第3話

魔人たちを一掃したサンドリヨン。

体中に舞う硝子の破片が、彼女の肉体へと戻っていく。


「皆さん、もう大丈夫です、安心して下さい」


そう言って微笑みを浮かべるサンドリヨン。

彼女の柔和な笑み、天女の如き相貌に、女性たちは安堵を覚えると共に泣き出した。


「ありがとう、ございます…ありがとうございます」

「死ぬかと、思いました…死にたく無かった…ありがとう、ありがとうございますッ」


感謝の言葉を聞き、サンドリヨンは優しく頷く。

そして、全員が無事である事を確認した後に、サンドリヨンは当面の問題を確認する。

トクサ、である。

気絶する様に眠る彼が、何者であるのかが分からない。


「…皆さま、外は暗く、歩くのは困難かと思われます」


そう言って、サンドリヨンは指先に魔力を集中する。

魔力は一筋の火へと変わり、辺りを照らした。


「こんな所で野宿をするなど、嫌かも知れませんが、魔人を全滅させた今、此処が一番の安全な場所です、夜明けと共に行動をしますので、どうか納得の程をお願いします」


そう言った。

今の彼女達に、聖女であるサンドリヨンの言葉を否定する者は居なかった。

その後、近くの廃材を使ってサンドリヨンは火を点けて焚火をした。

火を囲う様に、女性達が暖を取っていた。

魔人に行われた行為が、時折頭の中で駆け巡るのだろう。


「うぅ…ぐすっ」

「おかぁさん…あぁ…」


涙を流す女性が複数居た。

彼女達の心に、癒えぬ傷を作ってしまったと、サンドリヨンは思った。

もう少し、到着が早ければ、この様な事態にはならなかったかも知れない。


(無事である事など、最低レベル、彼女たちはこれを機に悔やみ、嘆き、恐れてしまう…私のせいで、私が遅れたせいで…)


サンドリヨンの心は暗くなっていた。

俯きながらも、彼女は近くで眠るトクサを見ていた。


(けれど…本当に、この御方が登場しなければ、私は魔人たちに犯されていた、他にも魔人の増援が居たのも確認しましたし…もしも、魔人の要求に従っていれば…彼女達の命も無かったでしょう)


トクサが何者であろうとも。

彼が魔人と同じ様に変身したとしても。

それでも、トクサは人々の為に怒り、力を発揮したのだ。

その勇姿を見て、サンドリヨンは彼が敵では無い事を願うばかりだった。


「…ん、」


彼が寝苦しそうにしている様を見る。

顔を顰めていて、何か魘されている様だった。

心配する彼女は、銀色の髪を揺らして、トクサへと近付く。


「ね、ぇ…さんッ」


涙を流すトクサ。

その苦悩を浮かべる顔を見て、サンドリヨンは手を伸ばす。


「…泣かないで下さい」


トクサの頬をなぞるサンドリヨン。

彼が人類の敵である筈がない。

こんなにも、綺麗な涙を流しているのに。


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