第103話

「実は、2年前に中を修理したらしいんです。

………木田さんが」




おおっと。

これは、雲行きが怪しい。




「俺たちって、あんまりここから出ないじゃないですか。

あの建物よりここは奥にありますし、気づかなかったのも仕方がないかと。

……修理費用もルナが出したらしく、こっちの資料には残っていません」


「……なるほどね。

まぁ、修理じゃなくて改造したんだろうな」





前原と木田はたまに話すような中だった。

前原の父親が、木田の父親と仲が良かったから、その繋がりだろう。



それに、前原は優秀な研究者だ。

俺から引き抜くにはいい人材だろう。




「……それで?まぁ、なんの指令書かはだいたいわかる。

……昼間話した、新しい研究だろ」


「……おそらくは」


「これを俺に見せてどうする?」


「交換しませんか?」


「……交換?」




前原は、持っていた紙袋の中身を俺に見せた。


ウィッグ、服、血液、その他にも色々。

……ちょっとグロいものが。



「………なんだこれは」


「咲夜さんのお仕事、俺らにもできることですよね?」


「まぁ、…今パソコンで打ってるやつ以外は、被験体のデータ取ってまとめてるだけだからな」


「俺が咲夜さんになります。

あなたは、俺になってください」


「………は?」




急いでパソコンを切り、前原に引っ張られるまま歩き出した。

向かったのは、ナナミが使っていた部屋。



誰もいないため、監視カメラは切られている。

よく思いついたな、こんな場所。




カシャン、とドアを閉める。




「では、脱いでください」


「は?」





にっこりと笑った前原に、


俺は追い剥ぎをされた。











〜・〜





「………よく考えたな」




鏡に映る自分は、どう見ても前原だった。

しかも、もし指を紙で切ったとしてもバレないよう、前原の血が出てくるよう細工がしてある。


この血は自分で採血したものを使っているらしい。



髪の毛も細工がしてあるらしく、もはや圧巻だった。




そして、前原も。



「……俺の血はどうやって集めたんだ」


「……定期検診があったでしょう?」


「あぁ…」



そういえば、1ヶ月前にあった気がする。

いつもより多く採血された上、なぜか再検査で先日も採血された。


…それかよ




「前から予測してたのか?」


「はい。……ジュンさんに、ね」


「あぁ…。ジュンね」




前原はジュンに食事を持っていく担当だった。

その時に言われたのだろう。

…と、いうことは、この変装もジュンが考えたのか?



「…思いのほかこれを身につけるのは簡単だったな」


「はい。急いでいる時でもすぐにつけらた方がいいでしょう?」


「確かに。…声はどうすんだ?」


「これを」




渡されたのは、小さな丸いシールだった。

肌色だが、流石に貼っているのはバレそうだ。



「研究用の服は首元まで隠れますから、貼っていても見えないはずです。

口調さえ気をつければ、問題はないかと」


「なるほど。…貼ってボタン押せばいいのか?」


「はい。使い終わったら剥がして、新しい粘着テープに張り替えてくだされば大丈夫かと。


この粘着料も、なるべく肌に負担をかけないようなものを使っているので、大丈夫だと思います」


「………お前、すごいな」


「いや…。俺はジュンさんに頼んで、その、」


「………ジュン、すごいな」


「すごいです。本当に」





脳裏に、いつもふわふわと笑っているジュンが浮かんだ。


あ、やばい。可愛い。

癒される。

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