えてたからな、私の魔法は使わなかったんだよ。」
それじゃぁ使えないわな。
『火口になる燃えやすい物を使わないと、火が点かないよ?ほら、そこにある毛玉みたいな枯草に、火花を当てるんだよ』
「な、なるほど・・・。コルス、そこの枯草に火を点けてから、小枝を燃やした方がいいぞ。」
大丈夫かな?こいつら、火も起こせないのに、なんで野営しようなんて思ったんだ?火が起せる兵士が生きている前提で考えていた?ちょっと考えが足りないな。
いい加減お腹が減ったので、早く食べたかったんだけど、食事として出してきたのは干し肉のみ。
保存食として常備していたカチカチパンもあるが、誰も食べたがらないらしい。
干し肉は、しょっぱすぎて一口食べたら、頭痛くなってきた。
折角の塩味なのに、塩をそのまま食ってるみたいだった。
仕方ない、何か狩ってこよう。
角ウサギが何匹かいるので、一匹を奇襲して狩った。
気付かれない様に後ろから近づいて、飛び上がったら首を狙ってパーンチ!やったぜ!
アルティスが、自分より大きいウサギを引き摺って来たら、兵士のコルスの目がキラキラ輝いていた。
兵士のコルスが捌けるというので任せ、取り出した内臓を食べようとしたら、アーリアに捕まってしまった。
「内臓は食べちゃ駄目!」
『ああー、美味しいのにー、干し肉の塩味を中和できるのにー。』
野営といえば定番の串焼き、岩塩をナイフで削って、肉に振りかけている。
鍋とか無いからそれしか調理方法が無いんだけど、結構美味かったよ。
「アルティスのおかげだな。最初の一本目は、アルティスの分だ。」
『塩味は最高に美味い!』
この世界に来て、初めての調理した肉だ、肉の焼ける匂いは
猫舌で、熱々なものはやっぱり食えないみたいだが、冷ましたやつでも、肉汁がジューシーで十分美味しい。
焼いてる時、みんながこっちをチラチラみてるのに気が付いて、2匹追加で捕まえてきてあげた。
切り分けた内臓をどうやって処理するのかと思って見ていたら、地面に穴掘って入れてた。
埋める前にこっそり食ってたら、探しに来たアーリアに見つかって捕まってしまった。
「そんなに内臓が食べたいのか?」
『内臓が美味しいんだよ?、足とか要らないから、内臓だけちょうだい』
「だーめ!、お腹壊したらどうするんだ?」
『一人の時は内臓がメインだったんだよ?』
「考えておくから、今は我慢しなさい。」
『俺が獲って来たのに!』
食事が終わったら、後は寝るだけなんだけど、テントなんて当然ある訳無いので、アーリアと兵士は荷物を枕に焚火の前で、お嬢様は馬車の中で寝る事になった。
丘の上の番は、カートがやるそうだ。
このまま、何事もなく朝を迎えられればいいんだが、そうは行かない様だ。
風に乗って、革鎧の臭いが漂ってきた。
焚火に使っている木も、妙に生木に近い物が多くて、白い煙が多く出るんだよな。
まるで、
丘上のカートは知らない様だが、水分を多く含む薪はよく爆ぜるんだよな。
焚火に近い所に座っていたカートが、爆ぜた焚火の火の粉を被って、慌てていた。
完全に日が沈み、辺りは暗闇に包まれていた。
疲れ切っているのか、ルースとコルスは、小さくいびきをかき始めた。
丘下の見張り役は、メビウス。
なんか、煙草の銘柄みたいな名前だけど、フルネームだとメビウス・カルパッチョ・・・食ったら死ぬやつだな。
超不味そうだし、何かチャラい雰囲気と、何かがおかしいと思える、何かがある。
兵士って大変だね、休む暇が全然無いじゃん。
メビウスとカートは、月が真上に来るまで見張り役をやらせるらしい。
見張り役の順番は、メビウスとカート、コルスとルースの順、何故2交代制なのかというと、日が落ちて暗闇になると寝て、日が昇ると起きるので、大体、20時から朝の4時までが夜になる。
見張りをそれに合わせると、夜中の月が真ん中に来た時に交代すれば、丁度同じ時間ずつで見張りをできるという事らしい。
アルティスは寝る前に、アーリアからこの世界の暦の事を教えてもらっていた。
この世界の月は二連星で、大きい月の周りを5分の1くらいの大きさの小さい月が、大きい月の周りをグルグル回っている。
今は11月の3の週18日で、大きい月アマーティスの満月で、小さい月スクナービクは楕円形に見える。
数日前には、両方の月が満月を迎えて、
満ち欠けはあるが、アマーティスの満ち欠けと、スクナービクの満ち欠けの周期が違うそうだ。
大きい月アマーティスの満ち欠けは7日間毎に変わり、小さい月スクナービクは1日でアマーティスの周りを一周し、1日毎に少しずつ満ち欠けする。
スクナービクは1ヶ月で新月になるらしい。
つまり、1日に新月から始まり、28日に新月で終るという周期らしい。
アマーティスは、半年周期で満ち欠けするのだが、見える部分の大きさで、大体の何月で何週目なのかが判るという事だ。
判らないのは、上半期か下半期かだけで、街に行って人に聞けば判るし、最悪判らなくても、気候が変わらないので、大した問題では無い様だ。
不思議なのは、アマーティスの満ち欠けと、スクナービクの満ち欠けが同期していないという事だ。
それはまるで、あの月は、リバーシブル的な色分けになってるのかの様だ。
アマーティスに、スクナービクの影が無いなら、太陽が照らして光ってる訳じゃないって事の証明になるのだろうか。
表側が白くて裏側が黒いなら、それぞれが自転しながらこの星の周りを回っていると考えれば、なんとなく納得できる気がする。
アマーティスは、自転がゆっくりなのだが、衛星のスクナービクの公転速度は滅茶苦茶早いという事になる。
いや、アマーティスはこの星の衛星だが、スクナービクはアマーティスの衛星って事だな。
だが、地球に照らし合わせるとしたら、太陽から地球を見た状態って事になるのか。
そう考えれば、スクナービクの公転速度は月と同じなんだよね、だから可笑しいって程の事でも無いのだ。
因みに、スクナービクの公転を斜め上から見ている状態になっていて、スクナービクは、アマーティスを斜め45度の角度で、常にこちらを正面に見据えながら回っているという事になる。
スクナービクの自転がどうなっているのか、謎過ぎる。
夜間は、スクナービクの位置で、大体の時間も判る事になり、スクナービクの位置がアマーティスの正面に来ると、12時という事になるらしい。
この世界は月齢で暦が分かる、太陰暦らしく、1年は14か月で1か月28日。1年の日数は392日になる。
『1年392日あるって事だね?』
「え?もう計算したの!?」
年末年始と7の月の末日と8の月の最初の日が暗月で、その日は闇を吹き飛ばすって意味でお祭りが各地であるんだそうだが、夜は外出もしないし、家の中でじっとしているらしい。
真っ暗な中で出歩くと、オイルや薪などの燃料代が余計にかかるから、庶民は態々そんな日に、夜に出かけたりはしない様だ。
お祭りは他にも、4の月の中ごろと11の月の中ごろに両方の月が満月になるから、月宴祭っていうお祭りがあって、武闘大会とか何かを競い合う様な催しがあるらしい。
気候は比較的穏やかで、特に四季みたいな変動は殆ど無く、12の月から2の月までが、少し肌寒くなる程度の様だ。
他は、獣と魔獣の違いとか聞いてみた、角ウサギと小さい蛇は獣の部類で、目が赤く光ってるのは魔獣なんだって。
『魔獣にあたる奴なんて、ペルグランデスースとフォレストドッグくらいしか見た事無いな。』
「ペルグランデスースだって!?どこで見たんだ!?」
『森の中だよ?60日くらい前の事だけどね。』
「二月以上前の話か。なら大丈夫そうだな。」
川の中の巨大魚もそうだが、あんな巨大な物が、猛スピードで追いかけてきたら、馬車などひとたまりも無いだろう。
ハイエースのサイズに、みっちりと肉を詰め込んで、猛スピードで突っ込んでくるようなものだから、箱馬車程度の硬さであれば、ペシャンコになっても可笑しくないのだ。
だが、アルティスは今のアーリアなら、何とかなるのではないかと思っている。
いや、何とかするには、装備が少し心許無いか・・・。
「何を考えているのだ?私では、止めるのは無理だぞ?」
『剣と鎧を何とかすれば、いけるかもしれない。』
「何とかできる剣や鎧があったら、それは国宝級だぞ!?」
他にも色々聞きたいことがあったが、翌日も早い為、町に入ったら教えて貰うって約束して、アルティスは寝たふりをアーリアの影で始めた。
月が中天を過ぎて、見張り番がコルス達に代わって少し経った頃、カートが動いた。
魔力感知には、森の方から近づいてくる点が出てきた。
カートは、しばらく歩いたところで、ズボンも脱がずに突然しゃがみ、何かの鳴き声の真似をし始めた。
すると、返事を返すような同じ鳴き声が森の方から聞こえてきたので、カートが合図を送って、それに仲間が呼応したという事だろう。
魔力感知に5人が近づいて来ているのが見えている。
カートはそのまま焚火の方へ引き返して行ったが、アルティスはアーリアの影のカートから見えないところに隠れていたので、居ない事にはきっと気付かれないだろう。
アルティスは、近づいてくる5人の方を草に隠れて監視していた。
5人の身なりは、昼間の盗賊に似た服を着ていて、それぞれ腰の剣に手を置き、ゆっくりと近づいてきた。
無詠唱でこいつらを鑑定してみたら、昼間の盗賊同様に、大したステータスではなく、夜襲に適したスキルとして、隠ぺいや忍び足を持っていたが、熟練度が低いのか、はっきり見えるし、歩く音も聞こえるのだ。
背後から奇襲するべく息を殺して待った。
今盗賊たちが、アルティスの傍を通り過ぎる時に臭いを嗅ぐと、カートと同じような苦い臭いがしてきた為、こいつらはやっぱり一味なんだろうと思った。
盗賊がアルティスの横を通り過ぎ、3メートル程離れたところで、行動を開始した。
「ミャ」『頭突き!』
ドカッ!メキメキ
「ギャー!!」
「ミャ」『猫パンチ!』
ボスッ!
「ウギャッ!!」
「ミャ」『[ウインドカッター]』
スパスパッ
ドサドサ
「な!なんだ!?何が起こったんだ!?」
「と、とりあえず逃げろ!」
1人目には、尾てい骨辺りに頭突き、2人目は脇腹に猫パンチ、3人目は魔法でウインドカッターを食らわした。
突然叫び声が聞こえた残りの二人は、反転して一目散に逃げ出した。
攻撃を食らわせた3人は、食らった瞬間は叫んでいたが、地面に落ちた時には、二人は気絶して、一人は死んでいたので、そのまま放置して戻る事にした。
焚火の前に戻ると、アーリアが剣を抜いていて、傍らには気絶したカートが転がっていた。
丘の上で見張り番をしていたコルスが、気絶したカートを見て苦笑していた。
ん?苦笑?
「どこに行っていたんだ?」
『こいつの仲間を3人しばいてきた』
「しばいてきたとは?」
『懲らしめたってこと。』
「ああ、さっきの叫び声はそういうことか」
『5人いたけど、2人逃げたよ!』
「殺したか?」
『二人は生きてる。』
「そうか、ありがとう」
「コルス、ルースとメビウスを連れて、気絶してる連中を捕縛してきてくれ。」
『俺も行ってくるよ』
「3人いれば平気だと思うが?」
『逃げた二人が戻ってくるかもしれないし。』
「そうか、なら頼む」
3人と一緒に行くと、倒した盗賊の近くに、逃げた二人が戻ってきていて、近づいてくる松明の明りに怯えながら、必死に気絶した仲間を起こそうとしていた。
位置を調整して2人が一直線に並ぶようにして、1人目にストーンバレットを食らわせた。
食らった奴は3メートル程飛ばされて、後ろにいた、もう一人を巻き込んで地面に転がった。
騒ぎに気が付いて、コルス達が走ってきたので、追加の2人の上でライトボールを出して、捕縛してもらった。
持ってきた縄は、ビニールひも程度の太さしか無く、長さもそれ程余裕がある訳では無いので、盗賊達は後ろ手に結ばれて、倒れた所から引き摺ってこられた。
服には、草の汁が滲み、泥だらけになっていて、内1人はズボンが足首の所まで下がっていたので、他の3人の体で隠すように転がされていた。
カートは防具を脱がされ、手首と足首を繋ぐように結ばれていて、起きても身動きできない様にされていた。
口にはボロ布を詰めて、
『こいつらどうなるの?』
「町の衛兵に引き渡したら、犯罪奴隷になって死ぬまで鉱山で働かされるんだよ」
『尋問しないの?』
「多分すると思うけど、喋らないだろうな。」
『拷問はしないの?』
「尋問が
『効率のいい拷問方法があると言ったら?』
「どんな拷問だ?」
『
「そんなので喋るのか?」
『あるじで試してみる?』
「面白そうだが、早く寝なければな。明日に響く。」
『チェ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます