第5話 契約締結事実証明の証拠

 目が覚めた場所は自分の部屋のベッドの上だった。

 何気ない毎日浴びるその朝日に俺の細胞は起床を図った。

 

 これ……先ほどまでのは夢だったのか……?


 俺は起き上がり、そんなことを自分に訊ねる。

 その答えを俺は知らない。

 この世界が知っているはずだ。


 俺は寝起きの目をゴシゴシと擦り、自らの頬をバシッと叩いた。

「ああ……きっと夢だ……きっと……夢だ」

 そう自己暗示する。

 そして、ベッドから出ようとしたその時。

 俺は目を疑った。


 そこには、俺に「お前が見たものは現実だ」と思わせるのにふさわしいものが吊るされていた。

「……やっぱりか」

 俺は落ち着いて、その現実を認めた。

 俺のこの様子を見て、案外冷静だなと思う者もいるだろう。実言うと、俺があの出来事を夢だと思っていた脳の割合はかなり少なかったのだ。

───夢かもしれないけど、まぁ、現実だろうな。

っていう感じのテンション。

 だから、正直、これがあることも覚悟していた。


 そんな感じで俺は鮮血に染まったシャツを通り過ぎ、朝の支度へと向かった。


*****


 つまりは、白羽天の存在、そして、俺が彼女たちと「シニガケ契約」を契って、天使との関連性を持ってしまったことも事実ということだ。

 そして、俺は昨日ナイフに刺されて、致命傷を負ったはずである。あのシャツが動かぬ証拠だ。本来ならば、俺はここにいないはずだ。天使たちの仲間になっているはずだ。

 しかし、俺は今そうなっていない。先ほど確認してみたが、背中には傷一つ残っていなかった。


 俺はあの時、もうしばらくの生を欲し、そして今、生きながら得た。


「目が覚めたようですね」


 俺が第二ボタンを締める作業に取り掛かっていた時、背後から聞き覚えのある声がした。

「なんで入ってきてるんだよ……俺まだ着替え中だよ?」

「男性だから良いかなって思いまして」

「プライバシーないな……まさに男卑女尊だ」

 俺はそう言いながら呆れ顔。

「とにかく、学校に行きましょう。この調子でいくと、遅刻しますよ」

「時間帯的にはいつも通りだから、この調子なら余裕で間に合うぞ。だから安心しろ。転校生」

 俺はそう言いながら、制服に着替え終わった。

 荷物の準備はまぁ、大丈夫だろ。一通りは終わっているし。

「それじゃ、俺は行くぞ」

「もちろん私も着いていきます」

 そう言いながら、彼女は俺の背中に着いてきて、俺は登校した。


*****


 そして、登校の時。

「それにしても、随分落ち着いているのですね」

「まぁ、死の覚悟もしたし、心当たりありまくりだからな」

 この状況を選択したのは俺だ。

 こうやって、彼女と登校しているのも、彼女と「シニガケ契約」によって繋がっているからだ。だから俺は彼女がこうやって着いてきていても、特に何も咎めない。

 そういえば、俺は彼女によくこの「シニガケ契約」とやらがどんなものなのか聞いていなかった。その教えてもらう予定だった昨日、俺は見事に彼女のその予定をドタキャンしたからだ。こればっかりは本気で俺が悪い。

「というわけで、確か昨日契ったであろう「シニガケ契約」について教えてくれないか?本当にすみませんの限りなのだが」

「そうですね……まぁ、知りたいという気持ちは大変分かりますので、説明はしますよ。昨日のことはまだ怒っていますが」

 やっぱ、怒ってますよね。

 彼女はプンプンと腹を立てながら、頬を膨らませた。

 頬っぺた。もちもちしてそう。触りたい……。


 しかし、彼女は学校に着くまで解説を開始はしなかった。

 俺が何故、ここで始めないんだ?と訊ねてみると、どうやら、登校しながらの説明は彼女にとって結構難しいとのこと。


 そして学校に着き、我らの教室に入ると、そこには多数の生徒が会話をしながら、授業時間までの余暇を過ごしていた。

「それではこの教室全体を使って、解説をしましょうか」

 彼女は突如そんなことを言った。

「は?そんなこと言っても、もう結構人がいるし、そんな自己中なことはできないだろう?」

 すると、白羽はニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

「私たちが邪魔にならない時空に移動すればいいのですよ……」

「それってどういう……」


 瞬間、俺の感覚神経が捉えた情報がすべて微妙に歪むような……不思議な感覚に陥った。

 それは、違う世界に行く瞬間のような感じであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る