第2話 ホテルにて
某県のホテルの一室にて、
四人の男が、
と言うより一人の話を二人が聞いて、一人はお茶を入れていた。
彼らは都道府県懇親会の参加者である。
現在、都道府県懇親会は二日目。
我が県の待合室で
熱弁をふるうのは、一見成人したかも微妙で座高は高いが身長はそれほどでもないこの中では最も若い男
備え付けのテーブルを挟んで
身長は小さいが引き締まった体をした丸顔の中年と
背も丸くなり杖が手放せない弱弱しい姿はもはや寿命であろうという老人は静かに座り彼の話を聞いていた。
最後に若い男よりは年上で品がある中性的な男、このホテル滞在中ホテルより派遣された老人の世話役である。
世話役は人数分お茶を入れると老人の脇に控えるように立つっている。
「もう、他の奴らとは話がついてんだよ。
俺らはもう我慢できねぇ。いや、忍耐もここまでくりゃあ十分すぎるもんだ。
俺らが何をしたよ。
たかが、ど田舎に生まれただけじゃねぇ―か。
一生が決まっていて農家の子はとかってのも耐えてきたし、続けてきた。
なのになんで価格決定権すらできねぇんだよ。
俺らは安全で安心な商品を作っているだけじゃねぇ―かよ。
なんで、なんで此処まで雁字搦めにされて耐え続けなけりゃいけねーんだよ。
お、俺らは、正当な対価をもらってないだけだろ。
意見を言うための機会さえ減らされている。
もう、実力行使しかないんだよ。
政治家だって、協力してくれてるのは半分もいないじゃんか
時代が違うんだ。親父や時光様の時代とは。
俺らはこの会議でも言うし、全員から賛同を得られなくても実行する。
もう、今しかないんだ。」
息を整えて、お茶を飲みほした後に
「罵ってくれていい。蔑んでもらっても、大罪人として、国に裁かれようともやるんだ。
じゃあ、他の奴らと会合があるからな。」
そう言って、老人に頭を深く下げて部屋を出て行った。
彼はそのまま集合場所に急いだ。
(次の大会場にて議題で一通り伝える。)
遊び場なんてない。
医療施設やスーパーなんて車を使った距離にしかない。
それでも良かった。
今やインターネットはあるし、色んな娯楽もある。
ただ、人の尊厳たる子供を作り、育てようと思えば出来る。出来るがもはや限界だ。
自分の生まれた故郷・豊かな自然の残り、農業で都会とは違うゆったりとした日常の流れる世界。
そんなものは幻だ。
でも、我が子を育て上げる。その為なら、俺は鬼にでもなってやる。
彼が去った部屋では、中年が老人に謝罪をしていた。
「愚息が大変失礼をいたしまして、申し訳ございません。
お詫び申し上げます。
あいつも、若い世代の代表として選ばれからここにいるのに自分の行動の意味すらはき違えやがって。」
中年は頭を深く下げ、老人に謝罪する。
老人は茶を一口飲むと
「いや、あれはよくある事な。お前さんだって大学から帰ってきたときは不満を隠さなかっただろ。
若いもんは血気盛んで良いことさ。まあ、内容は褒められたもんじゃないし、方法も間違ってる。
でも、一端の面になった事は喜ばしい。子によって親に成るって言うけどあれだな。
汚名を被るって言ったんだ。並大抵の覚悟じゃねぇのは分かる。ただ………。」
老人は息を多く息を吐くと
「俺らの責任も大きいかもしれねぇ。若い奴らを追い詰めちった。
俺らは何とかなると思っていたが考えが甘かったな。
あいつの考えに似たようなもんは何回か聞いたし、止めたり、諭したり、してな……。
何とかなるだろうと思っていたけど駄目だったな。
俺の上の世代には人的被害は絶対出すなってのが当たり前だった。
戦争を経験しているからな。あんな経験はこりごりだ。俺も、俺らに続く世代もな。
だからって、甘い対応をしすぎたな。」
前傾姿勢で深くため息を吐き続け、目頭を押さえる。
少しすると滴が枯れ枝の様な手からあふれ出てくる。
沈黙が場を支配して五分程、体感にして二時間の後
「田吾作、お前いくつになった。」
老人が口を開く。
「今年で五十です。」
間髪入れずに答える。
「じゃあ、帰ってきて二十五年くらいか。
そうか、俺が代表に選ばれてから四十年は経ってるのか。
何でも変わるよな。
そうだな………。
分かった。あいつらの邪魔は、俺はしない。賛成しよう。
ただ、暴発や無駄な被害は出させないようにする。
出来るなら、俺ら上の世代であいつらが動く前に俺らの世代が動く。
そうするしかねぇ。」
杖で身体を支えながら、ふらふらと立ち上がり、
「田吾作、
全代表者に連絡して、我が県の方針を通達。
その後、話し合いの参加を要請しろ。
電話とか館内放送みたいな機械を使うな。
一部屋一部屋に、訪ねて回れ。
俺の世代なら意味が分かる。近くからでいい。急いで行け。」
ばねのごとく田吾作が瞬時に走り去る。
乱暴にドアあが閉まった後、
「藤原殿、どうぞお座りください。」
傍の男に席を勧める。
・都道府県懇親会
歴史は旧く始まりは江戸の頃の伊勢参りに端を発するとされ、伊勢参りに全国から各村や町の名主や商人・百姓が情報交換を定期的に行
うためだとされている。
会の形式や会則が正式に決まったのは明治の頃とされており、現在各都道府県より代表者が三人選ばれ会議に参加する。
代表者の選抜はそれぞれの県によってさまざまあるが、条件が二つ。
・所帯を持つ者。
・年代別に一人ずつ選出すること
それぞれに呼称があり
成人から四十二代までを素焼
四十代から七十五代までを本焼
七十代からを上絵
が基準となっている。
暗黙の会則として都道府県からは政治家の代表としての参加は認められていない。
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