隣室のぬらりひょん

新棚のい/HCCMONO

隣人のぬらりひょん

 アパートの隣室にぬらりひょんが住んでいる。アパートは七畳一間の単身者向け。当然ながら、ぬらりひょんも一人で住んでいる。魑魅魍魎と同居はしていないようだ。


 ぬらりひょんは年がら年中、藍染めの浴衣に硬い木の下駄のいでたちをしている。

 ぬらりひょんは電池が切れかかった玩具の人形のように、ずるりずるりと動く。

 いつ急に止まるか分からんので、見ているこっちは気が気じゃない。


 ぬらりひょんは出かける際は血を浴びたように真っ赤な買い物カートを押している。

 あんな真っ赤な買い物カート、どこに売ってるんだろう。少なくとも八事のジャスコのシニア用品売り場には売ってなかった。


 ぬらりひょんは実家の仏間の臭いがする。老人特有の体臭と線香臭さが入り混じったあの臭いだ。死にかけの臭い。嗅ぐたびに冷や汗が出る。


 一応隣人なので遭遇したら軽く会釈はする。なるべく関わりたくはないが、最低限の社会性としての会釈はする。そして、自分の部屋の鍵をかけてからホッと息を吐く。ぬらりひょん、まだ生きとったんか!


 見守りサービスでもないのに、ぬらりひょんの生存確認をしてしまう。ぬらりひょんが変死したらどうしよう。このアパートが大島てるの事故物件サイトに載ってしまう。何より隣室で死なれたら臭くなるのでは? と不安になる。


 こうなったらヤクルトレディにでもなってぬらりひょんの生存確認を仕事にすべきかも知れない。無報酬でぬらりひょんの生存を心配しているのは割に合わない。生存確認代を払えよ、ぬらりひょん。

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