第2話 朝、出発前

「大喪の礼」当日の朝。

皆の悲しみに天も泣いたか、冷たい雨の朝であった。

2月の雨は、本当に冷たい。


世界中から要人が東京に集まって、なんてニュースを横目に、

僕たちは、アルバイト先の店の裏通りに集合。

車が十数台。20台近かったかもしれない。

通りが埋まってしまった。

ご近所にはきっといい迷惑だったであろう。


だが、一般国民は自粛ムードで、天気のこともあり、

自宅でこもっていた方が多かった、と後で聞く。

だから、迷惑かもと思っていたのは、

実は外れだったかもしれない。


そう、スーパーも映画館も遊園地も、

どこもかしこも臨時休業が多かった。

唯一、近所で営業していた「ビデオレンタルショップ」は、

大盛況だったと聞いた。

VHSの時代です。

何せ、その日のテレビは、どのチャンネルに変えても、

お葬式の中継だったらしいから。

ユーチューブもネット配信もありえない時代です。






集合時間となるが、

シフトが違って、いつもは顔をあわせない、

久しぶりの方々と話が弾んだり、

大人数だからか、出発前の事務的な意思疎通もままならず、

なかなか出発できないが、何だかのんびりムードで、

これはこれで、楽しい時間。

チーム編成はあらかじめ決めてあったので、

この点は混乱ないな、と思ったら、、、。


僕のチームは、車を出すドライバーの僕と、

後輩で一番弟子でもある男の子と、新人の高校生の女の子二人。

ところが、女の子のうちのひとりが来ていない。


確認取りたいが、スマホもケータイもラインもない時代です。


他チームにも確認し、すでに集まっているメンバーの話を集約すると、

彼女にはこのイベントの告知がされてない可能性が出てきた。

彼女と仲が良いもう一人の女の子は、自分ひとりの参加では心配そうな顔。


急遽、「公衆電話」から彼女の自宅の「固定電話」に「ダイヤル」する。


ちょっと記憶が曖昧だが、

この当時、「赤電話」は「ダイヤル」で、

「緑電話」は「プッシュボタン」だったと思う。


彼女の自宅電話番号の情報が明らかだったのは、

この場に店長がいたから、かもしれないし、

「緊急連絡網」があったからかもしれない。

「緊急連絡網」とは、メンバーの自宅電話番号が一覧になっていて、

回覧板を回すように、リレーして電話をかけて、

連絡事項を全メンバーに伝える仕組みだ。

そう、伝言ゲームです。

一覧が全員に配布されていたわけで、

何とも緩やかなセキュリティ管理であったね。

でも、そうせざるを得ない状況で、皆が当然のことと納得していた。

学校の卒業アルバムも自宅住所と電話番号が載っていたもんね。


話を戻すと、未着の彼女は、やはり今日の予定を知らなかった。

一斉送信とかラインとかない時代なんです。

連絡漏れ、連絡ミスです。

彼女はすぐに準備するから、行きたい、との希望。

彼女の自宅まで、ちょっと遠回りになるが、迎えに行くことに。

もう一人の女の子も安心したようだ。

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