第106話

「湊」


「………なんだ」


「日本のAIに、何か頼まれたんだろう?」


「………あぁ」


「なら、ちゃんとしねぇといけねぇだろ」





日本のAI。

あの、バーテンダー。



AIの目的と、ゼロの目的。




すべてわかったわけじゃない。

だから、確証もないことは話せない。


でもバーテンダーAIは、こいつらに最終試験の出来事を伝えて欲しいと言われている。



ゆっくりと立ち上がり、机の前に行った。



それを見て、全員が集まって来た。





「……最終試験の時、何があったか話す」



ガタガタと全員が席に着いた。

それを確認して話を始める。





「あの日、俺はゼロと入れ替わっていた。

…前日に初めて外に出たんだが、色々動揺してな。

あんなデタラメな訓練をさせられていると思ってなかった」



大地、るみ、蒼、晶、千春、深春、幸架、璃久。


ここにいる8人は外組だったやつらだ。

最終試験まで残った、8人。



「……もともと俺は1234だったのをゼロと交換していた。

だから、ナンバープレートをお互いに返して、ゼロが試験に行った。

記憶媒体のテストは翌日だと聞いていたから、俺はそのまま部屋に待機していた」




椅子をひき、腰掛ける。

目の前み置いてあるカップの縁を指ですツッとなぞった。




「その時、秋信と往焚にゼロは話を持ちかけた。

2人を逃す計画だ。

ゼロは秋信と往焚には事前に試験内容を教えていたらしい。


秋信と往焚に以外の6人と試験官を全員殺す。

そのあと自分が出て行ったら、ここから出て地図の場所まで走れ、と言ったそうだ」



チラリと2人に視線を移すと、2人は頷いた。

間違って話していないかを確認しながら、話を進める。



「で、秋信と往焚には殺したと説明したが、ゼロはお前ら6人を殺さなかった。

あらかじめどこかに隠し持っていたナイフ6本につよい睡眠薬を塗って置いた。


それで軽く傷をつけ、全員を眠らせる。

でも、血が出ていなければ不自然に思われるからな。

出血が多く見えて、死に至らない場所を狙ったんだろう」




首や頭を指差しながら説明する。

血管が多く通っていても、場所によっては死なない場所もある。


そこをうまく狙った。

ゼロならできるだろう。




「全員が眠り、秋信と往焚が死んだふりをしたのを確認したゼロは、職員が柵を開けるのを待った。


そして、柵が開いた瞬間に職員全員を皆殺しにした。



それからゼロは俺のところに戻り、俺を連れ出してシャワールームに行った。

そこでプレートを交換し、ゼロのプレートは壊してその場に残した。


1234と0が一緒にいたのはよく知られてるからな。

怪しまれないようカモフラージュするために、俺に刺せと命令して来た。



ゼロにある程度の深手を合わせた俺は、ゼロに言われた通りに走って施設を脱走。


そのあとすぐに秋信と往焚も裏口から脱走した」



職員は脱走したゼロにーーー俺に気を取られていた。

正面から脱走した俺を追っていたせいで、裏口はガラ空きだったはずだ。


2人も頷いている。



「で、眠っているお前を死体回収車で"誰か"が回収。

もちろんお前らが生きているのを知っているやつだろう。

そいつは如月の母親のところまでお前らを運んだ。



あとはそれぞれ今までなんとか生きて来たってところだな」


「……湊。最後適当すぎないか?」


「……俺に一人一人の生き様を説明しろって?」


「……いや、それは言わないけど」





全員から訂正の声はない。



それを確認し、次の話題へ進むことにした。

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