第5話 ブランドしりとり

奈良までのドライブ。

その前に、4人目のメンバーを自宅近くまで迎えに行く。

土地勘もなく、初めて行く場所だ。


当時、車には大抵何らかの道路地図帳『ロードマップ』を積んでいた。

紙に印刷された、分厚いヤツだ。

グーグルマップの有り難みは、当たり前には存在しない。

スマホや携帯で、その都度、連絡を取り合うこともできない。


今考えると、日常的に奇跡的なことを求めていた、と思う。

今回も奇跡的にスムーズに接触して、

奈良へのドライブが始まる。







さて、長い道中、会話のネタ切れ防止を狙って「しりとり」を提案。


ただし、使用する言葉を限定する。

「ブランド名に限る。」

商品名、会社名、登録商標、そういった類。

マニアックで、知名度が低い場合は、

ちゃんと説明できることがクリアの条件。


これ、実は以前、高校の修学旅行で、何気なく始めたら大当たり。

車好きの人なら、車の名前がバンバン出てくるし、

映画が好きな人は、タイトルが次々上がる。

よって、その人の趣味、趣向が白昼の元にさらされる、

面白くも、ちょっと怖い企画。








「じゃあ、僕から。《インスパイア》。

今お気に入りのメンズの『DCブランド』だよ。」


「おっしゃれぇー!」


「前に、お店で普通の開襟シャツ見せられて、

あそこの『マヌカン』のお兄さんは、

『このブラウス、お似合いですよぉ』って言うんだよ。

メンズなのにね。」


「へぇ。」


「ちょっとゆったりしているけど、

なんか高校の時の制服と変わらないように見えて、

なのに一万円ぐらいして、ちょっと躊躇した。」


※当時、初めてのお店に入った時は、

一般的な襟付きシャツの値段を確認して、

そこのブランドの相場を判断したものだ。

手頃な数千円の所から、三万円超えるブランドもあった。

すると、ジャケットは、ここなら3万円ぐらい、

こっちなら10万円超え、とか覚悟を決めて店内を回ったものだ。


「堅実ですね。」


「でも、結局バーゲンで買っちゃった。」


「次『ア』だよ。」





「ア、ア、《旭化成》」


「『なるほど!ザ・ワールド』だ。」


「『キュプラ』の旭化成。」


「お洋服繋がりです。」


「また『い』だね。い?い?い?」






「《イナックス》。」


「元の伊奈製陶だね、便器とか陶器の会社。」

※令和の今は、LIXILです。

当時、公共のトイレは、まだまだ和式が主流で、

複数ある個室なら、そのうち一つだけが洋式、だったりした。


「でも、私はTOTOが好き!」


「どうして?そんな違いがある?」


「ファンなんです。ロックが好きなんです。」


「ナァイティナイン♪ウゥー♪そっちね。ふふぅ!」


「キャハハハ!」


「次『ス』ゥだよー。」







「ストラだ、でィ、バリウス?」


「《ストラディバリウス》。バイオリンね。舌、噛みそう。」


「また『ス』!だ!」







「《スジャータ》。」


「スジャータ♪スジャータ♪、、、」

一同合唱。


「ラジオの時報だね。次『タ』。」






「《タケオキクチ》。」


「出た!メンズのブランド!おっしゃれー。」


「いつか、ここの3ピーススーツ欲しいな。」


「ガチガチの肩パッドが入っていないのがいいですよね。」


「わかる、わかる。」


「じゃあ、次『チ』ィー。」






「《千葉パイレーツ》。『ツ』ゥー。」


「何それ?」


「プロ野球チーム!」


「千葉に野球チームあったっけ?」

※当時、現在の千葉ロッテマリーンズは、ロッテオリオンズで、

川崎球場が本拠地だったはず。


「マンガの中のフィクションのチームです。」


「あっ、ジャンプだ。」


「江口寿史の10年ぐらい昔のマンガ。

『すすめ!!パイレーツ』。」


「『ストップ!!ひばりくん!』と同じ作者?」


「そうそう。」


「ひばりくん面白い。絵もかわいい。」


「へぇ、野球マンガ描いてたんですね。」


「バリバリのギャグマンガなんですけどね。」


「そういうのも、しりとりにあり?」


「あり!でいこう。その方がおもしろそう。」


「はい、次『ツ』だよ。」






「《九十九電機》。」


「パソコンのお店だ。」


「パソコン詳しいんですか?」


「ダメダメ。興味はあるけど、わかんない。」

※当時Windows98もiMacもまだ無い時代。

MS-DOSとかBASICとかのPCには、素人はメリットが見出せなかった。

大学のレポート提出もみんな手書き。

親指シフトとか噂は聞いていたが、

周囲にはワープロ派もいなかった気がする。


「次『き』。」






「《キャメル》。」


「たばこ!」


「F1のスポンサーだね。」


「次、『ル』ー。」





「ルイヴィ、、、!!キャァー今の無しぃ!!!」


「危ない、危ない!さあ『ル』だよー。」


「ル、ル、ル、《ルル》。風邪薬の。」


「おぉぉお!また『ル』だ。」






「《ルコック》。」


「ルコックぅ!?何だっけ?」


「フランスのスポーツウェアです。」


「何だかおしゃれな響き。」


「次、『く』ーですよ。」








「《クレゴーゴーロク》。」


「クレ556。錆止めだね。」


「あれ、また『く』だぁ!!」







「ふっ、ふ、ふ、いくよ!《国立音楽大学》。

く、に、た、ち、おんがく、だ、い、が、く。」


「大学も立派なブランドですね。」


「あっ!またまた『く』!だぁ!」

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