第2話 魔法を使ってみよう

 目覚めは清々しく・・・は無かった。

 土の上にそのまま寝た為か、毛がジメジメし、何か体がムズムズする。


 毛に着いた土が口に入るが、毛繕いをしてから外に出た。

 空の半分は夜だったが、半分は明るくなっていて、木々の隙間から遠くに見えるのは、オレンジ色の空と森の木々だった。

 空の明るい部分が少しずつ広がって来たので、今は多分朝なのだろう。

 

 空の高い所には星が見えており、森の中はまだ薄暗いと思ったが、暗闇程暗く感じる事は無かった。

 さすが、ネコ科は夜目が利く様で、薄暗い場所も一瞬で見える様になるのだ。


 昼間程ではないが見えない事もなく、魔力感知もあるので、探索を再開することにした。

 当分はスキルの確認と、魔法の検証、耐性のチェック・・・は、率先してやりたいとは思えないので、確認できたらって感じかな。

 だが、その前にやらなければならない事があった。

 それは、体中を駆け回る痒みを何とかしなければ、全く集中できないのだ。

 蚤かダニかは判らないが、何かが駆けずり回っている事には、変わりはないだろう。


 「ミャ」『[クリーン]』


 パァッと何かが通り抜けた感覚があったのだが、駆け回る奴には効いてない様だ。

 蚤を付かない様にするには、どうしたらいいんだろうか。

 魔法でやるとしたら、蚤は虫だからインセクトでいいとして、防ぐ?忌避する?うん、忌避の方がしっくりくる。

 

 「ミャ」『インセクト忌避!』

 シーン


 違うな。

 インセクトって言った時に、体の胸の近くで何かが反応したのを感じたので、試してみよう。


 「ミャ」『[クリーン]』


 何かを感じるが、通り抜ける物が強くてよく解らない。


 「ミャ」『[ウインド]』

 サー


 胸の辺りに何かを感じたが、それよりも目の前で起こった風に驚いた。


 これが魔法か!?


 厳密に言えば、鑑定もクリーンも魔法なのだが、目に見えて効果を確認できる魔法を行使したのは、これが初めてだった。

 いや、鑑定も目に見えているんだけど、何かこう、違うんだよ。

 頭の中に浮かんでくるだけで、周りに現象を及ぼすって事じゃないから、実感が湧かなかったんだよね。


 だけど、今のウインドは違う。

 目の前で現象として現れたんだ。

 たまたま、風が吹いただけかも知れない?全然違うよ。

 自分の顔の前から風が吹いたんだよ。

 なんかさ、初めての経験ってぞわぞわ来るよね。

 もっと試したいって思うよね?喉も乾いたしやってみたいよね?


 「ミャ」『[ウォーター]』

 ザッパン!

 ヘクチッ!


 大量の水が上から降って来て、全身びしょ濡れだよ。

 毛が濡れて、駆け回れなくなった蚤が、死んでくれた様だけど、もの凄く寒いよ。

 毛繕いで水分を舐めとっているけど、早く暖めないと風邪を引きそうだよ!


 「ミャ」『[ホットウインド]』

 ブアッ

 

 熱い熱風が通り過ぎていった。

 多分失敗したんだと思うけど、ドライヤーは確か和製英語だった気がするから、ドラ・・・、何かぞわっと来た。

 危険信号の様な気がしたので、違う方法を考えるとしよう。


 「ミャ」『[ヘアドライヤー]』

 ブオー


 強い強い、飛ばされそうだよ!ちょっと弱めて体の向きを変えながら乾かした。


 何となく解ってきたよ。

 特徴としては、基本的に英語で言えばいいらしい。

 イギリス語かアメリカ語かは判らないが、単語を繋げていけば、使えるらしい。

 法則は、が基本。

 何を使って何をするかなのだが、接続詞は要らない様子だ。


 さっき寒気を覚えたのは、ドライなんだけど、多分、全部の水分を飛ばしちゃうとかなのかも知れない。

 歩きながらも、練習はしておくけど、検証をするのなら、もう少し居心地が良さそうな場所を探して、拠点となる場所を決めたいな。

 で、歩いていれば、やっぱり喉が渇くので、漠然とではなく、大きさを思い浮かべながら、落とすのではなく、ISSで宇宙飛行士がよくやってる、水を浮かべて玉にしているヤツを想像しながら唱えてみた。


 「ミャ」『[ウォーター]』


 空中に浮かぶ水の玉が出た。

 大きさは直径20㎝程で、表面はツルツルではなく、風でも当たっているかの如く、波打っていて、反対側を見る事はできない様だ。

 上を向いて飲むのは、気管に入りそうで飲みにくいが、喉を潤す事はできた。

 少し玉から離れた所で、魔法を解除すると、水の塊はそのまま地面に落ちた。


 テクテク歩きながら考える。

 昨日みたいな追いかけられる事は避けたいから、不用意に近づくのは避けるのと、遠距離の攻撃手段が欲しいと、思ったよ。

 なんて思ってた時期もありました。

 というか、これはチートなのか?と思ってしまう程に簡単だった。


 頭でイメージを浮かべて、これだ!と思える名前を言えば、割と簡単にできてしまう、難関は魔法名が間違っていると発動しない。

 例えば、なんか、体がムズムズするので、唱えてみたら、あっさり成功した。

 木の枝何かを集めてきて、パイロットファイアで焚火もできるようになった、あ、日本語に直すと、だね。

 属性も特に制限は無いみたいで、ホーリーライトや、ウインドカッターも使えた。


 ただ、ホーリーライトを使うときに、唱えるだけでは発動しなかったのだ。

 ”聖”ってイメージが判らなくて、思い浮かんだのが、フランシスコ・ザビエルの絵で、あの頭から光がピカーってなってるイメージをしたら、普通にできたね。


 聖とは、クリスマスやらバレンタインやらが思い浮かぶとは思うけど、そこには聖人がいて、その聖人にあやかったお祭りだからね、漠然とクリスマスを思い浮かべても発動しなかったし、もちろんサンタクロースも駄目だった。

 でも、聖人とは、何もキリスト教だけの話では無くて、善行や偉業を為した人全般が対象になる筈なので、仏教や他の宗教でも大丈夫だと思う。


 では、神はどうかというと、駄目だったよ。

 神って存在が不明瞭過ぎてよく判らないというのと、元の世界の神と、この世界の神は違う可能性が高い。

 そもそも聖「人」では無いという事だろうと思う。

 だから聖人と思われる人、不特定多数の人の為に、何かを成した人を思い浮かべるしか無いので、仏陀にしたよ。


 ステータス確認をしてみたら、土魔法だけだったのが、風魔法、水魔法、火魔法、光魔法、生活魔法が増えていたよ。

 あれ?聖魔法は?と思うかもしれないが、聖属性という属性は無くて、光魔法の中に入っていた。

 

 次の日も、魔法の種類を増やしながら探索を続けていると、岩山を見つけた。

 いくつもの大きな岩が、折り重なってできた様な岩場かな?を見つけたので、近づいてみると、岩と岩の隙間に、小さな入り口と、その奥に、割と広いスペースを見つけたので、そこを拠点とする事にした。

 地面は、乾燥した土と枯葉が吹き込んだ様な場所だから、ジメジメする事も無いだろうし、周辺には、他の小動物もいるので、餌にも困ら無さそうだ。

 水も割と近くに池を見つけたので、魚も居そうだし、良さげないい場所だね。


 丁度いい住処を見つけたら、そこを中心にして、まずは、周辺の環境調査からだ。

 危険な生物が居たら怖いから、先に確認しておくよ。


 池の周辺を見てみようと来てみたが、手つかずの池には、魚が豊富にいる様で、池の畔にある木の枝が、池に覆いかぶさる様に生えていたので、登ってみた。


 池の水は凄く綺麗で、アオコも無いし、ヘドロも沈殿していない。

 一部からは、水が湧き出ている様子が見えるから、透明度が高くて、泳ぐ魚も丸見えだ。

 水深は、よく判らない。

 透明度が高すぎて、泳ぐ魚が宙を浮いているように見え・・・あれ?、あの魚浮いて無いか?、あっ!捕食した!。


 バシャッと音を立てて、宙に居た魚が、水の中の魚に食らいついたのが見えた。

 さすが異世界、空中を泳ぐ魚がいるとは・・・。


 中々に広い池の様で、少し離れた所には、黒くて大きい影が泳いでいる。

 あのデカさは反則だよ、この池のヌシなのか、体長5mくらいありそうだ。


 あれには関わらない様にしたいと思った。


 今日はまだ、何も食べていないから、お腹も減ってきたし、どうにかして魚を食いたい。

 どうやって魚を獲るか・・・泳ぐ?いや、犬かきくらいしかできる気がしないし、空中での行動も覚束おぼつかないのに、水中で魚より器用に泳げる気がしない。


 漁をする方向で考えた方がいいのだが・・・。


 とそこで、魔力感知の赤い点がこっちに近づいてくるのが見えた。

 池を見ると2mくらいの魚が、少し手前で潜ったと思ったら、真下から垂直に飛び上がって、枝に乗る自分を狙ってきた。

 

 またスローモーションになって、飛び上がってくる魚がじわじわと近づいてくる。

 急いで、枝の根元の方に飛び退いた。

 すると、スローモーションが解け、魚が俺の居た場所に食らいついてぶら下がった。

 魚の口は、直径50cm程の大きさがあり、長い牙がたくさん生えていて、枝に牙が刺さって抜けずに藻掻もがいいている。


 チャンスだ!こいつを陸に飛ばせば食える!


 そう思ったが、どうやって陸の方に飛ばすか、方法を考えた。

 簡単に、枝にぶら下がって、猫キックで陸に飛ばせばいけるが、それでは自分自身が反作用で池に飛ばされる訳で、危険が危ない。

 この爪は、木でも豆腐を切るかのように、切ってしまうのだ。

 どうにか、こう風魔法で空中に足場を作るとかできないかと思い、試しにやってみた。


 頭の中で、空中に浮かぶ板をイメージしながら、魔法を唱えようと、適当な名前を付けて言ってみた。


 「ミャ」『[ウインドボード]』


 何かが目の前にできた気がするが、何も見えない。

 だが、魔法が発動した感じはあるし、目の前に何かがあるのは判る、何故なら、魔力感知で見えているからだ。

 透明な板がそこにあるのだが、飛び乗る勇気が出ない。


 これを動かして、あの魚を陸に飛ばす様に、ぶつけてみるってのがいいかも知れない!

 と、動かそうとした瞬間に、霧散した。

 時間切れか?と思ったが、何も板に拘る必要は無くて、普通にショット系で、魚の頭と胴を切り離す様に撃てばいいと気付いた。

 魚の真下に、斜めにボードを出し、スパッとウインドカッターで切った方が確実かもしれない。


 落ちたら、ボードに当たって陸側に飛ばされる?流される感じでいいだろう。

 テレビで見た、冷凍された魚が、ローラーコンベアーを滑って行く様なイメージだ。

 何枚出せるか、検証してみると、4枚ものボードを維持できたので、魚を滑らせて陸に落とすルートを作った。


 「ミャ」『[ウインドカッター]』


 エラの近くでスパッと切って、下に落とした。


 上手くボードの上を滑って、陸に落ちた魚は、血をダラダラながしているので、血抜きの為に尾びれを落として、血抜きした。

 魚特有のぬめりも強く、気持ち悪いので、爪を使って皮を剥いで、脂の乗ってる腹の周りだけ食べて、残りは放置した。

 正直、味はいまいちで、塩も醤油もわさびも無いから、淡水魚特有の臭みが感じられた。

 味は淡泊で、要は、塩が欲しいと思った。


 池の周りを探索してみたら、湿地になっている場所があって、そこには、泥炭層があった。

 泥炭は、沼や池などに沈んだ草や木が積み重なり、炭素を多く含む泥になった層の事で、乾燥させれば燃やす事ができるそうだ。


 その泥炭層の先には、水の綺麗な小川があった。

 流れはそれ程は早くなく、川底には、赤や緑、金色の何かが見える。

 

 気になったので、水の中に入って見てみようと思った。

 冷たかったけど、ついでに体についた蚤とかを落とすつもりだ。


 朝に落としたんだけど、上から水を被った為か、お腹周りの蚤は死んでないんだよね。

 浅瀬で頭以外を水に浸けてたら、奴らが頭に集まりやがった。


 「ミャ」『[バブルウォッシュ]』


 バラバラと蚤やダニが頭から追い出されたり、泡に捕まって水に流されていく。

 蚤やダニは、毛の間を走り回り、腹が減ると血を吸うのだが、これが凄く痒いのだ。

 水中を見るつもりで入ったが、頭を水に突っ込む勇気が出なかった。


 「ミャ」『[ヘアドライヤー]』


 濡れた体が寒いので、ヘアドライヤーで乾かしたのだが、ドライを覚えて全身一気に乾かしたいよね。

 小規模だが、一応範囲魔法で、適当にやると体の中の水分まで消えてしまう可能性がある。

 当然、そんな事になれば、ミイラ化して死んでしまう事になる。

 だから、まずは、どこかで実験をしてから、体に使おうと思うよ。

 自分の魔法で死ぬなんて御免だからね。

 

 ふと、水に濡れない様に、体毛だけを撥水にする事ができないか、試してみた。


 「ミャ」『[ウォーターリペレント]』


 成功したらしい。

 薬品じゃないから、舐めても平気だし、水の中に入っても、出れば一瞬で乾くんだ。

 でも、これって、ラッコや水鳥と同じ様な物だから、毛の間に空気の層ができて、浮いちゃうんだよね。

 水に潜る為には、もう一工夫必要って事だ。


 川底の何かを調べるには、顔を突っ込まないといけないが、息が続かないだろうし、流れが穏やかとは言っても、流される危険性がある。

 流されれば、あの巨大魚のいる池に、まっしぐらだ。

 なので、浅瀬で泳いでみたら、スイムというスキルがもらえた。

 チートかよ。


 水に顔を付ける為の魔法を考えてみた。


 「ミャ」『[ウォーターカーテン]』

 ガボガボゴボ


 失敗だよ、死ぬかと思ったよ。

 滝の中に顔を突っ込んだみたいに、何も見えないんだ、しかも呼吸できない。


 「ミャ」『[エアバブル]』


 今度は正解だった様だ。

 風が動いてないから、水面がざわつかないし、継続発動にすれば、空気の層を維持してくれる。


 水中で見た川底には、宝石の原石らしき石と、金色に輝く塊がいくつも見えた。

 藻が生えている様子も無く、水深30cmの川底には、赤、青、緑、黄色、金色、スカイブルーに黒いのも見える。

 鑑定してみると、ルビー、サファイヤ、エメラルド、ゴールドナゲット、アクアマリン、ブラックオパールにダイアモンドと、様々な宝石が沈んでいた。

 

 使う事が有るか無いかは判らないけど、持っていても損は無いだろう。

 持って行く手段が今のところ無いけども。

 それと、体が沈まないから、水面で必死に泳いで確認したよ。


 川の中は、とりあえず置いておいて、日も傾いてきたので、一旦住処に戻る事にした。


 住処に近づいた時に、角ウサギを見つけたので、襲撃して巣に持ち帰って食べた。

 残りは明日の朝食べるとして、奥に置いておく。


 周りに小動物らしき点が、いくつもあったので、頭と足と食べない内臓を外に捨てておいた。

 寝てる間に侵入して来やがった奴は、威嚇して追い出した。

 毎度毎度やられるのも、癪に障るし、基本的には入り口を毎回塞ぐ事にした。

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