第2話

自宅へ戻る神守クロウ。

彼が棲むのは、古びた神社だった。

住居用の建物に足を運ぶと、部屋の奥から匂いがする。

それは、醤油やみそと言った、腹が空く匂いを放つものばかり。

台所で料理を作っているのだろう、神守クロウは靴を脱いで居間へと移動する。


「ただいま」


そう言って、神守クロウが顔を出す。

其処には、巫女服を着込んだ女性が料理を作っていた。

黒曜石のような漆黒の髪を一房に纏めた女性であり、神守クロウの登場に対して、彼女は満面の笑みを浮かべて彼を見る。


「御帰りさない、あなた」


と。

彼女はそう言った。

その言葉を聞いた神守クロウは鬱屈とした様子で、上着をハンガーに掛けて壁に打ち付けた釘に掛ける。


「今日、来るって言ってたっけ?天羽さま」


そう神守クロウは言うと、居間から庭へと続く戸の鍵を見る。

鍵は施錠されていた、玄関も入る時に鍵は掛かっていた。


そして神守クロウは戸を開けて、天羽と呼ばれた彼女の肩を抱く。


「あ、ダメですよあなた、まだ料理が出来てないんですから」


そう言いながらも頬を赤く染める彼女。

満更でも無いと言った様子であった為に、恐らく身を浄めているのだろう。


「御帰りはあちらです」


そう言って神守クロウは戸から庭に向けて天羽を投げ捨てた。

戸を閉めて施錠をする神守クロウ、指を使って素早く特定のチャンネルを出すと共に、奉納額を入金した後に手を叩いて奉納する。


「あぁ、御無体な、あなた、これがDVと言うものですか?」


「俺は貴方と結婚してないですよ、天羽さま」


彼女が神主で無ければすぐにでも警察に連絡したかった。

天羽と呼ばれる彼女は神主であり、神守クロウが〈影呑〉の権能を使役する際に奉納している〈影の神〉であった。


「施錠をしても無駄ですよ?あなたさま」


そう言って、天羽は戸に手を掛けると、するりと部屋の中へと入って来る。

彼女の権能は物体を擦り抜けたり、姿を消す事が出来る権能を持っていた。


「折角、お料理を作ってお待ちしてたのに」


神守クロウは台所で作られていた料理を見た。

どれもこれも、高級品な調味料や食材ばかりで、見るだけでも胸やけを起こしてしまいそうだ。


「はい、なので先程、料理代を奉納しましたので、お帰り下さい」


そう言うのだが、天羽は素直に頷く事はしなかった。


「そう仰らず、明日の朝まで、私は休暇を取ってますので、…こういう時に顔を出さなければ、あなた、浮気してしまうでしょう?」


浮気も何も結婚すらしていない。

彼女が行っている事は不法侵入である。

だが、人の法律など、神に通用する筈が無かった。






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神様も配信する時代、拝神者として活動してたら神様からスカウト&ストーキングされる主人公、現代ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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