第102話

木田もバカだな。

開理の記憶を消しきれてない。


1番消したかったであろうこの情報を、開理から消せていないなんてな。


それにしても、開理は、ーーー楽生は、ここまで知っていて俺の薬と自分の薬を交換したのか。




だとすると、記憶媒体に適して生まれてくるのは俺の子供、殺人兵器に適して生まれてくるのは楽生の子供ってことになる。



まずいな。

楽生の子供は読心を受け継いでいるはずだ。



読心できる殺人兵器なんて、壊れるに決まっている。






「ナナミは読心ができた。

…それなら、この遺伝子研究に目をつけられていた可能性があるな」


「……え」


「新しい実験のことさえ知らなかったほどだ。俺は把握できていないことが結構ある。


だから、俺の知らないところで、そうやって特殊な人間をむりやりここに連れ込んでいる可能性もありえる」


「………時間があるとき、探してみる」


「あぁ。…俺も手伝ってやりたいんだけど、多くは無理だ。悪いな」


「いやいや!…ありがとうな。

恋人まで忘れてたなんて、思わなかった。

助かった。…またなんかあったら教えてくれ」


「あぁ」






ごめんな、楽生。



それじゃあな、と手を振る彼に片手を上げて答える。



ほんの少し冷めたココアを飲みながら、またパソコンに向き合った。






割といい情報が手に入った。

記憶媒体に、殺人兵器。



とても現実とは思えないそんな言葉に、正直実感はわかない。

でも、実感しなければならない。




驚いている暇も、動揺している暇もないのだ。





「お疲れ様です、咲夜さん」


「あ、あぁ。前原か」




パソコンから視線を外し、昼間に会った3人の研究員の1人、前原に視線を向けた。


こいつには幼い子供がいる。

確か、女の子だったか?


難産だったらしく、無事生まれてきたと報告しにきた時は号泣していた。




「どうした?」


「実は、…今さっき、命令が来ました」


「命令?こんな時間にか?」


「はい。…極秘で、です」


「………それを俺に言うのか」


「……………」





誰もいないとはいえ、聞かれていたらまずいのではないか。

そう思いながら、軽く前原を睨む。




「大丈夫です。…2人に、見張ってもらっていますから」


「……あいつらか」


「はい。……これを」





茶封筒に、木田誠(きだまこと)名義で指令書が入っていた。





『前原和磨


本日付で極秘任務を言い渡す。

明日より、5069に出動せよ。

なお、他言無用。

極秘であることを理解した上で行動すること。


違反が分かり次第、厳重に処罰する。



LUNA 最高司令官 木田誠』







厚めの紙に、直筆。押印もある。


紙に仕掛けはなさそうだ。

俺たちはルナの組員ではないため、監視対象でもない。



ボタンや装飾にカメラが隠されることもないはずだ。

ここの監視カメラはもうすでに切られている。




見られている心配はない、か。






「……5096?ここは使われてないはずじゃ?」




この組織には、建物が4つある。

1番奥にある青い建物がここ。研究所だ。


門に入ってすぐのところにある廃ビルのようなところは、研究員の泊まる場所になっている。


といっても、だいたいそこにいるのはルナの組員だ。




そして、その反対側に迷彩柄のドームがある。

そこには薬品や実験に必要なものが置いてあり、倉庫として使っている。


…研究室から遠すぎるとブーイングされている。



そして、中央にある白い建物。

そこは、組織建設直後に使っていた場所だった。



だが、俺が休みの日だったからよくわからないのだが、失敗した研究員が中を爆破したらしい。


直すのも面倒だった上、奥に建てた青いビルがあれば問題なかったため、立て直しもしていないはずだ。

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