第10話

「毎年お世話になっていた所の都合で、今年は他の部活と一緒で学校ですることになったんだけど、体育館はしばらく他の部活が使うことになっててどうしようかなって、そしたら陸上部が気を利かせて早めに合宿先に向かってグラウンドを空けてくれたんだけど」



話を聞いて思い出した、都原先生はバスケ部の顧問だった。

うん?バスケ部?一瞬、気を失いかけてしまうほどの強烈な事実を理解した。そんな都合の悪いこと、起きるはずがない。そんな思いとは裏腹になぜこんなに嫌な予感がするんだろう。



わたしの気持ちなんて当然知り得ない都原先生は涼しい顔をして言葉を続ける。



「だから去年より騒がしい校内になると思うし、陸上部の代わりになるとは思わないけど図書室でバスケ部の練習風景でも眺めておくれ、と言っても走り込みばっかりで退屈かもしれないが、あ、そうだ、体育館、使えるようになったら見に来いよ、なんならマネージャーをお願いしたいところだけど男じゃないと」


「キャパオーバーです」



スッと右手を挙手してそれを静止した。


前々から思ってはいたけど都原先生はお喋りだ、それは授業中にも発揮させるほどの実力で黒板に書くよりかは話して伝える、そんな先生の授業は嫌いじゃない、むしろ好き、だからその授業を妨害して流れを止めるクラスメイトは嫌い。ただ、今は授業中ではないから流れを止めに入る。



「えっと、あの、確認です。あ、深い意味はないんですけど、確認です、同じ学年で4組の加賀くんはバスケ部でしたよね?」


「そうだよ」


「わたしと同じ2年で4組の加賀くんですよね?」


「そう、関野と同学年の加賀隼人はうちの選手だ」


「ということは今年のバスケ部の練習場所である学校に、通うってことですよね?」


「イエス」


「加賀くんも?」


「加賀くんも」


「先島先生、わたくし急に用事を思い出しましたので、帰ります」



そう訴えても先島先生はただ微笑むだけでうんともすんとも言わない代わりに、都原先生は加賀と何かあるのか?あるのか?な?な?などのガヤガヤうるさいヤジを一方的に浴びせられる始末。



この状況は一体。



自ら罠に嵌まったのではないか、墓穴を掘ったのではないか、自分で首を絞めているのではないか、ともあれ居心地はとても悪い、が、こうなればもう開き直るしかない。



「体育館での練習に代わったら真っ先に教えてください」



鉢合わせになるのだけは避けたい、その為には情報が必要不可欠。とりあえず分かったと都原先生からそう返事を貰えただけでも、この居心地の悪さに耐え抜いたご褒美だったと思えばこれはこれで良しとしよう。



「委員の仕事、お願いね」



このままの流れでなんとなく帰れると思ったんだけど、先島先生は抜かりないな。

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