第101話

「そっ。お前、付き合って1年くらいの女がいたんだ」


「マジか。…まぁ、記憶曖昧だからな。」


「なんでそうなったんだ?」


「事故だってさ」




事故…

なるほど。気絶させた楽生を車に乗せ、事故を起こした。


もちろん死なないように計算され尽くした上でのことだろう。

それでも、ある程度の衝撃を受けなからばならない。



それにかかった時間が3ヶ月、か。




「災難だったな」


「あぁ。…その、俺の恋人って?」




よし、興味を持ったな。

罪悪感に押しつぶされそうになりながら、嘘を並べていく。




「お前はナナミって呼んでたぞ?

めっちゃ溺愛してた。

同棲もしてたみたいだし、妊娠してるって聞いた」


「マジか…」


「マジマジ。…でも、ある日消えたらしい」


「消えた?」


「そう。お前、必死で探してたんだ。

…事故ったのも、恋人探してたんじゃねぇの?」


「……そうかもな」




開理は考え込み始めた。

俺の隣の椅子に座り、じっと身動き一つしないまま考えている。




少しこのままにしておくか。

俺は自分のパソコンに向き直った。








ーーーーカタカタ、カタカタ









「なぁ、咲夜」


「なんだ?」


「ナナミは、…まだ、見つかってないのか?」


「……あぁ。見つかったっては聞いてないな」


「……そう、か」


「………なんでも、人の心が読める人だったらしい」


「は?」




パソコンから手を離し、楽生の方を向く。


気をつけて言葉を選ばなければ。





「なぁ、ここで新しい研究をしようとしてるって話、聞いたことあるか?」


「あぁ。それなら数年前から聞いてる。

あまりにも現実的じゃなくて信じてないけど」





……ん?

数年前から知ってる?



ということは、楽生は俺より何か知ってるのか?




「どんな研究だ?」


「お前、副統括なのに知らないのか」


「そうなんだよ。消えた楽生って統括がかってにやってたみたいでな」




ウソです、はい。

誤魔化しました。知らないのは本当です。





「人間で記憶媒体と殺人兵器を作るんだってさ」


「……….は?記憶媒体?殺人兵器?」


「そう。なんでも、心を抜くんだとか。

人間の記憶媒体を作れば、まぁ、都合いいことあるっちゃあるからな。


殺人兵器だって、あまりにも人間離れしてれば他の組織だってむやみやたら攻撃してこなくなるだろ?」


「……あぁ。なるほど。

人間の記憶媒体、ねぇ…。

ハッキングも怖くなくなるし、監禁すれば奪われる心配もない。

心を抜けば、拷問しても情報を漏らす可能性はなくなる、か」


「そうそう」




なるほどな。

俺の子供は殺人兵器に、楽生の子供は記憶媒体にしたかったわけか。


記憶媒体なら、木田のそばに置いていても不自然ではない。

開理の目を受け継いだ子供だとすれば、木田の発言の強制力は今より上がるはずだ。



そして殺人兵器として育成した俺の子供の方は、必要ないときは檻にでも放り込んでおけばいい。

世話もしなくていいよう、おそらく食事もしなくても生きていけるように何か仕組んだか。



あいつのことだ。

そのくらいやってそうだ。

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