バブル期の学生はこんなことしてました。

ムーゴット

第1話 時代背景

昭和天皇が崩御されて、国を挙げてのお葬式。

「大喪の礼(たいそうのれい)」の当日。

僕たちは奈良へ行った。

そんな日に旅行とは不謹慎!?

いえいえ、奈良ですから、

国の歴史と文化を再認識する旅なんです。

という、大義名分を後付けで。


時は1989年、昭和64年1月7日に崩御されて、

同年、平成元年2月24日に大喪の礼が行われた。


崩御されるまでの数ヶ月、

毎晩毎晩、NHKでは、容体を伝える下血のニュース。

昨日は500cc、今日は1,000ccとか。

輸血を行い、容体を保っていると。

定点カメラによる皇居の映像と、

厳粛な音楽がオールナイトで続いていた。

死の淵で苦しまれているのに申し訳ないが、

すでに喪に服しているような世相で、

年末年始にもお祝い事は敬遠され、

「歌舞音曲(かぶおんぎょく)」を控えることが自主規制となっていた。

歌舞音曲、何て言う言葉も初めて耳にしたわけだ。

商業施設のBGMも控えられていた気がする。





さて、旅の概要はこんな感じ。

自家用車に分乗して、十二、三台で。

もっとあったかもなぁ。

一台に三、四人は乗っていたはずだから、

総勢50人以上の日帰り団体旅行だ。


旅行のメンバーは、

大学生、専門学校生が中心で、一部高校生、一部社会人の構成。

とあるファストフード店のアルバイト仲間だ。

年中無休の店で、早番、中番、遅番、

平日勤務、休日勤務、それぞれあるが、

普段一緒のスタッフも、

引き継ぎでしか顔を合わせないスタッフも、みんな仲良し。

これまでも、連れ立って飲みに行ったり、

外飲みでバーベキューしながらのソフトボール大会したり、

カラオケに行ったり、旅行に行ったりしていたが、

年中無休の営業があるので、

当然、非番のもの同士しか集まれなかったのよ。


いつか、みんな揃って、大きなイベントがしたいね、と、

叶わぬ夢を語っていたら、チャンスが訪れた。

大喪の礼の日は、店がある商店街が一斉休業を決めたのだ。


アルバイトスタッフに歳がそれほど変わらない、気さくな店長と、

アルバイトリーダー達が計画をまとめたようだ。


朝、出発は全員揃って、まずは一度顔を合わせる。

ただ、車の数と人数が多いので、

全工程一同揃っての行動は無理、と初めから判断。

それを逆手にとって、チーム対抗戦を企画した。

車ごとに、ひとチームとして、

各チームが思い思いのルートを設定して、

ポイントを稼いでいく。

奈良ですから、お寺とかたくさんあります。


国宝:10ポイント

国の重要文化財:5ポイント

県の重要文化財:3ポイント


みたいな感じだったはず。


そして、一時間ごとに、「伝言ダイヤル」にメッセージを残して、

現在位置を知らせる、そんなルール。


「伝言ダイヤル」!!知ってますか?


今でも「災害用伝言ダイヤル」として、NTTのサービスがありますが、

あれが通常時にも使えた、そんなサービス。

つまり、録音したメッセージを暗証番号がわかる人は聞くことができる、

そんな意思疎通のためのサービスがあったんです。


スマホはもちろん存在せず、

携帯電話(ガラケーやフューチャーフォン)も一般人は持ってません。

ポケベルもまだまだ業務用で、周りで持ってる人はいなかったなぁ。


ところが大きな落とし穴が。

地元で、「伝言ダイヤル」を利用するための電話番号を調べて、

各チームに周知してありました。

しかーし、地元と奈良県では、電話番号が違ったんです。

うちのチームは、「公衆電話」に備え付けの分厚い「電話帳」で調べて、

奈良県のサービスを利用できましたが、

他のチームは、そこまで考えが回らなかったようで、

一時間ごとにメッセージを聞いても、

他のチームの声は聞くことがなく、ちょっと悲しかったね。


さて、各チームで名所旧跡を回った後は、

帰路の高速のサービスエリアで再結集。

成績発表、表彰式を取り行う段取り。


そんなこんなで、当日を迎えるのです。

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